ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家だけでなく、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は坂本哲代表が、フィード・ワン株式会社代表取締役社長の庄司英洋氏にお話を伺った。

フィード・ワン株式会社は、神奈川県横浜市に本社を置く飼料メーカー。「Feedをはじめの一歩として、畜・水産業界の持続的発展に貢献し、食の未来を創造します。」という企業理念のもと、ESG経営にも積極的に取り組んでいる。本稿ではインタビューを通じて環境・脱炭素のテーマを中心に、同社の取り組みや成果、今後目指すべき姿を紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

フィード・ワン株式会社
庄司 英洋(しょうじ ひでひろ)
――フィード・ワン株式会社 代表取締役社長
1988年に三井物産株式会社に入社し、穀物・畜産物・砂糖などの取引・業務運営を経験。2018年に食料全体を俯瞰する食料・流通事業業務部長に就任。2020年にフィード・ワン株式会社へ出向し、経営企画部長として経営全般に関与しながら海外事業の展開、基幹システム導入プロジェクトなどにも携わる。2022年6月に同社に転籍して現職に就任。飼料メーカーとして日本の畜産・水産業を含む「食のバリューチェーン」を飼料から支えるべく、 業界全体の持続可能な社会の実現ならびに企業価値の向上に向けてESG経営を推進している。"

フィード・ワン株式会社
家庭の食卓に並ぶ肉・魚・卵・牛乳の「おいしさのみなもと」である飼料を製造・販売する、神奈川県横浜市に本社を置く飼料メーカー。安全・安心な「食」を安定的に届けることを使命とし、世界に食の感動を与えるリーディングカンパニーを目指す。事業内容は配合飼料の製造・販売に加え、畜水産物の仕入・販売・生産・加工等、またそれらに付帯関連するその他事業(農場の経営指導、家畜診療施設の運営等)を行っており、生産から販売まで一貫した食のバリューチェーンを構築している。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. フィード・ワン株式会社がESGに取り組む背景と具体的な施策
  2. フィード・ワン株式会社の脱炭素社会における未来像
  3. フィード・ワン株式会社から投資家へのメッセージ

フィード・ワン株式会社がESGに取り組む背景と具体的な施策

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):はじめまして、株式会社アクシスの坂本です。弊社は鳥取県に本社を構え、システム開発を中心とした事業を展開しており、昨今は再エネを可視化するプロダクトも提供しています。地方にありながら、売上の90%は首都圏の大手企業であることも特徴です。本日は、御社の取り組みを勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。

フィード・ワン 庄司氏(以下、社名、敬称略):フィード・ワンの庄司です。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。弊社は畜産・水産向けの配合飼料メーカーです。穀物や食品の副産物などを買い付け、これらを配合した上で畜産農家や水産養殖業者に販売しています。国内市場では、畜産飼料2,400万トンのうち350万トン、水産飼料60万トンのうち10万トンが弊社のシェアです。畜産では、約700万トンを出荷するJA全農(全国農業協同組合連合会)を除き企業としてはトップシェアを占めており、水産では三菱系、丸紅系、弊社の3社で市場シェアの約半分を占めています。弊社は協同飼料、日本配合飼料の2社が経営統合して、2015年に生まれた会社です。私は先代の山内(孝史)現会長から引き継ぎ、2022年6月から社長を務めています。本日はよろしくお願いいたします。

坂本:最初に、御社がESGに取り組む背景についてお聞かせください。

庄司:「おいしさのみなもと」である「配合飼料」を核とする食のバリューチェーンを担う弊社の事業は、自然の恵みと社会基盤の上に成り立っています。その中で、人・社会・環境の調和を図り、経営理念と行動規範に基づく活動を通じて、すべてのステークホルダーの皆様から信頼を得られるよう努め、持続的な社会の実現に寄与していくことがESGの理念です。

このような理念のもとでESGに取り組むとともに、弊社の持続可能な成長のための経営課題として、3つのマテリアリティを策定しました。環境に関しては「事業を通じた環境問題解決」を掲げて気候変動や資源保護、環境保全に取り組み、社会では「魅力ある職場づくり、社会との共生・共栄」、ガバナンスでは「ガバナンス強化」を掲げています。

▼フィード・ワンのマテリアリティ(重点課題)と取り組み内容

マテリアリティ_案
(画像提供=フィード・ワン株式会社)

弊社が身を置く飼料業界には従来からリサイクル的な側面がありますので、ESG経営を実践できていると思い込んでいたところがありました。ところが昨今の情勢から鑑みるとESG経営の体制構築が不十分であることが分かったため、2021年2月にESG委員会を発足し、会社として注目すべき項目を全社目標として掲げてきました。さらに、2022年4月にはサステナビリティ推進室を立ち上げ、ESG委員会の旗振り役として定期的な勉強会やeラーニングを活用した社員への教育・意識浸透を図るなど、全社での取り組みを加速させているところです。一方、上から一方的にESGやSDGsと言っても社員がピンとこない部分もありましたので、エコバッグを使う、健康のために1駅歩くといった社員一人ひとりの活動を「私のSDGs宣言」として設定し、それぞれの取り組みを年4回の社内報を通じて共有しています。

坂本:具体的には、どのような取り組みを行っていらっしゃいますか。

庄司:弊社の事業とESGの関わりはいくつもあり、その一つは「食品リサイクル」です。サラダ油を製造する際の搾りかす、小麦粉の副産物であるふすま(表皮部分)、米ぬかなど、配合飼料の原料は多岐にわたります。

▼食品副産物・食品ロスの活用

食品副産物・食品ロスの活用
(画像提供=フィード・ワン株式会)

加えて、最近はコンビニや飲食店から出る食品ロスや、食品工場から出る野菜の皮なども回収し、成分を均一化したものを弊社が購入した上で配合飼料にして、そのエサを与えた鶏の卵がコンビニの弁当になるなど、食品残渣を資源として活用する「食品リサイクルループ」に東京都と京都市で取り組んでいます。

▼食品リサイクルループの事例

食品リサイクルループ事例
(画像提供=フィード・ワン株式会社)

また、メーカーとしてエネルギーの見える化にも取り組んでいます。2017年に竣工した北九州水産工場、2020年竣工の北九州畜産工場は新しい設備なのでエネルギーの可視化が可能で、畜産工場においては旧工場に比べると約30%も原単位が下がりました。今後はこの取り組みを全社に広めてしっかり管理し、省エネ設備の導入も進めます。

水産資源の保護としては、無魚粉飼料の活用が挙げられます。従来、水産飼料には鰯などから魚油を生成する際に出る魚粉が使われていましたが、漁獲量が減り、水産資源の保護が叫ばれている昨今は魚粉ではなく、植物性たんぱく質を与えても同水準で魚が育つよう無魚粉飼料の研究開発を行っています。また、ワシントン条約で漁獲が制限されているマグロに関しては、親マグロから卵を採取して孵化・養殖するサイクルを回す完全養殖に30年以上前から取り組んできました。2014年に完全養殖に成功し、2017年からは関連会社を通じて出荷しています。その他、環境イニシアチブへの対応として2022年4月にTCFD提言に賛同しました。

▼クロマグロの完全養殖に成功

クロマグロ生簀
(画像提供=フィード・ワン株式会社)

坂本:カーボンニュートラルに向けた取り組みについても教えていただけますでしょうか。

庄司:2020年度のScope1、2におけるCO2排出量3万8,803トンに対して、2030年度に50%削減、2050年度にバリューチェーンにおけるカーボンニュートラルの実現を目指しています。この目標に到達するための現実的なロードマップを現在作成しているところであり、弊社でもボイラーの蒸気効率化(省エネ)やガスコージェネレーションシステムの導入(創エネ)などに取り組んでいます。また、配合飼料工場は縦に長いので屋根が狭く、太陽光発電設備の設置には不向きな面もありますので、外部からの再エネ由来の電力調達も選択肢の一つだと思います。

▼温室効果ガスの削減目標

指標と目標
(画像提供=フィード・ワン株式会社)

フィード・ワン株式会社の脱炭素社会における未来像

坂本:DXやIoTが進展し、近年はスマートシティ構想も現実味を帯びてきました。来るべき未来における脱炭素社会のイメージや、その中で御社が担う役割について、お聞かせください。

庄司:脱炭素社会の前に弊社が目指すのは、日本国民の皆様が安全で環境負荷が小さく、美味しいお肉や牛乳、卵をいつでも安心して笑顔で食べられる環境を実現することです。今は食品の値上げが相次いでいますが、その先には食糧不足が待ち構えているかもしれません。実際、鳥インフルエンザの影響もあり、一部スーパーなどで卵の欠品が目立つようになりました。弊社は動物性たんぱく質の根幹を担っている以上、まずは日本の皆様が空腹に悩まされないように、またQOLを保てるようにサプライチェーンを守ることが、第一に課せられた使命だと考えています。

一方、現状の温室効果ガスの排出において農畜産物門が占める割合は大きいため、このまま放置することはトップメーカーとして許されません。したがって、温室効果ガスの削減とサプライチェーンの保護を両立することも弊社の役目であり、それを実現することこそが脱炭素社会におけるあるべき姿だと考えています。環境に配慮しながら社会に貢献することが、弊社の目指すところです。

そのためには、先ほど紹介した食品リサイクルループの拡大や配合飼料による環境負荷低減、現場のDXやデータドリブン事業の推進、エネルギーの見える化をした上でのScope3を含めた温室効果ガスの算定と削減という4つの取り組みを進めています。食品リサイクルループに関しては、食品廃棄物をはじめとする有機質資源の減量化と再資源化に取り組む公益財団法人Save Earth Foundationに参画し、ワタミ株式会社を中心とした京都市内の飲食店やコンビニ等から出た食品ロスから生まれた飼料を市内の養鶏所で使い、そこで生産された卵を食品として市内の飲食店やコンビニ等に返す取り組みに携わっています。配合飼料についても、家畜の糞尿に含まれる温室効果ガスのもととなる窒素化合物の量を減らすための研究を始めています。この取り組みは経済産業省・環境省・農林水産省が運用する「J-クレジット制度」の方法論の一つとしても認められており、配合飼料メーカーとして畜産農家と協業する形でクレジット創出の権利を得ることが出来る、重要な取り組みであると認識しています。また、畜産業界は属人的でデータ活用が遅れていますが、弊社はアメリカの会社と提携し、最新の栄養技術によって農場ごとに最適な配合設計ができるシステムを既に活用しています。ゲノム解析によって最適なエサがわかるような技術も確立されており、データに基づく酪農経営を主導し、生産性の向上と環境負荷の低減につなげたいとも考えています。

▼乳牛ゲノム解析サービスを提供

ゲノムPR資料
(画像提供=フィード・ワン株式会社)

配合飼料の運搬に関わるCO2の排出も、見過ごせない課題です。例えばお客様の在庫を把握し、8割減るとエサをタンクに補給するようジャストインタイムで運搬することで、持ち戻りや緊急出荷などのロスが無くなり、運送も合理化されCO2排出の削減につながると思います。また、この取り組みを行うことでお客様自身が在庫管理を行う必要が無くなるため省力化が実現し、配合飼料工場においては計画生産を行うことで製造過程の効率化が図れるため、サプライチェーン全体での合理化にもつながると考えています。これらの取り組みを併行して進めつつも、まずは見える化したScope1、2におけるCO2の排出削減をしっかりと行い、その他Scope3を含む温室効果ガスについてもアクションプランを立てて見える化と削減に取り組んでいます。

坂本:御社は統合報告書などを通じて、ESGやサステナビリティに関する情報を積極的に公開しています。その際に心がけていることや、脱炭素を実現するにはどういったプロモーションを展開すべきだと考えていますか。

庄司:配合飼料は社会にとって重要である一方でBtoB色が濃く、消費者の目に留まらず認知度も低い商品です。だからこそ、積極的な情報公開を通じて弊社や配合飼料業界について知っていただくきっかけになることを期待しています。社会の機運もサステナビリティに向いていますから、事業自体がサステナビリティに貢献している弊社が認知される好機だと捉えています。投資家の皆様に対しても盤石な体制で臨んでいることをアピールし、株価の上昇にもつなげたいと思います。プロモーションとしては、農水省が主導する持続的な生産消費に向けた取り組みを進める企業や団体によるプロジェクト「あふの環2030プロジェクト」なども活用させていただいています。

フィード・ワン株式会社から投資家へのメッセージ

坂本:昨今は、多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。この観点で、御社を応援することの魅力をお聞かせください。

庄司:日本の食糧安定確保が厳しくなる中、飼料業界は安全・安心な畜産・水産物の生産基盤を支えています。また、小麦を挽くとふすま、大豆を搾油すると大豆油かすが副産物として必ず発生するため、定期的に処理しないと食品メーカーの工場は稼働できなくなります。その点で弊社は食品業界の根の部分にあり、副産物のリサイクルに深くかかわっています。飼料業界なくして日本の食品産業は成り立ちません。一方で、飼料の製造や運搬によって排出される温室効果ガスの環境負荷を無視することはできず、飼料の安定供給と並行してCO2削減も進めなければなりません。業界のリーディングカンパニーとして、急ピッチで取り組みを進めています。

また、国内外の大学や医薬品メーカー、穀物メジャーのカーギル社など、外部との提携による研究開発も積極的に行っていて、規模感のある環境負荷低減に貢献したいと思っています。日本の飼料メーカーの中では他社に先駆けてベトナムとインドに進出しており、日本の成功モデルを展開し、世界の食糧・環境問題の解決にもチャレンジしたいと考えています。こういった点に、ぜひご注目ください。

坂本:本日のお話で、私たちの食に深くかかわる飼料メーカーがどのような取り組みを行っているかわかりました。ありがとうございます。