本記事は、浦上克哉氏の著書『もしかして認知症?軽度認知障害ならまだ引き返せる』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています。

12の「認知症リスク因子」とは?

12の「認知症リスク因子」とは?
(画像=vicki hougaard jensen/EyeEm/stock.adobe.com)

ライフステージを「若年期(45歳未満)」「中年期(45~65歳)」「高齢期(66歳以上)」の3つに分け、それぞれの時期ごとに「認知症リスク因子」を示しています。

ライフステージによって認知症リスク因子が異なるという点は、予防にとっても非常に大事なポイントです。

たとえば、高血圧や糖尿病など、一般的な病気であれば、年齢によってリスク因子が変わるということはありません。しかし、認知症の場合には、ライフステージによってリスク因子が変わることが研究でわかったということだからです。

それでは、2020年版の論文で示されている12のリスク因子と、それぞれの発症リスクについて見ていきましょう。

12の「認知症リスク因子」とは?
(画像=もしかして認知症?軽度認知障害ならまだ引き返せる)

まず若年期ですが、リスク因子として「低学歴」があげられています。低学歴を解消することができれば、発症リスクを7%下げることができます。

中年期のリスク因子としては、「難聴」「頭部外傷」「高血圧」「過剰飲酒」「肥満」の5つがあげられています。頭部外傷と過剰飲酒は、2020年版で新たに加えられたリスク因子になります。

発症リスクが最大なのは、難聴の8%。これは12あるリスク因子中で最大です。

高齢期のリスク因子としては、「喫煙」「抑うつ」「社会的孤立」「運動不足」「大気汚染」「糖尿病」の6つがあげられています。

若年期はリスク因子が1つで発症リスクが7%、中年期はリスク因子が5つで発症リスクの合計が15%、高齢期はリスク因子が6つで発症リスクの合計が18%となっています。

これらすべてを足し合わせると40%となり、これらを解消すれば認知症の発症リスクを40%下げられる可能性があることを示しています。

「低学歴」が認知症に悪影響を与える?

それでは、若年期の「低学歴」から順番に、リスク因子である理由や予防対策などについて説明していきましょう。

若年期の低学歴が、認知症の発症と関係があると言われても、多くの人はピンとこないかもしれません。脳の神経細胞を使わないと弱って死んでしまい、認知症になると述べましたが、低学歴の人は、勉強をあまりしないため、若年期から死んでしまう脳の神経細胞が多くなってしまいます。

逆に、高学歴の人は、それだけ若年期から勉強をしてきた、脳の神経細胞を使ってきたことになりますので、中年期や高齢期になっても、多くの脳の神経細胞が元気なままです。

論文では、若年期の低学歴だけがリスク因子となっていますが、中年期や高齢期になっても勉強を続けていれば、認知症になりにくくなるのは明らかでしょう。

また、勉強でなくとも、知的好奇心をもって、いろいろなことに興味関心をもって、様々なことを学んでいれば、同様に認知症になりにくいと言えます。

若年期によく勉強した高学歴の人は、その後も脳の神経細胞の多くが元気なまま維持されており、このため、中年期や高齢期に少しずつ弱って死んでいくにしても、認知症になるまでには長い期間がかかります。

一方、若年期にあまり勉強しなかった人は、元気な脳の神経細胞が少ないため、中年期や高齢期に脳の神経細胞が弱って死んでいくと、あっという間に認知症になってしまいます。

こうしたことも含めて、低学歴が7%という比較的高い発症リスクになっているのではないでしょうか。

ただ、日本は発展途上国などに比べれば義務教育が非常に充実していますので、若年期の低学歴はそれほどリスク因子として影響していないのではないかと言われています。

「難聴」が最大の発症リスクである理由

12あるリスク因子のうち、8%と最大の発症リスクなのが、「難聴」です。

私も初めて論文を読んだとき、難聴が最も発症リスクが高いという記述を見て非常に驚きましたが、すぐに「よく考えれば、そうかもしれない」と納得しました。

たとえば、聴力が低下して「耳が遠くなる」と、テレビを見ていても音量を大きくしないと聞こえなくなります。大音量のテレビは、一緒に暮らす家族にとっては非常にうるさく感じられ、「もう少し音量を下げてよ」などと言われてしまいます。

音量を下げると、今度は何を言っているのか聞こえなくなるため、まったく面白くありません。その結果、テレビを見なくなります。

地域の会合などに行っても、他人が話していることがよく聞こえません。1度や2度であれば、「もう一度言ってもらえますか」などと聞き直すこともできますが、誰かが話すたびに聞き直していたら、みんなからうっとうしがられることでしょう。その結果、会合にも足が向かなくなります。

耳が遠くなった難聴の高齢者と話した経験は誰にでもあると思います。大きな声で話さないと相手に聞こえないため、大きな声で話すのですが、10分も会話をしていると疲れてしまいます。このため、家族であっても、いつしか必要最低限の会話しかしなくなってしまいます。その結果、会話が減ってしまいます。

こうしたことが認知機能の低下に影響を与えることは、私も理解していたので、難聴が最大の発症リスクであるということもすぐに納得できました。

ひと昔前までは、補聴器をつけるのは、聴力がかなり低下してからでした。しかし、現在では、聴力が少し低下した程度の早い段階から、認知症予防のために補聴器をつけることをアドバイスしています。

補聴器がより小型化され、デザインや性能が良くなったこともあり、つける高齢者の抵抗も減ってきています。

また、手足の動きが悪くなり始めたらリハビリテーションを行って機能の回復をはかるように、聴力が低下し始めた段階ならば、「聴力のリハビリテーション」が可能なのではないかという発想から、現在、研究が進められています。

もしかして認知症?軽度認知障害ならまだ引き返せる
浦上克哉(うらかみ・かつや)
日本認知症予防学会代表理事。鳥取大学医学部教授。1983年に鳥取大学医学部医学科を卒業。同大大学院博士課程修了後、同大の脳神経内科に勤務。2001年4月に同大保健学科生体制御学講座環境保健学分野の教授に就任。2022年4月より鳥取大学医学部認知症予防学講座教授に就任。2011年に日本認知症予防学会を設立、初代理事長に就任し現在に至る。日本老年精神医学会理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医。『科学的に正しい認知症予防講義』(翔泳社)など著書多数。

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