ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、株式会社ユナイテッドアローズCSOの丹智司氏とサステナビリティ推進部長の玉井菜緒氏にお話を伺った。

株式会社ユナイテッドアローズは、紳士服・婦人服および雑貨等の企画・仕入および販売を手がける、東京プライム市場上場の企業。約20のブランドを持ち、全国各地で店舗を運営するほか、ECサイトも展開している。同社では「サステナビリティスローガン」を掲げ、サーキュラエコノミーの構築やカーボンニュートラルへの取り組みを加速している。本稿では環境や脱炭素の話題を中心に、同社の施策や成果、今後目指すべき姿について、対談を通じて紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社ユナイテッドアローズ
(画像:株式会社ユナイテッドアローズ)
丹 智司(たん さとし)
――株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員/CSO(チーフ サステナビリティ オフィサー) 経営戦略本部 本部長
1998年入社。経理部員を経て、長期にわたりIR部門をけん引。「東京証券取引所 企業価値向上大賞(2012年)」「ポーター賞(2013年)」「日本IR協議会 IR優良企業大賞(2014年)」など 、数多くの受賞に貢献している。現在はCSO(チーフ サステナビリティ オフィサー)として IR部門の他、経営企画部門、サステナビリティ部門を統括。ミッションは「企業価値の先にある社会価値創造」で、ビジネスとサステナビリティ推進をトレードオフではなく両立させること。
玉井菜緒(たまい なお)
――株式会社ユナイテッドアローズ サステナビリティ推進部 部長
1999年入社。情報システム部門にてコミュニケーションツールの企画・運用を担当後、2004年より同社の社会・環境活動の推進に従事する。同分野に携わって19年目で、現職はサステナビリティ推進部 部長。

株式会社ユナイテッドアローズ
1989年創業。独自のセンスで国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを運営。「ユナイテッドアローズ」「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」等のブランドやレーベルを展開。売上高:1,183億円、経常利益:28億円、店舗数:310店舗、従業数:4,213名(2022年3月期連結実績)
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業承継のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社ユナイテッドアローズのサステナビリティ・環境に対する取り組み
  2. 脱炭素経営の実現に向けた株式会社ユナイテッドアローズの取り組み
  3. 株式会社ユナイテッドアローズのエネルギー見える化への取り組み

株式会社ユナイテッドアローズのサステナビリティ・環境に対する取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):はじめまして、株式会社アクシスの坂本です。弊社は鳥取県に本社を構えるIT企業です。東京や大阪にも拠点を持ち、顧客の90%は首都圏の上場企業であることが特徴です。システムの開発・運用・保守の他、10年前から再生可能エネルギーの見える化にも取り組んでいます。本日はよろしくお願いいたします。

ユナイテッドアローズ 丹氏(以下、社名、敬称略):株式会社ユナイテッドアローズでCSOを務めている丹です。弊社は衣料品の小売業を展開していまして、連結の売上高は新型コロナウイルス前の1,500億円規模から感染拡大期間中に2割ほど下がりましたが、現在は回復基調に乗っています。取扱商品はアパレルの中では中・高価格帯で、駅ビルを中心に約300店舗を展開しています。関東エリアで売上の半分を占めており、海外では台湾にも出店しています。

サステナビリティに関しては、本日同席している玉井が20年近くCSRを推進しており、2020年にはサステナビリティ・ESGを強化することから、社内にサステナビリティ委員会を立ち上げ、取り組みを進めています。

ユナイテッドアローズ 玉井氏(以下、社名、敬称略):サステナビリティ推進部の玉井です。本日はよろしくお願いいたします。丹が申し上げたとおり、私は2004年からCSRの領域で社会貢献活動や環境保全活動に関わるようになりました。その後、SDGsやパリ協定など世の中のESGに対する重要性が増したこともあり、弊社でも2020年4月にサステナビリティ推進部が独立し、私も全社的な取り組みに携わっています。

坂本:最初に、御社のESGや脱炭素に関する取り組みや成果について教えていただけますか。

:先ほど申し上げましたが、弊社では2020年4月にサステナビリティ推進部を立ち上げたことを機に、「責任ある商品調達とサプライチェーンの構築」「廃棄物削減と循環型モデルの実現」「地域社会の発展を目指した活動の継続」「個の尊重と働きがいを生む環境づくり」「10年企業を目指した経営基盤の確立」の5つのテーマと16のマテリアリティを特定しました。

また、「サーキュラリティ」「カーボンニュートラリティ」「ヒューマニティ」の3つに関しては、より打ち出しを先鋭化して取り組みを進めるということで、社長を含む全社内取締役と全執行役員、社外取締役から1名が参加するサステナビリティ委員会で議論を重ね、2022年6月に2030年をターゲットとした定量目標を取締役会で定めるとともに、その後、サステナビリティ活動全般について「SARROWS(サローズ)」と銘打ち、取り組みを進めることにしました。(「SARROWS」は、「Sustainability」の「S」と、「ARROWS」の「A」を掛け合わせた造語。)

▽サステナビリティ活動の合言葉「SARROWS(サローズ)」とそのアイコン

SARROWSアイコン
(画像:株式会社ユナイテッドアローズ)

これにより、弊社のサステナビリティに関する取り組みはSARROWSの取り組みだということを訴求しています。サイト自体は情緒的に映るかもしれませんが、数字を見ると本気度が伝わる内容になっています。これもクリエイティブ部門とサステナビリティ部門が協業し、より訴求力のある見せ方を検討し、現在の形になりました。

社内の推進体制ですが、サステナビリティ推進部には玉井を含む2名がいて、私は執行役員を拝命しています。部門自体は少人数ですが、商品部門や支援部門、間接部門、リスクマネジメント部門、IRが連携し、全社的に討議を重ねて施策を進めていますから、ここ数年でかなりサステナビリティの考えが浸透しました。

坂本:ありがとうございます。次に、サーキュラリティやカーボンニュートラリティに関して、2030年に向けた具体的な目標や取り組みをお聞かせいただけますか。

▽2030年に向けた3つの活動目標:「Circularity(循環するファッション)」、「Carbon Neutrality(カーボンニュートラルな世界へ)」、「Humanity(健やかに働く、暮らす)」と各数値目標

サステナ3つの活動目標
(画像:株式会社ユナイテッドアローズ)

:サーキュラリティに関しては、商品の廃棄率を0.1%、環境配慮商品の割合を50%に定めています。現状も明示していることが特徴で、前者は2021年度時点で1.0%、後者は2022年時点で2.0%です。透明性を担保するという意味で公表しています。例えば、調達した金額から最終的に廃棄した金額の割合を示す廃棄率は業界の中でも低水準だと思いますが、そうはいっても1%あることは事実ですから、現状を踏まえた上で2030年までに0.1%にしようと考えています。

不要となったダウン商品の回収も全店舗で継続実施しており、ダウン商品の回収と再商品化で羽毛の循環サイクル実現につなげる取り組みも行っています。(PR TIMES
(紹介している商品の販売は終了している可能性があります。)

▽「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」の「Green Down Project(グリーンダウンプロジェクト)」で販売しているリサイクルダウンを使用したダウンウェア

株式会社ユナイテッドアローズ
(画像:株式会社ユナイテッドアローズ)

▽不要となった衣料品を回収しさまざまなカタチでリユースやリサイクルにつなげる「UA RECYCLE ACTION(UAリサイクル アクション)」

商品の廃棄は3つに大別できます。1つは、いわゆる売れ残りです。弊社は5シーズン(2年半)を過ぎたものは処分していますが、その割合は3分の1程度です。もう3分の1は品質表示タグがないサンプル商品で、残りは不良品や返品されたものです。施策を講じてそれぞれを減らすことを考えています。

環境配慮商品は、プライベートブランドの商品に環境に配慮した素材などを使い、その割合を50%まで高めます。昨年12月に開催した2023年春夏商品の展示会では、サステナビリティの冊子を配布しました。弊社の考えをお伝えして、取引先様にご理解いただきながら、取扱商品を拡大したいと思います。

玉井:長期の目標も設定し、現場部門でもどのような形で環境配慮型の商品を増やしていくかという議論が、まさに始まったところです。情報管理の面でも課題があり、並行して進めています。本日も商品部門とシステム部門のメンバーが集まり、システムを改修して精緻な状況把握をしようと打ち合わせてきたところです。

:カーボンニュートラリティについては、3つの目標を掲げています。1つ目はScope1と2のCO2排出量の削減率が2019年度比30%減(2021年度実績10.8%)、2つ目はScope3のCO2排出量の削減率が2019年度比15%減(2021年度実績16.6%)、3つ目が店舗・オフィスの再生可能エネルギーエネルギーの割合50%(2021年度実績3.2%)です。Scope3の削減率がすでにクリアしているのは、コロナの関係で商品の調達額を減らしたからです。今後、売上が回復するに伴って届かなくなると思うので、取引先様と協働し削減に取り組みたいと考えています。

玉井:弊社の森づくりについても、ご紹介します。これは2008年から店舗で取り組んでいる、お客様とともに行うプログラムで、実店舗でお買い物の際にショッピングバッグの使用をご辞退いただき、マイバッグをご利用いただくと、そのお客様の環境に対する思いを汲み、1回ごとに弊社から森林保護団体に寄付をしています。資源の過剰利用を抑え、CO2の森林吸収に資する取り組みです。

▽豊かな森を育てる活動「Reduce Shopping Bag Action」のイメージイラスト

イニシアチブに関して、脱炭素目標はSBT認定を目指しており、TCFD提言への賛同・情報開示、CDPの情報開示を開始しました。ジャパン・サステナブル・ファッション・アライアンスは2021年に設立されたファッション業界の企業連合で、業界に関わる川上から川下までの企業が所属し、サステナブルファッションに向けて連携・推進しています。弊社は創設時から加盟しており、個社では解決しきれない業界共通の課題についてディスカッションなどを行っています。

脱炭素経営の実現に向けた株式会社ユナイテッドアローズの取り組み

坂本:脱炭素社会を実現するためには、企業単位ではなくサプライチェーンが一丸となって取り組みを進める必要があると考えています。御社は生産の委託先や商業施設などに対して、どのような働きかけをしていらっしゃいますか。

:脱炭素に向けて目標を定めていますが、自社だけで実現することはできないため、サプライチェーン全体で取り組む必要があります。現在は店舗がある商業施設様に対して、使っている電力についてヒアリングを進めているところです。回答はすべて揃っていませんが、大手企業による商業施設やオフィスは再エネ電力をすでに導入していますが、それ以外の施設様はまだのところが多い印象です。導入を働きかけるのは、弊社の社会的役割だと考えています。

坂本:脱炭素社会の実現に向けて、どのようなアクションが必要だと考えていらっしゃいますか。

:環境配慮商品や脱炭素を進めるためには、それなりの原価やコストがかかります。お客様の賛同がないとご購入いただけませんから、サステナブル消費に関するレポートを調べたところ、購買へのつながりはまだ弱いという結果でした。

ただし、Z世代や子どもに美しい地球環境を残したい親世代を中心に意識は高まっており、コストがかかっても当たり前のように購入する時代が来ると思います。そう考えると今から準備する必要があり、お客様より少し先回りして環境配慮商品を提案することが大切だと思います。

あまり先に行くとビジネスが難しくなるのでバランスを見つつ、少し先を行きながらメッセージを発信しますが、効用がきちんと説明されていれば購入につながるでしょう。そんなことも意識しながら、情報を発信したいと思います。

坂本:情報発信の話になりましたが、御社ではすでにサステナビリティに関する情報を積極的に開示しています。情報発信をする際に心がけておられる点があれば教えてください。

:数年前までは管理系の部門の視点だけでホームページの情報を発信していたので、その表現は少し硬かったかもしれません。やわらかく発信できなかったところ、社長の合意のもと全社でサステナビリティに取り組み始め、店舗・商品のクリエイティブ全般を管理・監督するクリエイティブオフィサーにも主体的に入ってもらうことで、SARROWSというアクションの名前や海外のイラストレーターを起用した情報発信ができるようになりました。一方で数字を示したり、イニシアチブにも賛同したりするなど、しっかりしたところも押さえるようにしています。

株式会社ユナイテッドアローズのエネルギー見える化への取り組み

坂本:脱炭素社会を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

:1つの商品を作る際に発生するCO2を測定する「カーボンフットプリント(CFP)」の取り組みを進めています。

玉井:Scope3を算定したところ、カテゴリ1の商品の調達に関わるCO2排出量の割合が高いことがわかりました。現段階では活動量を一括りにして値を算出していますから、削減に向けた個別の活動が排出量数値に反映されるような算出方法への変更や、削減策をもっと細かく練ることができるような算定方法など、アプローチを変えなければならないことは理解していましたが、環境省がCFPに係るモデル事業への参加企業を募集していることを知り、弊社も応募をして2022年8月から参加しています。

実際には、定番品のカットソーを一品選定し、原材料の調達から生産、流通、使用を経て廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクルにおけるCO2排出量を1点あたりで算定しています。各工程でのインプットやアウトプットを洗い出し、それらによるCO2排出量を一つ一つ積み上げていきます。算定にあたっては、エネルギーの見える化が必要であると感じました。

▽CFP算出対象となったアイテム半袖カットソー(「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」が2022年春夏に販売、*当該商品の販売は終了しております。)

カーボンフットプリント算定対象アイテム
(画像:株式会社ユナイテッドアローズ)

坂本:全国300店舗の使用電力やCO2の排出データの収集は、どのように行われていらっしゃるのでしょうか。

玉井:今はまさにアナログで、オーナー様から毎月の電力や熱のデータをいただき、その数値を表計算ソフトにひたすら入力し、集計しています。

坂本:近年は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せ、この観点で投資先を見極めていると言われています。その観点で御社を応援する魅力や、注目すべき点について、お聞かせください。

:弊社に興味を持った理由を投資家の方にお聞きすると、「中・高価格帯の商品でこれだけの売上がある会社は日本にほとんどなく、とてもユニークだ」といっていただけます。ということは、サステナビリティのアクションもブランド化し、各ステークホルダーの皆様への浸透を図り、販売を通じて培ってきた信頼をESGの分野にも広げることにも、ご期待いただいていると思います。「サステナビリティをチャンスとして捉えてほしい」との声もたくさんいただくので、それについてもしっかりお応えしたいと思います。

坂本:しっかりと数値目標に落とし込み、サーキュラシステムの構築やカーボンニュートラルに取り組む御社の姿勢がわかりました。本日はありがとうございました。