この記事は2023年2月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」を一部編集し、転載したものです。


花粉症対策
(画像=PIXTA)

目次

  1. 昨夏の猛暑の影響で予想される花粉の大量飛散
  2. 花粉の大量飛散をもたらす前夏の猛暑は1-3月の家計消費に悪影響
  3. 昨夏の猛暑により1-3月期の家計消費は平年比で▲0.7%減少

昨夏の猛暑の影響で予想される花粉の大量飛散

昨夏は記録的な猛暑に見舞われた。特に7-9月期の全国平均気温は平年を+1.4℃、前年を+0.9℃上回り、2010年と94年に次ぐ高温となった(資料1)。この影響により、今春は花粉が大量に飛散する可能性が高まっており、今春の花粉は過去10年で最多の大量飛散の恐れとされている。また、スギ花粉の飛散量のピークは3月中旬までとされており、大量飛散が懸念される。

花粉の飛散量に関係する統計として、前年夏の平均気温や日照時間がある。昨夏の記録的猛暑の影響で、今春の花粉飛散量が過去10年で最多の大量飛散になる可能性も指摘されているが、実際に 2022年夏の平均気温を見ると、2010年以来の高水準だったことがわかる。

花粉症は今や「国民病」と呼べる存在であり、花粉の大量飛散が現実のものとなれば、経済全般にも影響を及ぼすことが懸念される。

そこで本稿では、花粉が大量飛散した場合、日本経済にどれほどの影響を及ぼすのかについて分析してみたい。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

花粉の大量飛散をもたらす前夏の猛暑は1-3月の家計消費に悪影響

花粉の大量飛散は、主に以下の経路を通じて日本経済に影響を及ぼすことが想定される。まず、花粉が大量に飛散すれば、花粉症患者を中心に外出が控えられ、個人消費に悪影響を及ぼすことである。

具体的にはレジャーや小売、外食関連等の売れ行きが不調になると見られる。実際に、前年夏の気温と1-3月期の家計消費支出には関係がある。1-3月期の家計消費(前年比)と前年7-9月期の気温(前年差)の関係を時系列で見ると、夏場の気温が前年を上回った翌春の消費は概ね減少する関係があり、前年の猛暑は翌春の個人消費にとってマイナスであることが示唆される(資料2)。

第一生命経済研究所
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そして、1-3月期の家計消費水準指数の伸び率と前年7-9月期の平均気温(全国平均の前年差)の相関を品目毎に見てみると、2000 年代以降では外食を含む「食料」、レジャー関連を含む「教養娯楽」、外出頻度が増えれば支出されやすくなる「被服及び履物」、等の支出で前年夏の平均気温と比較的強い負の相関関係が現れている。一方、外出頻度が下がれば支出が増えやすくなる「光熱・水道」や、薬やマスク・医療費等を含む「保健医療」、空気清浄機などを含む「家具・家事用品」等の支出で正の相関関係が表れている(資料3)。

また、店舗形態別の売上との関係を見てみると、「百貨店」では花粉の大量飛散による強い負の相関が観測される一方で、「スーパー」での正の相関が観測される。この背景としては、花粉症になると百貨店に遠出して買い物する頻度が少なくなる一方で、近所のスーパーやネットスーパー等での買い物の頻度が高くなるためと推測される。  経済の平均成長率が4%程度あり、なおかつ花粉症患者が少なかった 80 年代までならこうした要因が個人消費に悪影響をもたらすことは想定しにくかっただろう。しかし、90 年代以降になるとバブル崩壊により経済の平均成長率が1~2%程度に低下する一方、花粉症患者も増加しているため、花粉の大量飛散が個人消費に悪影響を及ぼしていると考えられる。つまり、昨年の猛暑により花粉が大量飛散することになれば、日本経済に悪影響が及ぶことは否定できないだろう。

なお、過去の経験によれば、花粉の飛散量で業績が左右される代表的な業界としては、製薬関連やドラッグストア関連がある。また、カーテンやメガネ関連のほか、乳酸菌関連食品等も過去の花粉大量飛散時には売上げが大きく伸びている。

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昨夏の猛暑により1-3月期の家計消費は平年比で▲0.7%減少

昨年の猛暑による花粉の大量飛散によって、今年の日本経済にはどの程度の影響が生じるだろうか。

総務省の家計調査を用いて、過去のデータから前年7-9月の平均気温と1-3月の個人消費の関係式を作成し試算を行ってみた(注1)。すると、前年7-9月の平均気温が1℃上昇すると、翌1-3月の実質家計消費支出が▲0.5%押し下げられる関係があることがわかる。

したがって、昨年夏の平均気温が平年より 1.4℃上昇したことに基づけば、今年1-3月の実質家計消費は平年に比べ▲0.5%×1.4℃=▲0.7%(▲3,831億円)程度押し下げられる可能性がある。そして、産業連関表の付加価値誘発係数に基づけば、同時期の実質GDPは同▲0.2%(▲3,272億円)程度減少する計算になる。同様に前年比への影響を見れば、昨年夏の平均気温が前年より+0.9℃上昇したため、今年1-3月期の実質家計消費は前年比で▲0.5%×0.9℃=▲0.4%(▲2,455億円)、実質GDPが同▲0.2%(▲2,096億円)押し下げられる計算になる。

データ数が十分でなくこの推計結果は幅を持ってみる必要があるが、花粉の大量飛散は身体だけでなく、日本経済にもダメージを与える可能性があるといえよう。また、今春の花粉大量飛散により新規の花粉症患者が増加すれば、悪影響が更に拡大する可能性もあるだろう。

以上を勘案すれば、今後の景気動向次第では、日本経済に花粉の大量飛散が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元では、値上げや消費マインド統計の悪化等マイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では花粉の大量飛散といったリスク要因が潜んでいることにも注意が必要であろう。

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第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣