昨今、環境・社会・ガバナンスを示す「ESG」は、企業の長期的な成長を示す重要な観点として世界全体のトレンドとなってきたが、各業界をリードする企業は自社の経営を通じてどのようにESGに取り組んでいるのだろうか。今回は、読者にビジネストレンドを読み解く上で必要不可欠となったESG戦略について、企業担当者が語る生のインタビュー内容を提供する。

後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品において、国内で大きなシェアを誇る沢井製薬株式会社を傘下に持つサワイグループホールディングス株式会社。患者の負担を減らすために企業として何ができるのかを模索する同社は、どのような形で日本医療の未来に貢献しているのだろうか。サステナビリティ全般の推進を行っている河合氏にお話をうかがった。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

サワイグループホールディングス株式会社
河合 史(かわい・ふみと)
――サワイグループホールディングス株式会社/グループサステナビリティ推進室 室長
コーポレートガバナンスに関する事項やサステナビリティ全般の推進
2006年10月、沢井製薬株式会社に入社。経営管理部で企画・IR、ガバナンス、総務部でCSRなどの業務を担当し、2021年4月よりサワイグループホールディングス株式会社のグループサステナビリティ推進室長(現職)に就任。

サワイグループホールディングス株式会社
――ジェネリック(後発)医薬品のリーディングカンパニーである沢井製薬を傘下に持つ持株会社。ひとりでも多くの人々の健康に貢献すべく「なによりも健やかな暮らしのために」を企業理念に、既存事業の一層の強化と新事業の育成によるグループの持続的成長を目指して2021年4月に持株会社体制に移行。
長期ビジョンでは、2030年度(31年3月期)の売上収益4,000億円を掲げ、国内シェア拡大を主軸に米国事業、デジタル医療機器などの新規事業による成長を達成する計画。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. サワイグループが取り組むESG
  2. サワイグループが取り組む社会貢献
  3. サワイグループが取り組む環境対策
  4. サワイグループの脱炭素社会に向けた取り組み
  5. サワイグループの社会貢献活動
  6. サワイグループが取り組むDXやIoT
  7. 「見える化」への課題と情報開示の考え方
  8. 投資家へのメッセージ

サワイグループが取り組むESG

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):はじめに、ESG(サステナビリティ)活動における考え方を簡単にお教えいただけますでしょうか。

サワイグループホールディングス 河合氏(以下、社名、敬称略):まず、グループのサステナビリティ基本方針からお話ししたいと思います。
この基本方針は、経営陣も含めた当社グループのサステナビリティ委員会で承認されているものです。基本的には、健全な社会の存在がなければ当社グループの持続的な発展はないということを示しています。当社グループがサステナブルに存続していくためには、ステークホルダーの皆様としっかりとした信頼関係を継続できることが不可欠、つまり社会から認められることが重要だということです。また、社会は絶えず変化していきますので、変化する社会においても絶え間なく進化できるように挑戦していくことを基本方針の三本柱として掲げています。 次にマテリアリティですが、大きく分けて2つあります。

▼サワイグループのマテリアリティ

サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

1つ目は「価値創造に繋がるマテリアリティ」で、医療アクセスの向上、医療財政への貢献、健康寿命延伸への貢献、そして人材育成を掲げたものです。ESGの中でいえば、社会(Social)の範囲かと考えています。

2つ目は「持続的成長の基盤となるマテリアリティ」ですが、環境に配慮した事業、働き方・働きがい・人権尊重、コーポレートガバナンスと、ちょうどE・S・Gで別れた形になっていますが、その中でも全体としてはSが多いと思っています。当社グループでESGにあえて優先順位をつけるとするならば、社会(Social)が比較的重要な対象であるという考えです。最近は環境(Environment)が重要視されていますが、化学工業の中でも医薬品産業はCO2の排出が比較的少ない分野です。そのため当社グループの場合、マテリアリティとしては少し低めの位置付けになっています。生命や健康に関係する医薬品産業として、やはり社会(Social)に重点を置いています。

坂本:御社は、2021年に策定された『サステナビリティ基本方針』において「ステークホルダーの関心」と「自社にとっての重要度」の2つの観点からサステナビリティ活動における重要課題の優先度を決めているとのことですが、これに関する具体的な考え方をお聞かせください。

河合:まず、当社グループでは「グループ企業理念」を全社で共有しており、重要課題の優先度を決めるに当たってはサステナビリティ基本方針だけでなく企業理念が大きな位置を占めます。

▼サワイグループの企業理念

サワイグループホールディングス株式会社 サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

グループとしての理念は「なによりも健やかな暮らしのために」であり、CMでご存じかもしれませんが、サワイグループホールディングスの中核企業である沢井製薬の理念は「なによりも患者さんのために」ですので、これらの理念に沿った事業を行うことが当社グループで最も大切なことであり、それが当社グループの存在意義でもあると思っています。そのため、これがマテリアリティに最も影響する要素だと考えています。先ほども申し上げた社会(Social)に関していえば、特に医療アクセス、医療財政、健康寿命といったところに影響すると考えています。

欧米には株式会社とは異なる形態で環境や社会の公益を追求するベネフィットコーポレーションというものがありますが、当社グループはそうではなく、NPO法人でもありません。あくまで株式会社ですので、投資家の皆様に還元する必要があり、適正な利益が必要だと考えています。患者さんのために利益を度外視することはできないため、ある程度は制約的要素が出てくると思っています。
適正な利益がなければ設備投資もできませんし、新たな人材も雇えません。会社の存続や成長も疎かにはできませんので、どうすれば事業を通じて可能な範囲で社会課題の解決に貢献できるかということは、重要度を設定する上で大切であると考えています。また、きちんと利益を得て適正に税金を納めるということも、健全な社会の存続にとって必要なことだと考えています。また、ステークホルダーの関心についてですが、当社グループには患者さんや医療機関、取引先や環境、社員、地域社会も含めてさまざまなステークホルダーがいらっしゃいます。そのため、すべての方を大事にして関心を持つということは、なかなか決めにくいものです。それを踏まえると、当社グループでは世界で共有され、世界の国々の目標であるSDGsの達成目標をステークホルダーの主張とするのが望ましいのではないかと考えています。このようなステークホルダーの関心と当社グループが重視することのバランスの中で重要度が設定されると考えています。

サワイグループが取り組む社会貢献

坂本:サワイグループホールディングス様は医療事業を通じたサステナビリティ活動の中で、低価格のジェネリック医薬品の製造・販売による医療費削減によって患者様の負担軽減に貢献されています。こちらの社会的意義と、社会貢献活動についてお聞かせください。

河合:国内における普及率(錠数ベースの使用割合)が約80%となったジェネリック医薬品は、新薬に対する後発医薬品と呼ばれるものです。新薬は10~20年かけて数百億円以上の費用をかけて開発され、開発した製薬会社は開発費を賄うためにも特許を申請します。特許が有効である間は、国が決めた薬価で独占的に製造・販売ができます。

▼医薬品の種類と発売までの流れ

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(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

特許期間が終わると、知的財産である新薬の権利は国民の共有財産になると決まっていますので、そこから新薬と同じ有効成分の薬を製造・販売できるようになります。これがジェネリック医薬品で、新薬に比べて開発研究費が少なく開発期間も短いため、低価格で提供できます。ジェネリック医薬品によって、患者さんは低価格で同等の効能がある医薬品を服用することができるのです。
ジェネリック医薬品を安定的に、かつ高品質で提供する事業を行っているのが、沢井製薬をはじめとしたグループ各社です。品質や効き目、安全性は同等にも関わらず低価格で服用できますので、患者さんの自己負担額が少なくなります。一般的には5~6割くらいの価格になりますし、また、ジェネリック医薬品の中には服用しやすいように小さくしたり、味や香りを工夫したりした医薬品もありますので、服用される患者さんにとって付加価値の面でも貢献していると思います。
社会的意義については、国民皆保険制度の維持に貢献していると考えています。

令和2年の国民医療費は約43兆円かかっています。その内訳は、税金などの公費の負担が4割弱、医療保険制度の負担が約5割です。患者さんが医療機関で払うのは5.2兆円、12%です。この医療保険制度のおかげで、年齢や状況によって負担額は異なるものの、日本の患者さんは医療費全体の約12%の負担で医療を受けられます。ただし、近年の少子高齢化などの影響で健康保険組合の約半数が赤字という報道もあり、国や地方の財政も厳しい状況です。このままでは医療制度を持続できず、崩壊する可能性もあります。
その中で、医療費の削減につながるジェネリック医薬品は、国が医療保険制度を持続させようという考えから促進され、今では普及率が約80%になりました。患者さんが低価格で高品質の医療を受けられる医療保険制度の持続可能性につながる貢献は、当社グループの最大の社会的意義であると考えます。
SDGsに関しては、総務省が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)仮訳」の項目3.8のところに「すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する」という一文があります。このUHCは、日本の国民皆保険に当たるものです。

世界では、日本のように皆保険制度で高品質の医療を安く受けられる国はまだ少なく、その点では日本は恵まれていると思います。当社グループとしては、今後も皆保険制度の持続可能性に対して貢献していきたいと考えています。
最近は、企業活動の社会的インパクトをマネジメントしたり、数値化したりしようという流れがあります。当社グループでは2015年の統合報告書から、当社グループの医療費削減額が社会に与えるインパクトを公開しています。2021年度は、約3,300億円の医療費削減のインパクトがありました。当社グループ製品ではなく先発医薬品が使われていた場合は、約3,300億円の医療費が余計にかかっていた、ということになります。

▼サワイグループの医薬品による社会貢献力

サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

医療費全体(約43兆円)に占める割合としては小さいかもしれませんが、当社グループの売上の約2倍、営業利益の10倍以上のインパクトを生み出しているという点では、企業規模に対する社会貢献度は大きいのではないかと考えています。

削減額の仕組みは少々ややこしいのですが、もし先発品を使わずにジェネリック医薬品を使った場合、高血圧の方でしたら年間3,240円を削減できます。このような患者さん一人ひとりの当社グループ製品による削減額が積み重なって、約3,300億円の削減になる計算です。

令和2年度は約1兆8,600億円の医療費がジェネリック医薬品によって削減されていますので、当社グループとしては、そのうち5分の1から6分の1を占める割合で貢献しているという認識です。

サワイグループが取り組む環境対策

坂本:御社では持続的成長の基盤となるマテリアリティとして、環境に配慮した事業を挙げておられます。気候変動への対応、廃棄物の抑制、水の使用削減、生物多様性のそれぞれについて、具体的な取り組みを教えていただけますでしょうか。

河合:サステナビリティ基本方針でも紹介させていただいたとおり、当社グループでは「ステークホルダーとの信頼関係構築の継続」を掲げております。このステークホルダーの中には、地球環境も含まれています。

サワイグループの行動基準の中には「地球環境とともに」というものもあります。当グループが製造する医薬品には化学合成品も多くありますが、自然資源も少なからず使われているため環境への配慮は必要だと考えています。近年のジェネリック医薬品の需要増によって生産数量が増えており、それに伴ってGHG(温室効果ガス)の排出量が増え、廃棄物や使用する水の量も増えています。省エネの診断を受け、できる限り工場で対応していますが、できることが頭打ちになってきたこともあり大きな削減には至っていません。

▼サワイグループのESGデータ

サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

生産数量は増えていますが、水資源や廃棄物は減っています。原単位あたり(生産数量あたりの排出量)では効率化できていますが、排出総量は大きく減っていません。CO2もわずかに増えています。
省エネについては1ロット当たりの生産数量を増やすことによって効率良く生産しており、廃棄物に関してもリサイクルを含めたゼロエミッションを達成しています。ただ、政府の2030年、2050年のGHG排出目標が総量ベースに変わりましたので、当社グループとしても原単位の目標ではなく今後は総量ベースの削減目標にしていかなければなりません。(本取材後、2023年1月末に削減目標を変更・新設済み)
とはいえ、GMP*上の制約でクリーンルームを保つために24時間ずっと空調を稼働させなければならないので、電気はなかなか減らせません。個々の設備に関してはモーターにインバーターを付ける、稼働時間を減らすといった対応をしてきていますが、空調の電力はもう減らすことができず、大きなネックになっています。改正エネルギー合理化法が出たこともあり、現在は非化石電源による電気の購入を検討しているところです。
*GMP(Good Manufacturing Practice):医薬品の製造管理及び品質管理の基準

水は、現在年間36万トンほど使用しております。2020年の40.5万トンから1割ほど削減できていますが、こちらも頭打ちになっています。できることといえば、チラー(冷却水循環装置)を水冷式から空冷式にする、節水トイレを設置するなど、細々としたことを積み重ねて水の使用量を減らそうと努力していますが、コンタミ(異物混入)を防ぐため製造設備をきれいに洗浄するために大量の水を使わなければいけません。しかも、当社グループの場合は品目数が多い上、毎回機械を分解して洗浄しますので、大量の水を使います。注射剤などに使われる水よりも洗う水のほうが多く、これはなかなか減らせないと思います。
生物多様性に関しては経団連の生物多様性宣言に賛同し、自然保護基金へ寄付することで貢献させていただいております。社内では、5年ほど前から地元淀川の絶滅危惧種・天然記念物であるイタセンパラの保護活動に参加しております。

▼淀川でのイタセンパラの保護活動

サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

近年、環境の開示で必須となっているTCFDに関して、当社グループの医薬品に関連する生物由来の資源もあるかと思い調査しましたが、主成分の大半は石油由来の化学合成物であり、生物由来のものは多くありませんでした。一方で、主成分に加える添加剤には、でんぷんやトウモロコシ、セルロースといった生物由来のものが多く使われています。また、医薬品包装パックに使われているパルプにも生物由来の資源が使われています。今後は、このようなことも地球環境チーム内で検討したいと考えています。

▼製品ケースへの再生紙使用の取り組み

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(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

産地は購買部経由で資材の取引先に聞いて調査しますが、契約の都合上どうしても開示してもらえないところがあります。そのため、「本当に森林が伐採されてなくなってしまっているのか」までは調査できず、そのあたりの調査方法は今後の課題です。
その他、CO2削減のために農産物の保護活動への協賛や植林、そこから生じるカーボンクレジットの活用なども検討していきたいと考えています。

サワイグループの脱炭素社会に向けた取り組み

坂本:低炭素・脱炭素化を見据えた自社設備投資の取り組みについて、お聞かせください。

河合:先ほどご紹介させていただいたものも含めますと、インバーターの導入やコンプレッサーの更新、チラーを水冷式から空冷式に変えるといったことや、小さなところでは照明をLEDに換える、蒸気ボイラーの燃料を灯油からガスに換える、排水ポンプを更新する、などですね。また、沢井製薬の三田西工場に太陽光発電システムを導入しました。しかしながら、これも6%ほどしか電気の削減につながっていません。

▼三田西工場の太陽光発電システム

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(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

坂本:CO2の排出量を減らすのが大変だというお話でしたが、いずれ排出量をゼロにしていくにあたって、サワイグループホールディングス様はどのような方針で活動されますか?

河合:2030年に向けて非化石証書の購入などいろいろと手を打っていくつもりですが、1万2,000社が再エネを使う目標を立てて毎年開示していくことを考えると、価格競争になることが予想されます。その場合、当社グループが太陽光の設備や風力発電を外に持つのかどうかといったことは検討課題になります。
また、電力を削減できたとしても、ガスや重油もあります。そこはグリーンガスなどを導入しようと思っていますが、九州工場の場合は立地上の問題で、自家発電を継続せざるを得ない必要がありますし、医薬品なので停電時でも無菌環境をなくすわけにはいきません。そのような問題もあるので悩ましく、まだ解決策が見えていません。

サワイグループの社会貢献活動

坂本:当社アクシスは、地方IT企業として地域社会のための地方創生などの活動を精力的に行っていますが、サワイグループホールディングス様の社会貢献活動や社会課題の解決について、具体的に取り組まれていることがございましたらお聞かせ願います。

河合:当社グループの最大の社会貢献は、医療費の削減と医療制度の持続性への貢献です。その他の社会貢献としては寄付やチャリティーイベントなどがあり、今後は未病・予防を含む広いヘルスケア領域に貢献できるような新事業に取り組もうとしています。
その中で、今後のニューエコノミー時代の未来像に焦点を当てますと、スマートフォン向けの健康管理アプリ「SaluDi」を無料で提供していることが、社会貢献や社会の課題解決に対する新たな取り組みであると考えています。

▼健康管理アプリ「SaluDi」

サワイグループホールディングス株式会社
(画像=サワイグループホールディングス株式会社)

当社グループが提供している健康管理アプリ「SaluDi」には3つの大きな機能があります。1つ目はPHR(パーソナルヘルスレコード)です。個人の健康情報を記録する機能で、血圧や体重、体温、血糖値、歩数、摂取カロリーなどの情報を管理できます。手入力も可能ですが、各社の測定機器やスマートウォッチなどと連携させ、通信機能を使って自動的に記録することもできます。
2つ目は疾病に関する情報収集機能です。当社グループが提供している、さまざまな健康情報を掲載したサイト「サワイ健康推進課」の健康管理に役立つ情報や疾病に関する情報を、「SaluDi」を通じてご覧いただけます。
3つ目はオンライン機能です。「SaluDi」に記録した健康管理情報を、医療関係者と共有することができます。地方などにお住まいで医療機関が遠い、医療機関が少ないといった方には、このオンライン機能が役に立つと考えています。オンライン診療に対応している医療機関であれば、「SaluDi」を通じて共有される健康情報を確認しながらのオンライン診療ができます。

これまで糖尿病の患者様が手帳に記載していたような記録も、「SaluDi」であれば簡単にデータとして持ち運べますし、医療関係者と共有することもできます。これを無料で提供することは社会貢献であり、また社会課題解決の取り組みであると考えています。

サワイグループが取り組むDXやIoT

坂本:DXやIoTが進み、スマートシティのような構想が現実味を帯びています。そのような社会において御社はどのような企業になり、どういった役割を担うべきとお考えでしょうか。また、そうなるために現在御社が注力していることは何でしょうか。

河合:スマートシティに関する内閣府の資料では、ICTなどの新技術を活用しつつ、マネジメントの高度化によって都市や地域が抱える諸課題を解決し、また新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域にある、Society5.0の先行的な実現の場と定義されています。
人口減少や高齢化、災害などさまざまな社会課題がある中、当社グループはICTデータの活用によって健康寿命延伸に貢献する役割を担う企業でありたいと考えています。
スマートシティが実現する未来として、健康面や医療面ではデータ活用による健康管理サポート、遠隔地からの医療アクセスや離れた家族の見守りといったことが挙げられていますが、こちらは「SaluDi」の活用で対応できます。データ活用についてもう少しご説明しますと、入院していれば自分のヘルスデータを一日中取ってもらうことができますが、通院だとピンポイントのデータしか取れないため、推移的なデータにはなりません。「SaluDi」と計測機器などを活用して記録しておけば、通院時にデータをまとめて共有することで、データに応じた治療とその効果が期待できます。
アプリと医療機関のオンライン診療システムを連携させれば、自宅でオンライン診療を受けることもできるため、時間の節約によるQOL向上も図れると思います。また「SaluDi」に蓄積されたビッグデータが、将来の治療や医薬品開発につながることも期待されています。
現在注力しているのは、提供している「SaluDi」を多くの方に知っていただき、活用していただくことです。利用者様からフィードバックをいただき、さらに便利なアプリになるよう改良していきたいと考えています。
「SaluDi」は今後も基本的に無料で多くの機能をお使いいただけるように拡張していく予定ですが、将来は一部の追加機能の有料化も視野に入れています。なお、現在無料で提供している機能は、有料化の予定はありません。

補足:
兵庫県養父市「養父市デジタルヘルシーエイジング事業」において「SaluDi」の採用が決定し、2023年 4 月より運用を予定している。
プレスリリース:https://www.sawai.co.jp/release/detail/588

「見える化」への課題と情報開示の考え方

坂本:サワイグループホールディングス様は、コーポレートサイト内のコンテンツにおいてESGの取り組みや各種データを開示されています。CO2削減を含めて環境パフォーマンスの向上にはデータの把握がカギになりますが、社内ではどのように取り組まれていますか。

河合:もともと、省エネの報告は総務部が担当していましたが、近年は広報の意味も含めて数値を開示し、開示項目も少しずつ増やしています。財務データと違ってESGデータは種類が多く切り口も多様です。CO2の排出にせよ電力の削減にせよ、機器も違えば計測方法も違うため、現場には負担をかけています。
また、多くの事業所からデータを収集して集約していましたが、まだ手作業でデータを集計しているところもありました。事業所の業務が忙しい中で協力してもらいながら少しずつ進めてきましたので、開示した数値の裏には多くの社員の努力があると感じております。
加えて、CO2の排出量や水の使用量、廃棄物の発生量などのデータも社内イントラネットに置き、事業所別データの見える化を図ることで、自分たちが集めたデータが役に立っていることを理解してもらっています。
集めたデータは手入力のものも多く、入力ミスを修正するのに時間がかかっていますので、現在システム化を進めており、計算の自動化や報告のリマインドなどのシステムを入れ始めたところです。将来は財務情報と同様に、非財務情報の信頼性向上を図るためにも監査法人と同じように第三者検証を受けたいと考えており、検討しているところです。

坂本:ESGデータの数値の算出には、どのような仕組みを用いていらっしゃるのでしょうか。可能な範囲で教えていただけますか。

河合:事業所によって取扱う品目が違い集計項目も異なるため、それぞれエクセルなどで管理していました。煩雑なため、外部の業者さんにシステムを作っていただき、2022年4月から効率的に管理する体制を構築しているところです。

坂本:4月導入のシステムは、スコープ1・2の算出のためのシステムということでしょうか。

河合:弊社ではスコープ3まで出していますが、あくまで環境省の計算方式に則っており、生のデータというわけではありません。川上のほうに関しては、購買部を通じて「スコープ1・2・3のどこまでを把握しているか」というアンケートを取ったところ、大企業は把握しているものの中小企業は把握しておらず、CO2を生のデータで計算することはできていない状況です。そのため、スコープ3に関しては今後も当面は計算で出すしかなさそうに思っています。
川下のほうに関しては、車や電化製品などは長い間使うため環境への影響がかなりありますが、医薬品は飲めば終わりなので、どちらかといえばスコープ3は川上のほうが大事だと考えています。ご質問に対する回答としては、現状はスコープ1・2のためのシステムと考えています。
ところで、アクシス様にお聞きしたいのですが、例えば地場の鳥取県で風力発電や太陽光発電をなさっているのでしょうか。

坂本:弊社は発電所を持つのではなく、発電所の監視や計測をメインに「電力データの見える化」のシステムを自社で開発し、様々な企業にシステムを提供しています。鳥取県では地方自治体や地域電力含めて、公共施設のCO2排出の見える化と排水をゼロにするというプロジェクトがあり、公共施設のCO2排出の見える化において当社のプロダクトをご利用いただいています。
通常のCO2見える化のシステムをお持ちのメーカーさんは他にもいらっしゃいますが、弊社の場合は再エネの発電所の監視から、地域の電力会社様が使うような電力がどの発電所からどのくらい来ているのかをデータ化するトレーサビリティを色分けするシステム、さらには需要家さん向けのCO2排出量見える化のシステムを提供できるところです。システム開発を担ってきましたので、各社でご利用の他のシステムとの連携などにも対応できるところが弊社の特異性と認識しています。

投資家へのメッセージ

坂本:「ESG投資」は、多くの機関投資家・個人投資家が関心を寄せる分野です。ESG投資の観点で御社を応援したいという投資家もいると思いますが、どういった点に注目してほしいか、ESG投資によって御社を応援することの魅力をお聞かせください。

河合:サワイグループの存在意義は、低価格で高品質のジェネリック医薬品を供給することで人々が健康な暮らしを実現することに貢献し、医療費削減に貢献していることです。加えて、今取り組んでいる「SaluDi」や新たな分野でも貢献していきたいと考えています。
当社グループは現在、日本で医薬品の生産数量と販売数量のシェアが最も高い企業です。社内の推計では、日本で使われている薬の総量の約8%が当社グループの製品です。
新薬メーカーのような派手さはありませんが、日本の医療を支えるインフラとしてなくてはならない企業であることを経営陣も含めて社内に周知しておりますし、今後もそうあり続けたいと思っています。あまり目立たない会社ですが、日本の医療を支えている会社であることを投資家の皆様にご理解いただき、今後もご期待・ご支援をいただけますと幸いです。