ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家だけでなく、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は宮本徹専務取締役が、トランコム株式会社代表取締役 社長執行役員の武部篤紀氏にお話を伺った。

トランコム株式会社は名古屋市に本社を構える総合物流企業で、グループ企業を含めトランコムグループとして物流センター構築運営や輸送マッチング・配送、生産請負・人材派遣のサービスなどを展開している。

同社は1955年の創業時から「環境にやさしい理想の物流社会の創造に貢献します」との企業理念を掲げ、ESGに対して積極的に取り組んでいる。本稿では、インタビューを通じて環境・脱炭素のテーマを中心に同社の取り組みや成果、今後目指すべき姿を紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

武部篤紀
武部 篤紀(たけべ あつのり)
――トランコム株式会社 代表取締役 社長執行役員
1974年7月生まれ、愛知県出身。1997年慶大理工卒、1999年トランコム入社。2016年取締役兼執行役員、2020年取締役上席執行役員、2022年4月社長就任。

トランコム株式会社
トランコムグループは、重要な社会インフラである物流を担う企業として、社会課題の解決と抜本的な革新の実現に向けた中長期ビジョン「“はこぶ”を創造する」を掲げています。「サスティナブルで効率的な輸配送」を提供するため、トランコムグループの強みで ある全国 20 万台規模の中長距離を中心とした貨物と空車のマッチング(求貨求車サービ ス)、物流センター運営などのネットワークやノウハウを最大限活用し、アイデアとテクノロジーを組み合わせた「はこぶ」仕組みを創造し、広く多くの企業に利用されるプラットフォーム構築を図っています。
宮本 徹(みやもと とおる)
―― 株式会社アクシス専務取締役
1978年生まれ、東京都出身。建設、通信業界を経て2002年に株式会社アクシスエンジニアリングへ入社、現在は代表取締役。2015年には株式会社アクシスの取締役、2018年に専務取締役に就任。両社において、事業構築に向けた技術基盤を一貫して担当。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. トランコムグループのESG・脱炭素に対する取り組み
  2. トランコムグループの脱炭素社会における未来像
  3. トランコムグループのエネルギー見える化への取り組み

トランコムグループのESG・脱炭素に対する取り組み

アクシス 宮本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの宮本です。弊社は鳥取県に本社を構えており、システム開発関連の事業を行っています。約10年前から、再エネの見える化事業にも取り組んでいます。本日はよろしくお願いいたします。

トランコム 武部氏(以下、社名、敬称略):トランコムの武部です。弊社はロジスティクス領域での事業を展開しています。輸配送の過程で必ずCO2を排出するため、いかに削減できるかが極めて重要だと考えています。これまでも競争力をつけながらさまざまな取り組みを進めていますが、中でも輸配送の効率化は社会からも求められています。例えば複数の荷主の荷物を共同で運ぶ「共同配送」はトラックの運行車両数が減ってCO2を削減できますし、帰りの車を活用して物を運ぶ「求貨求車サービス」も同様にCO₂削減に繋がります。このように、弊社では創業以来、事業活動を通じた環境負荷低減を強く推進しています。

宮本:最初にトランコムグループのESGや脱炭素に対する、これまでの取り組みについてお聞かせください。

武部:運送会社は多くの物を運ぶほど売上が上がるので、大量輸送を志向する企業は多いと思います。一方でトランコムグループは1955年の創業以来一貫して、いかに環境にやさしく物を運ぶことができるかを考えながら事業を進めてまいりました。

それが先ほど申し上げた同一納品先に荷物を一緒に運ぶ「共同配送」と、帰り車を活用し荷物を運ぶ「求貨求車サービス」です。国内を走るトラックの約40%は空車といわれており、eコマースの拡大に伴ってトラックの積載率は低下の一途をたどっています。一方でトラックドライバーの担い手は不足しており、帰り車を活用して荷物を運ぶ「求貨求車サービス」はお客様にも社会にも良いサービスだと思っております。日本には約6万社の物流会社がありますが、そのうち約1万3,000社とお取引があり、中長距離を中心に1日あたり約6,500件をマッチングさせています。こういったサービスを通じて運行車両の数を減らし、CO2排出量を削減する効果があります。

▼求貨求車サービス

求貨求車サービス
(画像提供=トランコム株式会社)

他に、営業車にも水素自動車やバッテリーEV車両を導入しながら、脱炭素に向けた取り組みを進めています。

宮本:求貨求車サービスはユニークな事業ですね。この事業におけるCO2削減効果は具体的にどれくらいになるでしょうか。

武部:2021年度は、13万2,469トンのCO2削減効果がありました。

▼求貸求車サービスによるCO2削減効果

求貨求車サービスによるCO₂の削減
(画像提供=トランコム株式会社)

宮本:物流会社の環境に対する施策では、「モーダルシフト」についてもよく伺いますが、御社ではいかがでしょうか。

武部:弊社は倉庫運営と輸配送管理のネットワークを持っておりまして、環境負荷軽減に貢献すべく、鉄道・海上輸送も荷主様企業に提案・実行しています。

宮本:太陽光発電や再エネ由来の電力の活用など、グループ拠点における具体的な脱炭素への取り組みはありますでしょうか。

武部:現状は、太陽光発電や風力発電などを導入している施設はありません。ただし、今後開設する物流拠点では導入する方針です。

宮本:そのような取り組みを通じて見えてきた課題があれば、教えてください。

武部:トラックの電動化が叫ばれて久しいですが、メーカー様からの提供量は極めて限られています。インフラ整備も含めて、どのように進めていくかは弊社のみならず、日本全体の課題だと思います。

宮本:さまざまな取り組みを行っておられることが大変よく分かりました。これらを推進していくことは用意ではないと思いますが、社内・グループ内における推進体制についてもお聞かせいただけますか。

武部:今までは経営企画グループや管理部門を中心としたチーム体制でESGを推進してきましたが、2023年2月よりESG推進グループを新たに発足させました。目標を明らかにし、社内で連携しながら取り組む考えです。2022年4月に実施した全社会議でCO2削減の事例を挙げるなど、従業員への啓発活動も行っています。

トランコムグループの脱炭素社会における未来像

宮本:近年はDXやIoTを活用しながら、脱炭素社会の実現に向かっています。その中で、御社はどういった姿勢が求められると思いますか。

武部:2つあります。1つは電子化です。日本の物流会社では、請求書の発行やドライバーへの指示にFAXを使うなど、アナログな体質が根強く残っています。業務の電子化を進め、作業の効率化や多くの物流会社と繋がれる仕組みをつくる事が必要だと思っています。もう1つは先ほども触れましたが、配送車両の電動化です。これがないことには脱炭素社会が実現しませんから、さらなる普及を目指すと同時に、社会全体でも普及が進むことを期待しています。

宮本:御社はホームページなどで、ESGや脱炭素に対するデータを公開されていらっしゃいますが、脱炭素社会の実現に向けた情報公開において心がけておられる点はありますでしょうか。

武部:我々の取り組みを、なるべく多くの方にご理解いただきたいと考えています。正確に情報が伝わるよう、引き続きしっかりと情報を公開していく所存です。

宮本:話は変わりますが、近年は物流におけるラストワンマイル(届け先との最後の接点)が課題になっています。御社では、すでに対策を打っていますか。

武部:関東、中部、関西エリアでは、軽トラックや1t車クラスなど1,000台強の車両を活用し、配送の効率化を図りながら商品がきめ細やかに届くようにしていますが、さらに地域を広げたいと考えています。一方で過疎地に物をお届けするのに、弊社のような物流会社1社だけで取り組むのは難しいでしょう。より安く消費者の方々にお届けするためには、貨物をまとめる物流事業者が各地に必要だと思います。過疎地におけるラストマイルがあれば住民の皆さんは安心してその場所に住むことができます。行政サービスに近しいものでもあり、自治体と企業が一体となってサステナブルな物流網を作ることが、これから求められるはずです。

宮本:弊社は地域のスーパーや店舗の品物をインターネット上で買い、自宅や職場へ届ける「バード」という地域密着型生活プラットフォームを提供しています。「中山間地域」を含めると収益的には厳しい面もありますが、行政と協力しながら社会インフラを構築したいと考えており、御社のラストワンマイルに対する姿勢や取り組みを知りたいと思いました。

武部:弊社のラストワンマイルの配送網は、地域の見守り機能も担っています。ドライバーが迷子を見かけてご家庭に連絡することもありますし、蛍光灯が取り替えられなくて困っているご家庭ではお手伝いすることもあります。

トランコムグループのエネルギー見える化への取り組み

宮本:省エネや脱炭素を進めるには、エネルギーの使用量を数値として表示・共有するエネルギーの見える化が必須です。弊社は電力トレーサビリティシステムの提供を通じてこれに取り組んでいますが、御社ではどのように取り組んでいらっしゃいますか。

武部:毎日の輸送量・輸送先の統計値を有しており、これを入力することでCO2の排出量や削減量を算出できるようになっています。ただし、すべて自動化しているわけではないので、さらなる工夫が求められます。

宮本:たくさんの拠点から、どのように情報を収集していますか。

武部:物流情報サービス事業のCO2の排出・削減はすべてデータ化し、容易に収集できる仕組みを構築しています。一方、各物流センター拠点で輸配送のデータは持っていますが、データ化してCO2の排出量を出せるまでには至っていません。主要な物流センターではシステムを導入し、配車システムと連動させて可視化を検討しています。

宮本:昨今は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。この観点で、御社を応援することの魅力をお聞かせください。

武部:私見になりますが、投資家の皆さんには投資先を選定するための物差しがあると思います。日本では40社近い物流会社が上場していますが、輸送している貨物量に対してどれだけCO2を排出しているかを比較すると、どの会社が環境面に貢献しているかが見えてくるはずです。今後も、その観点で評価していただけるような取り組みを進めたいと思います。

宮本:本日のお話で、求貨求車サービスを始めとする独自のサービスを知ることができました。ありがとうございました。