ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資家による投資先の選定だけでなく大手企業にとっても企業の持続的成長を見極めるうえで重要な視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。

今回は、同社の宮本徹専務取締役が株式会社オカムラ サステナビリティ推進部部長の関口政宏氏にお話をうかがった。株式会社オカムラは、オフィス家具やストア什器(じゅうき)、物流システムなどの事業を展開する国内大手メーカーだ。1945年10月の創業以来、顧客のニーズを的確にとらえたクオリティの高い製品とサービスを社会に提供し続けている。

オカムラグループは、ステークホルダーからの期待や社会の要請に対し、グループ一体となって応えていくために「人が活きる環境の創造」「従業員の働きがいの追求」「地球環境への取り組み」「責任ある企業活動」の4つの観点から重点課題を特定し、サステナビリティ経営を推進。本稿では、インタビューを通じてESGの話題を中心にこれまでの取り組みや成果、今後目指すべき姿について紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社オカムラ
関口 政宏(せきぐち まさひろ) ――株式会社オカムラ サステナビリティ推進部 部長
1986年に大学卒業後、株式会社岡村製作所(現:株式会社オカムラ)へ入社。関連会社へ出向し、人事総務全般を経験したあと、オカムラ人事部へ戻り、採用や人事制度の企画、管理全般を担当。2018年には、経営企画部に異動し関連会社管理を担当、2020年にサステナビリティ推進部 部長に着任し現在に至る。

株式会社オカムラ
神奈川県横浜市に本社を置く「オフィス環境」「商環境」「物流システム」を主要3事業としている老舗企業。オフィス環境事業は、業界トップクラスかつ商品開発力に強みを持つ。1945年10月に神奈川県横浜市磯子区岡村町で岡村製作所として創業。1961年10月に東証2部、1970年6月には東証1部(現:東証プライム)に上場し、2018年4月に現商号の株式会社オカムラに商号変更し現在に至る。「豊かな発想と確かな品質で、人が活きる環境づくりを通して、社会に貢献する。」をオカムラのミッションとし、SDGsやESG経営などサステナビリティへの取り組みにも尽力している。
宮本 徹(みやもと とおる) ―― 株式会社アクシス専務取締役
1978年生まれ。東京都出身。建設、通信業界を経て2002年に株式会社アクシスエンジニアリングへ入社、現在は同社代表取締役。2015年には株式会社アクシスの取締役、2018年に専務取締役に就任。両社において、事業構築に向けた技術基盤を一貫して担当。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社オカムラの環境・脱炭素への取り組み
  2. 株式会社オカムラがイメージする脱炭素社会の未来像
  3. 株式会社オカムラのエネルギー見える化への取り組み

株式会社オカムラの環境・脱炭素への取り組み

アクシス 宮本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの宮本です。弊社は、鳥取市に本社を構え、ソフトウェア開発を中心に事業を展開しており、昨今は再エネ関連の自社プロダクトもリリースするなど、再エネの見える化事業も進めています。本日は、御社のESGに対する取り組みについて勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。

オカムラ 関口氏(以下、社名、敬称略):株式会社オカムラでサステナビリティ推進部の部長を務める関口です。本日はよろしくお願いいたします。弊社は、2020年にサステナビリティ推進部(前:CSR推進室は2018年4月に設置)を設置しました。新型コロナウイルスやウクライナ侵攻など社会情勢が変わるなか、サステナビリティ活動を加速させており、本日はその内容をお話しできればと思います。

宮本:最初に御社がサステナビリティ経営に取り組む背景や、ESGのなかでも特に環境・脱炭素に関する施策や成果についてお聞かせください。

関口:弊社は「豊かな発想と確かな品質で、人が活きる環境づくりを通じて、社会に貢献する。」のミッションをはじめとする経営理念「オカムラウェイ」を通じて、すべての人々が笑顔で活き活きと暮らす社会の実現に貢献するため、サステナビリティへの取り組みを推進しています。

▼経営理念「オカムラウェイ」

オカムラウェイ
(画像提供=株式会社オカムラ

2019年の当時CSR推進室の段階で「人が活きる環境の創造」「従業員の働きがいの追求」「地球環境への取り組み」「責任ある企業活動」の4つの観点から重要課題を特定し、KPIも設定のうえ取り組みを推進しています。

▼オカムラグループサステナビリティ重点課題4分野

重点課題
(画像提供=株式会社オカムラ)

1つ目は事業で社会課題の解決に資する「人が活きる環境の創造」、2つ目は従業員の働き方やダイバーシティなどに関する「従業員の働きがいの追求」、3つ目は気候変動や資源に関する「地球環境への取り組み」、4つ目はガバナンスを中心とした企業の基盤となる「責任ある企業活動」としています。

宮本:サステナビリティの推進体制は、どのように構成されていらっしゃいますか。

関口:代表取締役を委員長とし、各事業本部およびコーポレート部門を統括する執行役員により構成されるサステナビリティ委員会を2021年に設置しました。重点課題に関する年度計画に基づき、進捗をモニタリングおよび実績を確認しています。委員会は、年2回開催し審議・決議内容を取締役会に報告しています。サステナビリティ推進部は、事務局となり委員会の運営を行っています。また、全社推進活動については、全社横断のサステナビリティ推進プロジェクトを発足し、各事業本部の推進フォローおよび従業員への活動の浸透化を図っています。

▼サステナビリティ推進体制

推進体制.
(画像提供=株式会社オカムラ

宮本:重点課題のうち「地球環境への取り組み」について詳しく教えていただけますか。

関口:地球環境においては、気候変動だけでなく、水の調達の問題や人権などメーカーに問われる課題は広範囲に及びます。弊社では、1966年に日本初で間伐材から作るパーティクルボードを使用した家具を作り始め、公害対策に向けた組織を設置したりレポートを作成したりするなど、早期から環境対策に取り組んできました。

さらに2020年にサステナビリティ推進部ができたことで、重点課題の特定や2021年のカーボンニュートラル宣言、2022年にはRE100やSBT(Science Based Targets:科学と整合した目標設定)の認定取得も進めています。

カーボンニュートラルに関しては、2050年に温室効果ガス排出実質ゼロを目指しており、この目標を達成するために2030年の温室効果ガス排出量の削減目標を2020年比50%に定めています。2021年度におけるScope1、2排出量は約3万3,000トンと、前年度比では約18.8%の削減を行いました。

▼温室効果ガス排出量の推移

温室効果ガス排出量
(画像提供=株式会社オカムラ)

宮本:温室効果ガス排出削減のため、具体的にどのような施策に取り組んでいらっしゃいますか。

関口:生産事業所を中心に太陽光発電設備を導入し、事業所内の消費電力を賄っています。また、神奈川や山形、石川の事業所では水力発電による再エネも導入しました。若干のコスト増になっていますが、地産地消の電力を使い地域に貢献する意味合いを込めて使っています。一方、Scope3は基準年より実質増えていて、まずは数値を把握するところまできましたので、今後はいかに削減につなげていくかが課題です。

▼御殿場事業所に設置した太陽光発電設備

御殿場太陽光.
(画像提供=株式会社オカムラ)

製品づくりにおいては、省資源や長寿命化など7つの項目・基準を定めた「GREEN WAVE」を策定し、環境配慮型の製品づくりを推進中です。企画段階でこれらの基準を満たすことを確認し合致したものを「GREEN WAVE」製品として販売しています。環境負荷低減の観点の一例として、日本の使用済みの漁網をリサイクルした再生ナイロンと再生PET 糸を編み込んだニット素材「Re:net(リネット)」を開発し、「Re:net」使った製品づくりにも取り組んでいます。

2021年11月には、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の概念に基づいた「サーキュラーデザイン」の考え方を策定しました。従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みに加え、資源・製品価値の最大化、資源投入量・消費量の最小化などを積極的に進め、製品企画・設計からリサイクルまでに至るまでの製品ライフサイクルのなかでサーキュラーエコノミーの考えに基づいた製品づくりを行っています。

これまでは、製品の回収が難しかったのですが、ようやくそれができるようになり、再利用の目途が少しずつ立ち始めている状態です。

▼オカムラのサーキュラーデザイン

サーキュラーデザイン
(画像提供=株式会社オカムラ)

2022年1月からは、製品ライフサイクルを通じて温室効果ガスの排出量を正しく計算し、「カーボンオフセットプログラム」を行うサービスも開始しました。お客さまのScope3が少しでも減るように、また実質CO2ゼロの製品を提供したいと考えています。

効率的な輸配送としては、できるだけ工場からお客さまのもとへ直送したり梱包の仕様を変えたりすることで、少しでもCO2排出を減らす施策も取り組み中です。また環境のなかでは、生物多様性と自然共生に向けた「ACORN(エイコーン)」活動も進めており、「自然環境の保護」「資源の利用」「地域・行政とのパートナーシップ」「環境教育」の4つの切り口で活動しています。

宮本:グループ内でサステナビリティやESGに関して、社員の皆さんへの浸透に対しての取り組みについて、具体的に教えていただけますか。

関口:サステナビリティ推進部を立ち上げた時点で、全従業員に「SDGsという言葉を知っているか」「何に興味があるか」「何を知っているか」などアンケート調査を実施しました。そのアンケート調査の結果から従業員への定期的な情報発信が必要と考え、世の中の流れや自社の取り組みなどを記したメールを毎月配信しています。また、2ヵ月に1回紙媒体で配布している社内報でも同様に自社の取り組みを掲載しています。

定期的な勉強会の開催や、eラーニングツールの活用により、徐々に理解度は上がっています。
また、サステナビリティや環境、ボランティアなどの従業員の活動を、年に1回開催する創立記念式典で表彰しており、これらの活動も理解・浸透の一躍を担っています。

株式会社オカムラがイメージする脱炭素社会の未来像

宮本:来るべき脱炭素社会に向けて、御社がイメージする姿や、その中での御社の役割についてお聞かせください。

関口:個人的に意見になるかもしれませんが、先ほど「カーボンオフセットプログラム」について取り上げた通り、製品に対するCO2排出量の可視化が当たり前になってくると思います。金額や重さ、機能などのラベルにCO2が加わるイメージです。それが、お客さまの判断材料の一つになる時代が、すぐそこに来ていると感じています。

脱炭素社会とは異なりますが、弊社のオカムラ宣言にある「人を想い、場を創る。」という立ち位置としては、製品・サービスを提供するお客さまのその先も意識する必要があると考えています。例えば、弊社はコンビニやドラッグストア向けの製品・内装を手がけていますが、そこに来る消費者までをターゲットにした場づくりが、今後は求められるのではないでしょうか。

高齢化が進み、労働人口減少を見据えた誰もが買い物をしやすい店舗づくりや、シニアや障がい者も普通に働けるような物流倉庫などが挙げられます。

宮本:御社は、サステナビリティレポートなどを通じて、サステナビリティやESGへの取り組みを積極的に公開しています。公開にあたっては、どのようなことを心がけていらっしゃいますか。

関口:世の中の先進企業の取り組みを見ながら、「弊社独自で何ができるのか」という目線を持つようにしています。

株式会社オカムラのエネルギー見える化への取り組み

宮本:冒頭でお伝えした通り、弊社は再エネの見える化事業に取り組んでいます。御社は、すでにCO2排出量を可視化するなど、この点においても非常に積極的な印象を受けました。

関口:おっしゃる通り、すでに取り組んでいます。弊社はメーカーですから、CO2排出量のおよそ8割が工場からによるものです。そのため、かなり細かく職場単位で電力使用量を見えるような形にしたり、取引先から材料などのデータを提供していただいたりするなど、詳細にわたるCO2排出量の計算をしています。Scope1、2に関しては海外を含めたグループ会社も対象に数値を算出しています。

宮本:Scope3の削減は各社でも大きな課題ですが、御社が実際に取り組りくんでおられる対策があれば教えていただけますでしょうか。

関口:オフィス製品なら鉄の購入、小売店向けの冷凍冷蔵ショーケースに使うフロンガスなど、事業部ごとにサプライチェーンのなかでどの部分でどのくらいのCO2排出量が占めているかを分析し、それに対して自社が何をできるのか考えています。

一方、取引先については、まだこれからです。現状では、どれだけのCO2排出量の削減目標を掲げているのか、SBT認証の取得などについて情報を集めています。そのうえで課題を抽出して、アドバイスなどをしていきたい考えです。

宮本:昨今は、多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を抱いています。この観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。

関口:2023年4月以降はプライム上場企業の人的資本経営に関する情報開示基準が変わることもあり、働く場所に対する投資は重要になっていくと考えています。弊社の事業は深く関わっていますから、投資家の皆さまにはこういった点に注目いただきたいです。