スチュワードシップとは?

スチュワードシップ(stewardship)は、元々は信託という考え方から派生している。信託というのは、委託者と受託者の間で交わされるある種の契約だ。

委託者は、例えばファミリービジネスのオーナーであり、その財産(法律的には「果実」と表現する場合が多い)をいずれは受益者である子どもに渡したいと考えている。ところが子どもはまだ幼く知識もない。今財産を渡してしまったら浪費してしまうかもしれないし、騙されてしまうかもしれないので、信託という効果的な枠組みの中で資産を運用管理する受託者に預ける。

ここに、信託契約を結んだ委託者と受託者がいるとしよう。すると、○×信託という法的な器が、あたかも法人のように財産(信託財産)の所有権を持つことになる。委託者はその所有する資産を○×信託に信託譲渡し、信託財産として預け、受託者はそれを運用し、管理して、最終的には果実を受益者である子どもに渡す。このような仕組みを通して受益者(=子ども)よりも能力のある受託者(プロの投資顧問業者)が資産を運用管理することで、委託者(オーナー)の資産をより長く、より良い形で受益者(子どもたち)へと繋げることができる。

信託財産の管理者、すなわち受託者は、法律上は厳然たる所有権を持っているので、預かっている資産を信託財産の目的にしたがって、受益者のためになるのなら如何様にも処分していいことになっている。しかし、ここにはちゃんと約束があって、「未来の株主のためにちゃんと管理してください。受益者のために運用してください」という信託設定の目的が大前提となっている。

そして、この約束こそがスチュワードシップという概念だ。すなわち、「未来の受益者がより多くの果実を収穫できるようにするために、今私たちは何をするべきなのか?」という考え方なのである。

未来を起点に今何をするべきかを考える

このように、世代を超えて受け継がれていく永続化を目指すファミリービジネスの場合、そもそも事業戦略の起点が未来に置かれている。まずは目標としている未来像を描き出した上で、その未来像を実現させるために今何をするべきかを逆算して考え、挑戦していく思考法を体現しているのだ。先のアクセル・デュマ氏の言葉は、この思考法を見事に表現している。

いまや世界はVUCAの時代に突入し、予測不可能になりつつある。ちょっと先の未来さえ見通せないからこそ、企業オーナーは明確なミッションとビジョンを持ち、それらを実現していくために今できることを着々と積み重ねていくべきである。

ファミリービジネスの目標を設定するには、あらためて自社のアイデンティティーについて、ひいてはそのファミリービジネスを経営してきた一族のアイデンティティーについてよくよく考えてみる必要がある。

自分を、そして自社を知ることにより、自分が大切にしている価値(= value)や立ち位置(= mission)、目指している未来像(= vision)がよりはっきりと見えてくるからだ。

「我々は何を大切にしていて、どのような社会的な価値を実現しようとしているのか」

「100 年後はどのような姿で、どのような事業を展開していて、事業と一族の間にはどのような関係性があってほしいのか」

「時代の流れとともに何を変えていき、何を変えないのか」

無形資産と有形資産の両方を再認識することで、両者の関係性を正しく理解することも重要だ。そして、それら2つを併せた広義の資産をどのように運用し、またその成果を地域社会にどのような理念に基づいて還元していくのかについても考える必要がある。

このような厳格な自問自答を経て、自社の目標と価値とを明確に定めることができたなら、VUCAという荒波に翻弄されながらも方向性を失わずに前へと進んでいけるだろうし、たとえ離岸流にさらわれてしまったとしても迅速に軌道修正を行えるはずだ。