本記事は、川本晃司氏の著書『スマホ失明』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=RomanRoman)

シリコンバレーの重鎮は、子どもにスマホを使わせない

現在、仕事ではパソコンを使うのが当たり前、勉強ではタブレットを使うのが当たり前、人とのコミュニケーションや娯楽、そして日常生活の管理にはスマホを使うのが当たり前……というのが、日本では一般的になってきました。

総務省が2021年度に調査した、スマホの世帯所有率は88.6%。携帯電話やPHSなどのモバイル端末を含めると、その数は97.3%にも上ります。つまり、日本のほとんどすべての家庭に、少なくとも1台はデジタルデバイスがあるということです。もはやデジタルデバイスは、生活に組み込まれたアイテムであることがわかります。

お子さんをお持ちの親御さんの中には、インターネットやSNSが子どもに及ぼす悪影響を懸念して、こうした世の中の流れを危惧する方々も多いでしょう。

子どもの将来のためには、デジタルデバイスの使用を制限したい ── そう思う親御さんは多いと思いますが、お子さんに「友達はみんな持ってるし、持ってないと仲間外れにされる」と言われると、なかなか制限しきれないこともあるでしょう。こうなると、デジタルデバイス使用時間の長時間化の流れに逆らうのは、なかなか難しそうな気がします。

しかし一方で、こうした流れに毅然と逆らっている人たちがいることも、事実です。

例えば、ウィンドウズの生みの親である、ビル・ゲイツ氏。

彼の3人の子どもたちが14歳になるまでスマホを持たせてもらえなかったという話は、とても有名なので、ご存じの方も多いでしょう。彼はそれ以降も、夕食の席では子どもたちにスマホを触らせず、日々のスクリーンタイムも制限していました。

ちなみに、ゲイツ氏はおそらく、強い近視の持ち主だと思います。どの程度の近視なのかまではわかりませんが、彼が使っているメガネを、写真や映像で見ると、中等度以上の強い近視があるのではないかと予想されます。

実際、ゲイツ氏はあるインタビューの中で「自分にとってのハンディキャップは、メガネがないと普通の人のように見えないことです」と述べています。彼は自分の近視をハンディキャップと考えていたようです。ゲイツ氏が、子どもたちに自分と同じハンディキャップを背負わせたくないと考えていたとしても、不思議ではないでしょう。

同じように、子どもたちのスクリーンタイムを厳しく制限していたのが、アップルの創始者スティーブ・ジョブズ氏です。

iPadを商品化したジョブズは、記者に「あなたの子どもたちは、この製品をどんなふうに楽しんでいるのか」と質問されて、「そばに置くことすらしない」と答えたとか。

ジョブズ氏が、なぜ子どものデバイス使用を厳しく制限したかといえば、デバイスの生みの親の彼こそが、その中毒性や弊害にいちばん気づいていたからではないでしょうか。

ジョブズ氏が恐れたのは、子どもたちが魅力的なデバイスに依存しすぎることや、その結果として注意力が散漫になること、そして、SNSによる承認欲求の肥大化や、犯罪への巻き込まれ、などだったでしょう。

ちなみにジョブズ氏もメガネをかけていたことは、皆さんも記憶にあると思います。ですから、ジョブズ氏もまた、デジタルデバイスと目との関係についてよく理解していたはずだと思うのは、私の考えすぎでしょうか。

ちなみに、彼らと同様の懸念を抱くシリコンバレーの重役たちは、自らの子どもを、シュタイナー教育の学校に入学させたがることが多いそうです。世界60ヵ国にあるとされるシュタイナー校は、子どもの発達段階に適した教育を行い、身体活動や芸術活動を優先的に行うことで知られています。

この学校の特徴の1つが、12歳以下の児童のスクリーンタイムを厳しく制限することです。シリコンバレーの幹部たちは、どうやらこの点にも強く惹かれているようなのです。

彼らは、子どもにとって何が重要かを見極めて、デジタルデバイス使用の長時間化という時流に、可能な限り流されまいとしています。なぜなら、子どものより良い将来のためには、今、そうすることが必要だと知っているからです。

これはシリコンバレーというコミュニティの中で有効な「社会規範」を利用したナッジと言い換えることもできます。「あの凄腕プログラマーは、お子さんにスマホを持たせていない」とか「あのカリスマ経営者は、子どもが18歳になって親元を離れるまでは、タブレットを自由に使わせないとか言ってる」という評判は、口コミを通し、コミュニティ内での規範となっていると考えることもできます。

この事実を知ってもなお、子どもにねだられるままにデジタルデバイスを与えてしまうことを、「世間の流れがそうなんだから、しかたないことだ」と言えるでしょうか?

私自身は子どもがいないので、親が子どものデバイス使用を制限するのがどれだけ困難かを想像しづらいのですが、子どもの将来を考えるのであれば、この点は改めて考えてみてもいいのではないでしょうか。

スマホ失明
川本晃司
眼科専門医(医学博士)・MBA(経営学修士)
1967年山口県生まれ。高校卒業後、産業廃棄物処理の日雇い労働をしていたが、一念発起して受験勉強を始め、28歳の時に山口大学医学部に入学。34歳で眼科医となり、44歳で眼科クリニック・かわもと眼科の院長となる。専門は角膜。2021年に北九州市立大学ビジネススクールでMBAを取得。現在は眼科専門医としての傍ら、北九州市立大学大学院で医療と認知心理学とを掛け合わせた学際的な研究を行っている。現在の研究テーマは「医療現『場』の行動経済学」と「医師と患者の認知心理学」。

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