社内承継や第三者承継(M&A)が増加している
ひと昔前まで親族内承継が一般的だったが、近年は、社内承継やM&Aが増加しつつある。M&Aに抵抗感を抱く経営者は減り、当たり前の選択肢として検討されることも増えてきている。
帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2022年)」によると、2022年の後継者不在率は57.2%だった。2017年は66.5%を記録したが、その後は減少に転じ、コロナ前の2019年から2022年にかけて8.0ポイントも減少した。
後継者不在率が減少傾向にある理由は、社内承継やM&Aの増加だ。2022年の親族内承継は34.0%で、社内承継にあたる内部昇格が33.9%、買収や出向を中心としたM&Aほかが20.3%だった。親族内承継は減少傾向にある一方、内部昇格やM&Aほかは増加傾向にある。
コロナ禍で自社の将来と改めて向き合い、事業承継を決断した会社も多いと考えられる。事業承継の非同族化の流れは、今後も加速していくだろう。
第三者承継(M&A)を後押しする国の制度
中小企業は日本の全企業の99.7%を占め、日本人の約7割が中小企業に雇用されているといわれている中、国も中小企業を守るため事業承継を後押ししている。後継者不在の企業は、M&Aに関する補助金の情報に注目しておきたい。
たとえば、M&Aで活用できる補助金に「事業承継・引継ぎ補助金」の「専門家活用事業」がある。M&A仲介業者などの専門家を活用してM&Aをすると、仲介手数料などの補助対象経費の2分の1が補助される(補助下限は100万円、補助上限は廃業費等を含む場合550万円)。
「専門家活用事業」には買い手支援型と売り手支援型があり、要件を満たせば、買い手、売り手の双方が補助金を受け取れる仕組みだ。
2022年は7月に公募開始となり、ウェブ説明会も開催された。2023年の情報にも注目しておきたい。
事業承継に向けて早めに動き出すことが大切
親族に後継者がいないと「廃業せざるを得ない」と考える経営者がいる。しかし、社内承継やM&Aなど幅広い選択肢に目を向ければ、廃業しなくてもすむケースが多い。
廃業するとなると、多額の廃業コストがかかり、勇退後の生活に支障が出る可能性もある。廃業を選ぶのは他の選択肢が消えてからでも遅くはないので、まずは廃業以外の事業承継の可能性に目を向けることが大切だ。
心身ともに限界を感じつつも、後継者が見つからず、やむを得ず自分で経営のかじ取りをしている経営者もいる。しかし、無理を続けていると、突然、健康状態が悪化し、廃業をよぎなくされることになりかねない。そうなれば、顧客や取引先、従業員にも影響が及ぶことになる。
またM&Aでは、資産や売上によって、会社の売却額が変わることがある。売上が下がり資産が目減りする前にM&Aを考え始めると良いだろう。
事業承継は、経営者にとって最後の大仕事ともいわれている。早めに会社の未来について考え、幅広い選択肢を検討しながら、事業承継に向けて具体的な行動を起こすようにしたい。
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文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)