ファミリービジネスの力の根源は「無形資産」
こうした定義に従えば、日本企業の大半はファミリービジネスだと言っても過言ではないのは冒頭でも説明したとおりだ。そして、世界がVUCAの時代に突入した今、ファミリービジネスの強さはそのまま日本の強さに寄与する可能性を秘めている。
ファミリービジネスの強さはいくつかある。まず、ファミリービジネスをやっている人は、その事業と業界を熟知していることが挙げられる。一族が代々蓄積してきたさまざまなノウハウや、スキル、人脈、その業界で仕事をしていくための深い知識などを持っていることは、間違いなく事業経営上の強さの原因になるのだ。
一族が持つこれらの強さは、実質的なかたちこそないものの、ファミリービジネスを運営していくにあたって価値を創生し、富を生み出す大切な資産となる。これらの「無形資産」こそが、金融資産や不動産などを含めた「有形資産」の源泉となっているのだ。ここで言う無形資産とは、一族個々のメンバーや一族が集団として持っているノウハウ・スキル・人脈などであって、会社のブランド・特許技術・知的財産などではない(当然に、企業の持つこれらの無形資産も重要である)。
無形資産が有形資産を生む
例えば古典芸能を継承する一族の例を見てみよう。後継者を育成するにあたって、親でもあり師匠でもある当主は子に稽古をつけ、躾を徹底して、身体感覚として技や伝統を伝えていく。これは、ファミリービジネスにおいても同じだ。子どもに家業を押し付けたくないという方もいらっしゃるが、ではあなたのやっている仕事は素晴らしくないのだろうか? あなたの一族が社会から評価され、尊敬されるのは、ファミリービジネスという事業を通じて世間と有機的な関係を結び、貢献をしているからこそではないだろうか?
そうした一族がいるからこそ、無形資産は強化される。しかし、人間の命は有限であり、いつかは終わりが来る。だからこそ世代間で無形資産を継承していくことが、ファミリービジネスにとって非常に重要になってくるのだ。
ファミリービジネスの強さ「所有と経営の一致」
さらに、ファミリービジネスの強さは、所有と経営の一致により、安定的な株主が経営戦略や一族の理念を共有していることも挙げられる。一族の理念とは、さらに具体的にはバリュー、ミッション、ビジョンに分類して捉えることができる。どのような社会課題を、どのような方法で解決し、誰にどのような配分率でその事業が生み出した付加価値を分配し、社会に還元するのか?
株主がこれらの諸要素を理解することにより、息の長い投資を行えるようになることもファミリービジネスのメリットだ。たとえ短期間で結果を出せなくても、長期間に渡って忍耐強く投資し続ける力があれば、長い目で見てその地域の中で勝ち残っていく可能性が高くなるからだ。
ファミリービジネスの強さ「利益分配の好循環」
もう1つ、ファミリービジネス特有の魅力であり、強さでもあるのが、一族の考え方に基づいて利益を地域に分配できることである。
日本のファミリービジネスの多くは非上場企業であるため、その利益の分配については一族の固有の哲学のもとに行うことが可能だ。一族哲学に基づく固有の利益分配がコミュニティに還元されるとき、地域の会社を応援するという考え方が消費者の中に根付くきっかけとなるし、コミュニティから信用されることにもつながる。この信用がソーシャルキャピタル(社会関係資本)となり、それが将来の一族事業のビジネスチャンスにつながっていく。この好循環こそが、ファミリービジネスの強みになる。
例えば、地域のファミリービジネスが地域の夏祭りにおいて打ち上げ花火を提供するかもしれない。また、地域の憩いの場としてのコンサートホール建設に向けての資金を提供するかもしれないし、安定した雇用を提供するかもしれない。地域社会においてこのような素晴らしい貢献をすることで、その反射効果としてビジネスの機会をいただき、同時に一族の無形資産を強化できるのだ。一貫した仕事のやり方をし続け、ステークホルダー(地域社会も含めた利害関係者)の皆が認めるような適切な利益分配をしている企業は、その地域において新規事業が始まる時に器となることが多い。