IoT(Internet of Things)は、各種センサーによって実現されています。すなわちDXがセンサーによって成り立っていると言っても過言ではありません。この記事ではIoTとセンサー、その種類、導入事例、IoTデバイスの自作方法、センサー自体の市場について解説します。
センサーとはなにか
センサーとは、日本語で言うと「検知器」です。さまざまな物理現象を検知し、電気信号に変換します。人間の体で言うと「五感」と呼ばれる感覚器の延長としての働きをします。センサーからの信号をもとにほかの機器は次の動作を決定したり、運転を開始したり、停止したりといったことを行うのです。
検出器というものもありますが、これが単に目的の事象の有無を「検出」するだけのものであるのに対し、センサーは検出後にその大きさを信号に変えるなどの反応を返すので、これらは区別されます。
センサーは、光や音や熱などの物理現象を電圧の変化やデジタル信号に変換し、出力する機能を持ちます。わかりやすいセンサーの例で言うと、マイクがあります。マイクは空気の振動である音声を電気信号に変えて、増幅したり出力したり、記録したりする機器に出力するわけです。
もっと身近な例で言えば、エアコンのセンサーの働きがあります。エアコンには温度センサーが付いており、適切な設定温度になるまで、吹き出す空気の温度をコントロールします。室内温度が設定温度に等しくなれば運転を緩やかにします。
IoTとセンサーの原理
今日のセンサーは、半導体と共に普及が促進されてきました。センサーの元祖と言えば温度計がありますが、温度センサーは温度の変化で金属の電気抵抗が変わる原理を応用したものです。
血圧計などに使用されている圧力のセンサーも「ダイヤフラム」と呼ばれる弾性体をシリコンウエハー上に生成したものが使われています。このダイヤフラムは圧力が加わってたわみが生じると電気抵抗が生じる性質があり、圧力センサーはこの原理を使っているのです。
ゲーム機のコントローラーの中には動かした勢いを感知するものがあります。これには加速度センサーが使われています。小さい筐体の中にも組み込めるような小ささにできたのが、普及の要因でしょう。光センサーも半導体です。カメラをはじめ自動ドアや、自動点灯ライトなどさまざまな場所に普及できたのも半導体技術によって小型化できたことが原因です。
各種IoTセンサーの種類
センサーにはさまざまな種類があります。すべてを紹介できるわけではありませんが、ここでは、われわれの身近にあるものを10種類集めてみました。
・加速度センサー
加速度センサーは自動車のエアバッグの作動スイッチに使用されていましたが、ゲーム機のコントローラーに使用されたことで一気にその認知度が高まりました。半導体にひずみが加わると電気抵抗が発生する原理を応用しています。
加速度センサーは圧力センサーの応用です。加速度が加わってダイヤフラムと呼ばれる膜がひずみ、電気抵抗が生じた量によって加速度を測定します。スマートフォンの歩数計や、カメラの手振れ補正などに活用されています。
・ジャイロセンサー
加速度センサーでは反応しない回転の測定をするセンサーです。搭載するものとしては、加速度センサーと同じで、車やスマートフォン、デジタルカメラの手振れ補正用などです。カーナビで車の方向が変わったのを検知するのはジャイロセンターの働きです。
振動している素子に回転運動が加わるときに発生するコリオリの力というものを利用します。コリオリの力は加速度と比例しており静電容量の変化でとらえられます。スマホやデジカメなどのほか、人工衛星やロケット、飛行機などにも欠かせないセンサーです。
・光センサー
光センサーは、数あるセンサーの中で最も一般的なものです。光の強弱を信号に変換できるので、これを応用して、いろいろな用途に使用することができます。目に見える光だけではなく、紫外線や赤外線など目で見えない光の検出を行うセンサーもあります。
光センサーは意識しませんが、ほとんどの人は毎日のように自分で使用していることでしょう。テレビのリモコン、自動ドアのスイッチ、暗くなると自動的に点灯するライトなどです。産業用としては製品が通過するのをカウントしたり、バーコードリーダーにも使われたりしています。
・イメージセンサー
イメージセンサーは人間の網膜のような働きをする素子を使ったセンサーで、デジタルカメラに使用されます。現在はCMOSイメージセンサーという方式のものが主流になってきました。
マイクロレンズとR・G・Bのカラーフィルターを通過した光がフォトダイオードに当たると、光の強さと色の電気信号が発生します。この働きをする小さな素子をたくさん集めてカメラのフィルムの代わりにするのです。この素子数が解像度ということになります。ちなみにこのフォトダイオードの働き方は太陽電池などと同じ原理です。
・音センサー
音センサーは音を電気信号に変える仕組みですが、マイクロホンと同じ原理です。音に反応して動作させたい機器類があるときなどに使用します。音声で操作できる機器や音に反応して何かの通知をするための装置など利用用途はたくさんあります。
音によって機器を操作したり、人に何かを通知したりするほか、音センサーで記録した音の波形を分析することで、機械の異常や劣化を感知する用途もあります。
・環境センサー
温度・気圧・紫外線・二酸化炭素など、環境を左右するものをデータ化するセンサーです。一口で環境センサーと言っても何をデータ化するかによって変わってきます。温度センサーは冷蔵庫などの家電にも使われていますし、気圧センサーは高度を計るのに使用されます。紫外線センサーは紫外線硬化樹脂の製造や、身近なところでは空気清浄機などにも使われています。
二酸化炭素センサーは、二酸化炭素濃度計等に使用されます。地球環境を気にかける人が多いので、工業用以外にも一般用として需要が高まっています。
・圧力センサー
前段、環境センサーのところで気圧のセンサーも含めましたが、圧力を感知してデータ化する、この圧力センサーに含まれます。圧力センサーは、ピエゾ抵抗が外からの力を受けて変形するときに電気抵抗の値が変化する現象を使っています。
高度計・気圧計のほか自動車や航空機のエンジン制御・ブレーキ・油圧の計測、医療用では血圧計などに使われています。非常に多用途でタイプもさまざまなものがあり、気付かないけれども身近なセンサーとなっています。
・流量センサー
液体や気体の単位時間当たり流量を測るのが流量センサーです。現代の流量センサーのなかには、直接液体に触れることなく、計測管となるパイプの外側から流量を計測することができます。センサーは液体が流れるパイプに巻き付けるように設置します。
流量センサーには電磁石が付いておりコイル内に電気を流すと計測管の中に磁界が発生します。その中を液体が通るときに発生する起電力の大きさを測定するという原理です。
このほかにもいろいろな原理の流量計があり、流量を計測する方法はさまざまです。
・距離センサー
距離センサーは目的物までの距離を測るものですが、測ることからわかるいろいろな変化を知るために使われます。距離センサーの原理は、目的物にレーザー光線を発射して反射してくる光を感知して、その時間差や位相差を計算式に当てはめて距離を計測します。
位相差方式、TOF方式、三角測量方式など用途に合わせて違う方式が採用されます。建築・土木の測量、工場のFA(Factory Automation)、位置制御、タンク内の駅量測定など産業界のあらゆるところで使われています。
・GPSセンサー
GPS(Global Positioning System)とは、人工衛星を使って地球上での位置を特定するシステムのことです。2つの人工衛星から信号を発信した時刻が送られてきますとその時間差から衛星までの距離が分かります。2つ以上の衛星との距離を合わせると、計算からほぼ地球上での位置は特定できるというわけです。
GPSセンサーは、軍用をはじめ航空機や船舶、測量などに用いられてきましたが、現代ではカーナビやスマートフォン、ドローンなどに使われすっかり身近なものになりました。
各種IoTセンサー活用事例
これらIoTセンサーの用途は無限にあります。アイデア次第でさまざまな課題の解決に役立てることができるでしょう。これまでにもIoTセンサーを思わぬ方法で活用し、課題解決につなげた例がありました。
それらはどのように活用され、役立っているのでしょうか。ネットで紹介されているものの中から好事例を4つご紹介します。
・東日本高速道路(NEXCO東日本)
東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)は、道路に散布する凍結防止剤の量を最小限に抑えるシステムの実用化に成功しました。
同社では路面の凍結状況を把握するために雪氷巡回車を走らせますが、路面の状態をタイヤ内に取り付けた加速度センサーによって感知し、凍結した道路を発見すれば、GPSでその位置情報をサーバーに知らせるというものです。サーバー側では100m間隔で最適な凍結防止剤(塩化カルシウム等)の散布量を計算、その情報をもとに、雪氷巡回車の後ろについて走る散布車が自動的に適切な量を散布します。
IoTセンサーを活用したこのシステムによって、無駄に散布することが減ったため、散布量は前年比10%減少したといいます。
・日本交通、JapanTaxi
ジャパンタクシー(JapanTaxi)は、タクシー大手、日本交通のシステム子会社です。この会社は実にいろいろなことにチャレンジしていて、話題に事欠きません。タクシーの配車システム、相乗りができるシステムなどを開発しています。
ジャパンタクシーでは「JapanTaxi Data Platform」という、走り回るタクシーに取り付けた各種センサーからデータを集め分析するシステムを開発中です。路面状況、天候、渋滞状況、花粉の飛散状況、道沿いの情報等、道路を縦横無尽に走り回って集められる情報があります。こうした情報を集め分析することでリアルな現在状況を知ることができるようになるでしょう。
人を運ぶためのタクシーが、IoTによって新たな価値を生み出そうとしています。これこそDXというべきでしょう。
・ブリヂストン
ブリヂストンはタイヤの摩耗状況をセンサーで推定する技術を開発しています。タイヤは走行時に路面と接触する部分がひずみますが、このひずみをセンサーで計測します。タイヤの空気圧や温度を計測するセンサーは従前からありましたが、センサーを用いてタイヤのひずみを計測、そのデータから摩耗度を計算するシステムです。
ブリヂストンで培われたタイヤ技術と、AIを活用した解析手法によってタイヤの摩耗状況が分かるのだといいます。目視によるタイヤの点検は、車に詳しくない人にとってはわかりにくい場合もあるし、そもそも頻繁に点検しない人もいます。これを使用すればタイヤの摩耗をタイヤが教えてくれるようになり、交通安全に寄与します。
・サトーホールディングス
バーコードなどのラベルプリンターやRFIDなど、自動認識ソリューションを提供するサトーは、IoTを活用する代表格的な企業です。
同社のラベルプリンターはあらゆる企業で重要な役割を果たしているため、故障すると業務が停止し重大な損害を生じさせかねません。そこで、プリンターにセンサーを付け部品の摩耗や故障を事前に感知し、クラウドに通信するようにしました。
これにより、予防的に部品を交換することが可能になって保守サポートの業務は圧倒的に省力化されるようになりました。また、機械がダウンして業務が停止することが無くなり生産性も上がったといいます。
このシステムを「SOS」(SATO Online System)と同社では呼んでいます。
IoTセンサーデバイスを自作する
IoTセンサーを使って何かをしたい場合、費用をかけずに実行する方法として“自作する”という方法があります。これは市販されている安価なマイクロコンピュータボードにセンサーを接続して使う方法です。
こうした用途で使われる代表的なマイクロコンピューターには「Arduino」(アルディーノ)があります。ハードウェアについての専門的な知識がなくても開発しやすいようにソフトウェアも無料でそろっています。ソフトウェア技術者であれば簡単なセンサーは自分で作成可能なのです。
例えば、「Arduino」(アルディーノ)と温度センサーを購入してこの2つを接続します。4本の線を所定の端子につなぐだけです。これでセンサーからデータを取り出して出力する装置ができるわけです。出力される信号の形式を表示するなり、保存するなりと、次の動作を処理するようにプログラム側で制御すればよいということになります。自作ですので、費用もかからず、自分で好きなようにいくらでもカスタマイズできます。ローコストで融通が利くメリットが好まれて、このような方法で自作する企業が増えていると言うのです。
ただし、非常に高精度で信頼性を問われるところに使うのは、やめておいたほうがよいかもしれません。
IoTセンサーの市場は
DXの流れに乗り、センサーの出荷実績は伸び続けています。JEITA(一般社団法人電子技術産業協会)の発表によると、2020年と2021年の世界73社290製品のセンサーの出荷実績は、1兆8000億円~1兆9000億円にも及んでいます。
過去の推移を見ると調査の始まった2009年から多少の変動はあるものの、全体的に右肩上がりで推移しています。IoT化、DXが進行しつつあることが、このことからもわかります。
センサーが、産業全体にとって重要性を増しているとも言え、直近十数年の間にセンサー市場は非常に注目される市場に成長しました。
IoTとセンサーのこれから
1990年代、第1の波として個人のパソコンがインターネットに接続できるようになりました。2000年代、第2の波として携帯端末がインターネットに接続されるようになりました。そして、第3の波として2013年からモノがインターネットにつながるようになったのです。
国が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みでも、センサーを活用したDXの実践がトピックとなっています。2022年9月に経済産業省が発表した『「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(改定案)の概要』でも、センシングを活用したDX化の事例が紹介されています。
また世界各国も、以下のようにIoTやセンシングにおいて、さまざまな取り組みを実施しています。
設備故障による稼働停止を防止する「設備モニタリング」、作業時間計測による生産性改善を図る「作業者モニタリング」、検査工程の短時間化を図る「自動検査」が挙げられています。
このように、何かがインターネットにつながるようになる度に、世の中のしくみや人々の習慣が変わってしまうような大きな変化が起きています。センサーによって無限に広がる応用法は次々と産業界に変化をもたらし、生産性も上がっていくでしょう。
この変化が労働力不足という社会課題の解決につながることが期待されます。
(提供:Koto Online)