ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みは、投資先や取引先を選択する上で重要な要素の一つであり、企業にとっても自社の持続的成長の要因となっている。本企画では、エネルギーマネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、坂本哲代表がブックオフグループホールディングス株式会社取締役の森 葉子氏にお話を伺った。

ブックオフグループホールディングス株式会社は、神奈川県相模原市に本社を置く東証プライム上場企業。ブックオフグループは、古本、CD・DVD・ゲーム、スマートフォン・デジタル家電、ホビー・トレカ、アパレル、ブランド品・貴金属、スポーツ用品などの買取・販売を行うBOOKOFFチェーンを展開し、アメリカ・マレーシアなど海外にも出店している。また、大手百貨店に買取相談窓口を設置するハグオールや、ジュエリー オーダー&リフォームを行うアイデクトなど富裕層向けのサービスにも力を入れている。

リユース事業を展開する同社は、事業そのものが社会・環境問題の解決に寄与しているのが大きな特徴。「事業活動を通じての社会への貢献」「全従業員の物心両面の幸福の追求」という経営理念を掲げ、ESG・SDGsにも積極的に取り組んでいる。本稿ではインタビューを通じて、環境への具体的な施策や成果、今後目指す姿を紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

ブックオフグループホールディングス株式会社
森 葉子(もり ようこ)
――ブックオフグループホールディングス株式会社 取締役
1991年、大学時代のアルバイト先だった日本マクドナルド株式会社に入社。2008年に株式会社ロッテリアに転職し、2011年から同社人事部長。2012年に株式会社レックス・ホールディングス(現株式会社レインズインターナショナル)に入社、2016年に親会社のコロワイドへ転籍し、2017年より同社取締役を務める。2019年にブックオフコーポレーション取締役となり、2020年6月にブックオフグループホールディングス取締役に就任(現任)。2021年9月、ブックオフグループの障がい者雇用を担う特例子会社ビーアシスト株式会社代表取締役社長に就任。

ブックオフグループホールディングス株式会社
書籍、パッケージメディア、アパレル等の総合リユース事業を運営するブックオフコーポレーション株式会社をはじめとするグループ会社の経営管理及びそれに付帯する業務を行う。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. ブックオフグループホールディングス株式会社の環境・脱炭素への取り組み
  2. ブックオフグループホールディングス株式会社のニューエコノミー時代における未来像
  3. ブックオフグループホールディングス株式会社のエネルギー可視化への取り組み

ブックオフグループホールディングス株式会社の環境・脱炭素への取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの坂本です。弊社は鳥取市に本社を構えるIT企業で、再エネ見える化などのプロダクトなどを提供しています。取引先の90%が首都圏のお客様で、2020年11月には大手ゼネコンの鹿島建設と資本提携を結び、建設業界のDXに取り組んでいます。本日はよろしくお願いいたします。

ブックオフグループホールディングス 森氏(以下、社名、敬称略):ブックオフグループホールディングスの森です。弊社はリユースチェーン「BOOKOFF」を中心に事業を展開し、日本最大級のリユースチェーンとして、年間約9,000万人のお客様にご利用いただいています。本日は、環境問題を解決する上でのリユースの位置付けについてお伝えしながら、新たな知見を得たいと思います。よろしくお願いいたします。

坂本:最初に、御社の環境に対する取り組みについてお聞かせください。

:2015年に国連でSDGsが採択されてから、環境問題を解決できる企業の取り組みが注目されていますが、弊社はそれより前から値段が付かない古本を廃棄するのではなく、古紙へのリサイクルを行ってきました。売れ残った衣服も焼却するのではなく、できるだけリユースし、現在はマレーシアにある10店舗に輸送して売り切っています。3Rのうち、リサイクル(再資源化)にはどうしてもコスト負担が生じますが、リデュース、リユースはコストがかからず、またCO2の排出があまりないため、環境問題を解決する上で最初に取るべき手段だと思います。今後も弊社のリユース事業を多くの方にご利用いただきたく、事業拡大=環境問題を解決できるスキームに我々もさらに取り組まなければならないと考え、事業設計を行っています。

坂本:グループ内におけるESGの推進体制について、お聞かせ願います。

:2021年9月に、私の管掌下で広報・SDGs推進室を立ち上げました。本部署のSDGs推進チームが啓発活動や学校教育のためのプログラムの策定、百貨店の催事などへの出店などを行っています。2022年には社長を委員長とするサステナビリティ戦略委員会も立ち上げ、環境を含めたサステナビリティ経営の方針や具体的な数値目標を策定しているところです。

坂本:催事へ出店されていることについては、今回のお話で初めて知りました。

:ブックオフはリピーターの多い事業でターゲットが狭いのですが、まだリーチできていない環境問題に関心のある富裕層などに、弊社の活動が環境問題の解決に寄与していることを知っていただきたく、そういった活動もしています。

坂本:事業を通じた具体的な取り組みについても教えていただけますでしょうか。

:傷や破れ、水濡れのあるもの以外で値段が付く古本は、リユース品として販売しています。販売しないものも廃棄せず、100%古紙に回しています。国内のブックオフチェーンは年間で約3億9,470万点を買い取り、約2億6,778万点を販売していますが、本を始めCD、DVD、ゲームソフト、服商材でのCO2削減量は約20.5万トンに上ります。モノの寿命を延ばすことをテーマに、まだ使えるのに捨てる状況をなくし、ごみを減らすことが私たちの事業ですから、カーボンニュートラルの実現にも寄与していると考えています。

▼国内リユース事業におけるCO2削減量

ブックオフグループホールディングス株式会社
(画像提供=ブックオフグループホールディングス株式会社)

ちなみに、ブックオフは地域で買い取ったものは同じ店舗で売り切る地産地消のスタイルで、店舗間で輸配送することはほぼありません。そのため、他のチェーンビジネスと異なりガソリン消費量は非常に少なく、これもCO2排出削減に一役買っていると思います。

リユースだけではなく、資源循環構築のコンサルティングを手がけるモノファクトリー様を始め、学校や各種団体とパートナーシップを結び、不要品の新たな価値を創造・提案するアップサイクルにも取り組んでいます。例えば、流行り廃りが激しいレディース服を他のものに作り替えたり、CD・DVDに使われているプラスチック素材を分別・破砕し、リペレットした再生プラスチック資材を弊社オリジナルの商品「CDプラ」として販売したりしています。

▼古着を使ったアップサイクルコンテスト「Reclothes Cup」を開催(画像左)と「CDプラ」(画像右)

ブックオフグループホールディングス株式会社
(画像提供=ブックオフグループホールディングス株式会社)

坂本:再エネを活用した取り組みがございましたら、お聞かせ願います。

:再エネ事業者の皆様と面談をさせていただき、どういった電力が弊社事業にフィットするのかなど、現在研究を進めているところです。なお、店舗の照明を一部LED化するといった節電には、以前から取り組んでいます。

坂本:再エネの調達方法は、どのように検討していらっしゃいますか。

:太陽光パネルの品質はかなり良くなりましたが、リサイクルしづらいといったデメリットもあります。どちらかというと、再エネ電力の購入になると予想しています。

坂本:御社は、ESGのうち「S(社会)」に関する活動も積極的に進めていらっしゃいます。この取り組みについても教えていただけますでしょうか。

:今では多くの人が知るSDGsですが、少し前は認知が低く、いきなり環境課題の解決と言われてもピンとこない方がたくさんいました。そのような中、小学校でSDGsの授業が導入されると聞き、小学4年生から6年生までを対象に、2021年10月からSDGs活動とキャリア教育を融合した「学校ブックオフプロジェクト」を始めました。2022年12月末時点で全国の小学校24校、151クラスで実施しており、約4,200名が授業に参加しています。

▼「学校BOOKOFF」の取り組み

ブックオフグループホールディングス株式会社
(画像提供=ブックオフグループホールディングス株式会社)

創業の地である神奈川県相模原市と包括連携協定を結び、弊社グループの事業活動やリソースなどを通じて、地域の循環型社会形成の推進や地域の社会問題へのチャレンジ、教育支援を推進するなど、地域社会や行政、パートナー企業との取り組みもあります。環境・社会問題を1社のみで解決することは難しく、今は手を取り合って解決する時代だと思います。弊社はそのようなスタンスであり、関係各所とのパートナーシップを歓迎しています。

例えば東急との取り組みでは、「モノを捨てない」資源循環型まちづくりを目指して、東急電鉄や東急バス・東急トランセが鉄道・バス施設内で拾得したお忘れ物のうち法的な保管期限が過ぎ、東急電鉄が所有権を取得したものを我々が買い取り、ブックオフを通じてリユース品として流通させています。また、東急線沿線のお客様がより気軽にリユースを行える取り組みとして、期間限定の買取イベントも実施しており、東急は、忘れ物を売却した際のお金を再エネ電力の購入費などに充てています。

▼東急との取り組み(画像左)と不要品の買取イベント(画像右)

ブックオフグループホールディングス株式会社
(画像提供=ブックオフグループホールディングス株式会社)

また、古本の寄贈も行っています。ブックオフは年間約2.6億冊の書籍をお客様よりお売りいただいていますが、買取後に一定期間販売に至らなかった書籍はリサイクルし再び国内循環をさせています。しかし、販売に至らなかった書籍も、それを求めている方はたくさんいます。そのような書籍を必要としているけれど十分に集め切れない学童保育施設や子ども向け施設などに寄贈しています。

ブックオフグループホールディングス株式会社のニューエコノミー時代における未来像

坂本:DXやIoTが進展し、スマートシティのような構想も現実味を帯びてきました。来るべき未来における、脱炭素社会のイメージをお聞かせください。

:先ほど申し上げたとおり、我々の事業は地産地消を特徴としているため、地域コミュニティの強化に関心があります。経済特区ではありませんが、コミュニティで完結される経済のまちが作られていけば、重要な機能を担えると考えています。技術の進化によって、できることが広がると考えています。

坂本:御社はESGの取り組みをホームページで積極的に公開していますが、その際に心がけていることはありますでしょうか。

:実際に行っていることを記載するようにしています。計画や予定はいくらでも記載できますが、実行しなければ意味がなく、SDGs推進チームが実行部隊として広報活動を行う体制を構築したのは、そういった意味もあります。計画の立案も大切ですが、実行しながら改善し、その結果を公表するプロセスも大切にしています。

「SDGs」「ESG経営」が叫ばれる前からリユースに取り組んできたというプライドはありますが、自分たちが社会課題を解決しているという認識につなげることも大切なので、社内研修や社内報、オウンドメディアを通じて従業員への浸透も図っています。ブックオフは価格の価値を求めてご利用されるお客様が多いのですが、、店舗に行けば社会課題の解決に貢献できるといった、来店動機を変えられるような情報発信にも力を入れたいです。

ブックオフグループホールディングス株式会社のエネルギー可視化への取り組み

坂本:省エネや脱炭素を進めるには、電力やガスなどエネルギーの見える化が必須といわれています。このエネルギーの見える化に対して、御社ではどのようなことに取り組んでおられるのでしょうか。

:正直なところ、まだできていない部分があります。店舗で使用する電力の大半は空調で、あまり電力を消費していないことから、優先順位が下がっていることは事実です。しかしながら重要なことであることは認識していて、これから取り組みを加速させたいと考えています。

坂本:現状、Scope1、2を開示していますが、Scope3についてはどのように取り組まれていますしょうか。

:店舗の電力使用量は請求書から算出し、店舗開発の部署が中心となって集計・把握しています。国内800店舗のうち半分はFC店舗でして、Scope3にあたる加盟店のCO2削減量の把握には時間がかかり、今準備を進めているところです。

坂本:昨今は、多くの機関・個人投資家がESGに関心を寄せています。この観点で、御社を応援することの魅力をお聞かせください。

:リユースはCSRや社会貢献的な活動ではなく、事業そのものが社会課題を解決することを強く打ち出せる事業です。周りの企業からはうらやましがられますが、それに甘んじることなくリサイクルのスキームを構築するなどして、廃棄物の100%削減を目指しています。現状は92%ですが、残り8%を何とかクリアしたいと思います。モノの寿命を延ばし、リサイクルも含めて廃棄されるものを無くすことのできるリユースのリーディングカンパニーを目指し、弊社のサービスをご利用いただくことが社会課題の解決になると言い切れる体制を作っていきますので、ぜひご注目ください。

坂本:現状でも進んだ取り組みをされていますが、さらに前進する考えに触れることができました。ありがとうございます。