本記事は、浦上克哉氏の著書『もしかして認知症?軽度認知障害ならまだ引き返せる』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています。

1割程度いる「治療可能な認知症」とは?

1割程度いる「治療可能な認知症」とは?
(画像=Kiattisak/stock.adobe.com)

認知症は、現在、細かく分ければ100種類ぐらいあると言われています。認知症の専門医は、それらを細かく見分けて認知症の鑑別診断を行っています。私は30年以上、認知症患者を診ていますが、1例しか診たことがない珍しい認知症もありました。

読者のみなさんは専門医ではないので、症例が多い、つまり患者数が多い「4大認知症」と呼ばれる次の4つの認知症について知っていれば、基礎知識としては十分です。

1 アルツハイマー型認知症
2 レビー小体型認知症
3 血管性認知症
4 前頭側頭型認知症

これら4つの認知症で、認知症患者の総数の約9割を占めます。かかりつけ医の先生たちには、認知症は100種類ぐらいある病気であることを知ったうえで、この4つの鑑別診断を行ってくださいと研修の場などではお願いします。

それぞれの説明に入る前に、認知症という病気を知るうえで、必ず知っておいてほしいことがあります。それは、「治療可能な認知症」があるということです。

これまで、MCIの段階であれば認知機能を改善することができるが、認知症になってしまうと、機能を回復する治療はできないと何度も述べてきました。にもかかわらず、治療可能な認知症があるというのは、どういうことなのでしょうか。

実は、治療可能な認知症というのは、厳密に言うと、認知症とは違う病気です。代表的なものをあげると、内科的な病気としては「甲状腺機能低下症」、脳外科的な手術によって良くなる可能性が高い「正常圧水頭症」「慢性硬膜下血腫こうまくかけっしゅ」などですが、他にもいろいろな病気があります。

初めて外来に来たときには、誰もが「もの忘れが多くて困っています」と言います。

しかし、その人たちの中には、認知症ではない、認知症に症状がよく似た別の病気の人も含まれています。

認知症ではない、先にあげたような病気の人たちは、治療することが可能です。そこで、あえて「治療可能な認知症」と呼んでいるのです。もの忘れ外来で患者さんを診ていますと、1割ぐらい、認知症ではない別の病気―治療可能な認知症の人たちがいます。

まず、この治療可能な認知症という一群があるということを知っておいてほしいのです。

その理由は、認知症と言うと「治らない病気」だと思っている人が多く、早期受診をしない人が多いためです。

「認知症は早く診てもらったって、どうせ治らないんだから……」

このように考えてしまうと、認知症の疑いがあっても、病院に行かない人が出てきます。しかし、こう考えた人の中にも、治療可能な認知症である人が含まれています。

その数は、たかが1割かもしれません。されど1割です。

10人に1人は、うまくいけば治るのですから、1割というのはすごい数字です。

こうした治療可能な認知症の人を1人でも多く救うためにも、治療可能な認知症という一群があり、1割程度はそうした人なのだと知ってもらうことが非常に大事だと私たちは考えています。

患者の6割以上は「アルツハイマー型認知症」

それでは、4大認知症について、それぞれ見ていきましょう。

最初に説明するのは、認知症患者の総数の6~7割を占めると言われている「アルツハイマー型認知症」です。

アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβたんぱく」というタンパク質が脳の中に蓄積することで脳の神経細胞がダメージを受けて発症します。

軽度の段階である最初期には、「嗅覚障害」が起きます。嗅覚障害とは、においを感じとれない障害です。

ただし、嗅覚というのは自覚が難しい面があります。すべてのものに「におい」があれば、においが感じとれないことで嗅覚障害だとわかりますが、においがないものも多く、においが感じとれなくても、そのことが異常だとはなかなか思わないからです。

嗅覚障害は自覚することが難しいため、次に起きるもの忘れで異変を感じ、医療機関を訪れる人が圧倒的多数です。もの忘れも、最近のことを忘れるのが特徴で、古いことはわりと覚えています。

最近の研究でわかったのは、アミロイドβたんぱくは何十年もかけてゆっくりとたまり、よって、アルツハイマー型認知症はゆっくりと進行する病気だということです。それゆえに、病状が急激に悪化するということはありません。

それでも、「認知症の症状が急に悪くなった」と患者さんの家族が言うことがあります。考え得るケースは次の3つです。

1つ目は、アルツハイマー型認知症という診断が間違っていたケース。実は違う病気、次に説明するレビー小体型認知症だったというケースが頻度としては多くあります。

2つ目が、別の病気が合併して起こっているケース。たとえば、熱中症になっていたり、コロナに感染していたりすることで、認知症の症状が急に悪化しているように見えるケースがあります。

高齢者の場合、新型コロナのワクチン接種を行っても副作用が出る人はごく少数でした。これは、免疫反応が弱っているためで、ワクチンに対しても反応が鈍かったからです。

こうしたことから、たとえば、インフルエンザに罹患していても高熱が出ないということが起きます。状態があまり変わらないため、周囲の人たちも罹患していると思いません。

ただ、高熱が出ていなくても、本人は「かなり身体がしんどい」と感じています。首から下の体調が悪くて、頭だけ好調ということはあり得ませんので、周りの人は「認知症が急に悪くなった」と誤解してしまうのです。

もしかして認知症?軽度認知障害ならまだ引き返せる
浦上克哉(うらかみ・かつや)
日本認知症予防学会代表理事。鳥取大学医学部教授。1983年に鳥取大学医学部医学科を卒業。同大大学院博士課程修了後、同大の脳神経内科に勤務。2001年4月に同大保健学科生体制御学講座環境保健学分野の教授に就任。2022年4月より鳥取大学医学部認知症予防学講座教授に就任。2011年に日本認知症予防学会を設立、初代理事長に就任し現在に至る。日本老年精神医学会理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医。『科学的に正しい認知症予防講義』(翔泳社)など著書多数。

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