この記事は2023年3月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「インフレでも底堅い個人消費、世帯間格差は拡大」を一部編集し、転載したものです。


インフレでも底堅い個人消費、世帯間格差は拡大
(画像=MinervaStudio/stock.adobe.com)

(総務省統計局「家計調査」)

わが国における過去のインフレ局面では、物価変動の影響を除いた実質消費が減少に転じるのが常であった。物価上昇に収入の増加が追い付かず、家計が購入数量を減らしたり、割安な商品にシフトしたりする傾向が強かったためである。その典型例といえる2014年には、消費者物価が消費税引き上げの影響で前年比3.3%上昇する一方で、世帯当たりの実質消費は同2.9%減少した。

これに対し、22年は物価が同3.0%上昇する中で、実質消費も同1.2%増加と底堅く推移している(図表1)。消費の内容を見ると、食品(外食を除く)については、過去と同様に支出を抑える動きが確認できる。一方、外食や宿泊などのサービス消費や、ガソリン、衣類など、コロナ禍からの経済活動の再開が追い風になった分野では、実質消費が増加した。コロナ禍による消費抑制で積み上がった過剰貯蓄がインフレによる購買力の低下を補い、消費を下支えしたかたちである。

個人消費のコロナ禍からの回復はなお道半ばにあり、リバウンドの余地は大きい。なかでも、衣類や教養娯楽関連の消費水準は19年の水準を1割以上、下回っている。足元では、過剰貯蓄が世帯当たり60万~70万円に上っており、今後も個人消費の緩やかな回復を支えていくことが見込まれる。

もっとも、こうした動きはすべての家計で一様に進んでいるわけではない。足元の物価高は、食料やエネルギーなど生活必需品が中心となっている。このため、所得の低い世帯ほど、相対的な負担が大きくなっている。食料と光熱・水道への支出額が可処分所得に占める割合を見ると、年収上位20%の勤労者世帯では16%にとどまる一方、下位20%の世帯では29%、引退世帯に至っては44%に上る(図表2)。

さらに、足元のインフレは、家計の収入にも影響を及ぼしている。23年の春闘では、もともと給与水準が高い大手企業の多くで、インフレに対応した賃上げ実施が見込まれている。一方、多くの中小企業は原材料コストの高騰などを背景に、総じて厳しい経営環境を強いられており、賃上げ実施が難しい。今後は、支出と収入の両面から世帯間格差が広がる可能性が高い。

インフレでも底堅い個人消費、世帯間格差は拡大
(画像=きんざいOnline)
インフレでも底堅い個人消費、世帯間格差は拡大
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日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員/小方 尚子
週刊金融財政事情 2023年3月14日号