本記事は、上阪徹氏の著書『文章がすぐにうまく書ける技術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

Notebook and pen with to do list words on wooden table background.
(画像=tonktiti/stock.adobe.com)

人は「忘れる生き物」だと認識する

「メモ」をしないと絶対に忘れてしまう

書く仕事をする上で、私は聞いたことや見たこと、大切なことを「メモ」することにかなりこだわっています。どうしてこれほどまでに「メモ」にこだわるのか。

それは、文章とは「何を書くか」こそが重要であり、その「素材」=「メモ」だからです。

何もしなくてもスラスラ書ける文才のある人でなくても、しっかり「メモ」さえ取っていれば、必ずスラスラ文章が書けるようになります。

実は「どう書くか」などよりも、はるかに大事なことは、「素材」=事実、数字、エピソード(コメント・感想)を「メモ」することなのです。

そしてこのことを強烈に思い知らされた、ある大学教授への取材がありました。

彼もまた「メモ」を極めて重要視していたのですが、理由は簡単で、「メモ」さえしっかりしていれば、さまざまな原稿がすばやく書けるからでした。

そしてもう1つ、なぜ「メモ」が重要なのか、こんな話をされたのです。

人間はそもそも、忘れるようにできているのだ、と。だから、「メモ」をしておかないと、どんどん忘れていってしまう。そのことがわかっている人は、ちゃんと「メモ」を取る。しかし、わかっていない人が、いかに多いか。

人間の歴史は約500万年と言われています。いまのような近代の生活は、人間の歴史からすれば、本当にごくわずかだったりします。

では、歴史の大部分、人間はどうして過ごしていたのかというと、多くの動物と同じようにジャングルにいたのです。

ジャングルで生まれ、ジャングルで生活し、ジャングルで食物を得て、ジャングルで一生を終えていたのです。

忘れることは、人間の本能である

では、ジャングルの生活とはどのようなものか。

想像できると思いますが、人間が最も強いわけではまったくありません。

どうもうな動物がたくさんいます。危険な爬虫類はちゅうるいや虫たちもいる。つまり、油断はできないということです。

それこそ、一瞬でも気を緩めると、ガブリ、とやられてしまうかもしれない。

常に緊張感を持ち、周囲に目を配って生きていかなければならなかった。そして、こういう歴史のほうが、はるかに長いのです。

では、人間はジャングルの危険の中で生き延びるために何をしたのか。

瞬時にリスクを察知できるよう、脳のスペースを常に空けておくようになったのです。そのためには、脳の中の余計な情報はどんどん捨てていかないといけない。こうして、本能的に忘れるようになっていったのです。

忘れることは、人間の本能なのです。

たしかに記憶力が優れている人もいます。また、とんでもない集中力を発揮する人もいます。しかし、もしかすると昔のジャングルにおいては、そういう人たちは生き残れなかったかもしれない、と彼は言っていました。

生きていくためには、脳に余計なものを置いておく余裕はなかったからです。

どんどん忘れたほうがよかったし、周囲が気になってしょうがない、そわそわと落ち着かない人のほうが、長生きができた。

実はそもそも人間は集中力が続かない、というのも、ちゃんと理由があったのです。集中なんてしていると、ガブリとやられてしまうから。

これは、忘れられない取材の1つとなりました。

仕事で指示を受けるときにも必ず「メモ」を

人は本能として忘れるようにできています。だから、何もしなければ、あっさり忘れてしまいます。それこそ、さっきまでやろうと思っていたことを、いきなり忘れてしまったりすることもあったりします。

仕事の帰りにコーヒー豆を買っていこう、と思っていたのに、忘れてしまった。子どものためのオムツを頼まれていたのに、すっかり失念した。ネットで炭酸水を注文しないといけなかったのに、うっかりしてしまった。観葉植物の水やりを忘れた……。

プライベートでも、大切なことをすっかり忘れてしまった経験を持つ人は少なくないと思います。しかし、仕事でうっかり忘れてしまったりすると、大変なことになってしまいます。

たとえば、上司から仕事の指示を受ける。こんな目的で、こんな人たちに向けて、こんなパワーポイントのスライドをこの日までに作ってほしい、とお願いされたとする。しかし、しっかり「メモ」を取っておかないと、忘れてしまう危険が常にあるのです。

あれ、何日の何時までだっけ? 何か注意しないといけないことを言われていたような……。なんてことになりかねないのです。

社会人になったら、当たり前のようにメモを取ることの大切さを教わるわけですが、それは忘れてしまうからです。

このくらいなら忘れずに覚えているだろう、と思っていたとしても、あっという間に忘れてしまったりするのです。

だから、必ず「メモ」を取る。打ち合わせには、メモできるものを持っていく。

パソコンでも構わないし、手帳でもノートでも構わないのですが、「メモ」をしっかり取る。

それを怠って、あとから再び上司に聞きに行く、などということになったら、部下としての信頼はまるつぶれです。ましてや、もし仕事の発注者がお客さまだったりしたら、いきなり残念な印象になってしまいます。

「To Doリスト」に落とし込み、うっかりを防ぐ

また、仕事は複数のものが入り組んで走っていきますから、いつまでに何をやるのか、は常に整理が必要です。

そのために、スケジュール帳や管理ソフトが意味を持ってくるわけですが、同時に大きな効力を持つのが、To Doリストです。

やらなければいけないことを、To Doリストにして一覧できるようにしておく。そして、できたものから、どんどん消していったり、リストからはずしていったりする。

そして「これをやっておかないと」と思い出したりしたものも、どんどんTo Doリストに追加していく。そうすることで、仕事のうっかりを防ぐことができます。

特に仕事がたくさん増えたり、複雑な仕事を受けたりするときには、To Doリストは必須です。

覚えていられるから大丈夫、などと絶対に思わないほうがいい。なぜなら、人間は忘れる生き物だから。それを前提にしたほうがいいのです。

忘れてしまったら、残念な人になってしまうのです。

ちなみに私は、仕事のTo Doはもちろんですが(仕事をどんどん細分化して、To Doリストに落とし込んでいます)、コーヒー豆を買う、観葉植物の水やりをする、などプライベートのちょっとしたこともメモするようにしています。

To Doリストに加えてしまうこともありますし、自分にメールを入れることもあります。

こうしておけば、うっかりを防げる。たったこれだけで、できなかった、というがっかり感やストレス感もなくなります。

また、仕事でインタビューするときに必ずICレコーダーを回していますが、仕事の発注や打ち合わせも録音しています。なぜかといえば、忘れてしまうからです。

もちろん、メモも取りますが、すべての内容をメモに取り切れない。なので、ICレコーダーで録音してしまいます。

もし、メモに書き切れなかったことがあれば、録音に立ち戻ればいい。

特に、納期が先のものに関しては、対応が先になりますから、くわしい内容を忘れてしまっているもの。録音は、貴重な「メモ」になります。

メモする・選ぶ・並べ替える 文章がすぐにうまく書ける技術
上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。雑誌や書籍、Webメディアなどで執筆やインタビューを手がける。著者に代わって本を書くブックライターとして、担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット』(三笠書房)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)など多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。ブックライターを育てる「上阪徹のブックライター塾」を主宰。

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