次世代電力網として話題のスマートグリッドは、脱炭素実現や再生エネルギーの普及に欠かせない取り組みと言われています。本記事では、世界的に導入が進むスマートグリッドの仕組みや背景、メリット・デメリット、実際の導入事例について見ていきましょう。

目次

  1. スマートグリッドとは?簡単に解説!
  2. スマートグリッドの仕組みとは?
  3. スマートグリッド導入後はどうなる?
  4. スマートグリッドのメリット
  5. スマートグリッドのデメリット
  6. 日本企業でのスマートグリッドの導入事例
  7. スマートグリッドネットワークの市場規模は今後どうなる?
  8. 限りある資源を守るためにはスマートグリッド導入は欠かせない

スマートグリッドとは?簡単に解説!

スマートグリッドとはいったい何?メリット・デメリットと日本での事例を紹介
(画像=stnazkul /stock.adobe.com)

まずは、スマートグリッドとはどういうものなのか、そしてどうして注目されているのかを紹介します。また、スマートグリッドを語る上で比較されるマイクログリッドとの違いについても見ていきましょう。

スマートグリッドが注目されている背景

そもそもスマートグリッドとは、「スマート(smart)=賢い・洗練された」と「グリッド(grid)=電力網」を組み合わせた言葉です。つまり、これまでの電力網よりも進化した電力網ということで、次世代電力網などと言われることもあります。

具体的には、電力網に通信ネットワークなどを統合させたものです。スマートグリッドを導入すれば、消費電力に合わせて必要な電力を送電できるようになるなどのメリットがあります。スマートグリッドの仕組みやメリットについてはのちほど詳しく説明します。

では、どうしてスマートグリッドが注目されているのでしょうか?日本も含め世界的にIT技術が発展することで、電力需要は増加傾向にあります。しかし電力網は、昔整備された設備のままです。特に2000年初頭のアメリカでは、急激な電力需要の高まりに耐え切れず、たびたび大規模な停電を引き起こしました。

停電の主な原因は、電力需要の増加と電力網の老朽化です。広大な面積を誇るアメリカでは、人々の生活を守るために、新しい電力網を敷設したものの、発電所や変電所の設置が追いついていませんでした。

そこで注目されたものがスマートグリッドで、アメリカの各地で実証実験が行われました。そして、オバマ政権下にて、電力網の刷新やスマートグリッド導入が積極的に進められ、ヨーロッパ各国や日本でも注目されるようになったというわけです。

スマートグリッドとマイクログリッドの違いは?

スマートグリッドに注目が集まる中、比較されるものがマイクログリッドです。マイクログリッドは、「マイクロ(micro)=微細、小さな」と「グリッド(grid)=電力網」を組み合わせた言葉で、小規模な電力系統のことを言います。太陽光発電などの自然エネルギーを使い、エリアも限定的です。

スマートグリッドは、ある程度の大きなエリアが対象となり、情報通信技術を活用した電力供給を行う技術のことです。マイクログリッドは、スマートグリッドを活用して管理していくため、名前は似ていますがまったく違うものと言えるでしょう。

日本のように各地で災害が起こる可能性がある場合、東日本大震災のような大地震で発電所が被災すると、広範囲で停電を引き起こします。そういった場合に、マイクログリッドを導入しておくと、主要発電所が被害を受けてもマイクログリッドから電力を得られるというメリットがあるのです。

現在の日本の電力事情は

先ほど説明したように、一般的な日本の電力の流れは、主要発電所で作った電気を家庭や企業などに送電する方法です。一方向に送るため、集中型電源と呼ばれています。反対に、太陽光などを利用して家庭や企業などが個別に発電する方法を分散型電源と呼びます。

分散型電源を導入すると、「電力会社から家庭や企業」という電力の流れから「家庭や企業から電力会社」へ流すことも可能です。分散型電源を導入すれば、災害時でも電力を得られるなどのメリットがありますが、自然エネルギーでの安定発電が難しかったり、電力の品質が低下したりするなどのリスクが考えられます。

分散型電力のメリットを生かし、デメリットを減らしていくためにもスマートグリッドの導入が必要なのです。

スマートグリッドの仕組みとは?

日本に限らず、世界各国で導入が進められているスマートグリッドの仕組みについて、見ていきましょう。また、スマートグリッドを実現するためにはどういった技術が必要なのでしょうか。

スマートグリッドの仕組み

前述した通り、スマートグリッドはIT技術を搭載した電力網のことです。スマートグリッドを導入することで、電力の供給側である発電所と消費側の家庭や企業がネットワークで結ばれます。双方向でデータのやり取りができるようになると、供給側は、消費側がどれだけ電力を必要としているのかを把握できるようになるというわけです。

スマートグリッドを導入しなければ、消費側の需要を考えず、いつもと同じ量の電力を供給し続けることになるため、消費側が電力を使っていなくても電気を作り送電していることになり、電力を無駄にしてしまうという問題が起こります。

スマートグリッドを導入すれば、必要なときに必要なだけ電力供給をすれば良いことになるため、無駄を省き効率的な運用ができるというわけです。

スマートグリッドを実現するために欠かせない2つの技術

スマートグリッドを実現するために必要不可欠な技術は、スマートメーターとHEMSです。

スマートメーターとは、通信機能を持つ電力計測器のことです。例えば家庭にスマートメーターを設置すると、家庭での電力使用量や発電量などのデータを自動計測してくれます。計測はリアルタイムで行われるため、発電所は最新の情報を常に得られるというわけです。

次にHEMS(Home Energy Management System)とは、スマートメーターから得た電力データを受け取り、電力のコントロールを行うシステムのことです。HEMSがデータを最適化してくれることで、電力の消費量のピークを予測して蓄電池の開放を行います。消費量が少ない場合には、発電した電力を蓄電池にためるように動作します。

スマートグリッド導入後はどうなる?

スマートグリッドとはいったい何?メリット・デメリットと日本での事例を紹介
(画像= zhu difeng /stock.adobe.com)

スマートグリッドを導入すると、スマートコミュニティを実現できます。スマートコミュニティとは、環境に配慮した都市であるスマートシティとも呼ばれ、通常の電力に加え自然エネルギーを含めた電力を無駄なく活用できるようにしたコミュニティのことです。

スマートコミュニティの推進は、経済産業省が主導しており、すでに実証実験が行われています。例えば神奈川県横浜市は、次世代エネルギー・社会システム実証地域に選ばれ、マスタープランを作成しました。横浜市の取り組み目標は、以下の通りです。

  • 2050年度までに1人当たりの温室効果ガス排出量の2004年度比60%以上の削減

この目標を達成するために、2025年度までに1人当たりの温室効果ガス排出量の2004年度比30%以上の削減と、再生可能エネルギーの2004年度比10倍の導入を目指しています。

スマートグリッドのメリット

ここからは、スマートグリッドを導入すると、どういったメリットがあるのか見ていきましょう。

再生可能エネルギーを効果的に使えるようになる

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、地球にやさしいエネルギーとして注目されていますが、発電量が不安定で供給量も少ない点が課題です。

スマートグリッドを導入すれば、再生可能エネルギーの発電量が不足している場合は、その他の電力を追加供給することで電力供給を安定させることができます。また、再生可能エネルギーがたくさん発電して余ったのであれば、蓄電して必要なときに使えて、無駄なく効果的に使えるようになるというわけです。

また、分散型電源になることで、家庭や企業で発電した再生可能エネルギーを売電し、相互で電力を融通し合うことが可能になります。

電気の流れや使い方が把握できる

スマートグリッドを導入すればスマートメーターが設置されるため、電力の需給をリアルタイムで確認できるようになります。電力を必要とするときに必要量を供給できるようになるため、無駄な発電を防げるという点がメリットです。

また、スマートメーターの設置によって、普段の電気の使い方について把握でき、家庭や企業などで節電への意識が高まる可能性があるでしょう。

需要に応じて効率的な電力供給ができる

家庭や企業では、電力を多く使う時間帯やほとんど使わない時間が存在します。しかし、集中型電源の場合、時間に関係なく送電が行われているため、使われない電力が生じるケースもあるでしょう。例えば、共働きの家庭の場合、日中の電力消費は少なく、夜間の電力消費が多くなるといった具合です。

こういった場合にスマートグリッドを導入しておけば、電力需給に応じた電力供給ができます。電力消費が少ない時間帯には蓄電を多めに行うことで、使われない電力を無駄にせず効率的な利用ができるでしょう。

非常時のリスク軽減につながる

集中型電源の場合、発電所が災害や事故で稼働できなくなると、大規模な停電を引き起こす可能性があります。また被害が大きい場合、復旧までに時間がかかるケースもあるでしょう。

スマートグリッドを導入しておけば、発電所からの電力供給が難しくなっても、分散された電源から電力を相互に融通し合うことで、電力不足を解消することが可能です。さらに家庭において、蓄電池や電気自動車などを導入しておけば、自家発電によって非常時の電力確保ができます。

スマートグリッドのデメリット

スマートグリッドにはメリットが多く、これからの未来に必要な技術であると言えるでしょう。しかし、メリットだけではなくデメリットもあります。ここでは、スマートグリッドのデメリットについて見ていきましょう。

導入にはコストがかかる

スマートグリッドを導入するには、コストがかかります。例えば、次世代電力網に変更するための費用や供給側と需要側をつなぐ通信ネットワークの設置コスト、蓄電池の設置などです。

スマートグリッド導入で欠かせないスマートメーターの本体価格は1万円ほどです。「令和2年国勢調査人口等基本集計結果概要」によると、東京都の総世帯数は約720万世帯のため、1万円のスマートメーターを導入したとすると、720億円になります。

スマートメーター以外にも設備投資や、設置にかかる人件費、システムのメンテナンス費用などがかかるでしょう。つまり、日本全体でスマートグリッドを導入しようと考えると、莫大な費用になるのです。

スマートグリッド導入の際には、こういった導入コストを国や電力会社が負担するのか、国民も負担するのかを議論していく必要があるでしょう。

セキュリティ対策が課題になる

これまでに説明したように、スマートグリッドでは、電力網にIT技術を組み込みます。そのため、サイバー攻撃を受けた場合、大規模な停電が起きたり個人情報が漏洩したりするリスクがあるのです。

大規模な停電がすぐに解消されれば良いですが、何日も復旧しないとなると壊滅的な被害が想定されます。また、個人情報漏洩に関しては、電力消費量などの情報が漏洩する分にはさほど影響はないでしょう。しかし、電力消費量が少ない時間がわかるということは、その時間帯は家にいないことが想定されます。

家にいない時間帯に空き巣に入られるリスクが高まるというわけです。さらに、家に設置しているスマートメーターにハッキングして、何か情報を盗むということもあり得るでしょう。スマートグリッド導入の際には、万全のセキュリティ対策が必要になります。

日本企業でのスマートグリッドの導入事例

スマートグリッドとはいったい何?メリット・デメリットと日本での事例を紹介
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ここからは、日本企業が行うスマートグリッド導入事例について見ていきましょう。

東京電力

東京電力では、2014年よりスマートメーターの設置プロジェクトを始めています。東京電力のサービスエリア内である東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、静岡県のすべての世帯や事業所に、スマートメーターを2020年度までに設置するというものです。

結果、2021年3月末時点において、取り替え作業が難しい場所を除いたすべての世帯・事業所に、スマートメーター(約2,840万台)を設置しました。スマートメーターの設置によって、家庭の電力使用状況を確認し、電気料金の抑制や節電に役立てています。

さらに、検針業務や電気の使用開始や終了を遠隔で操作できるようになったため、お客様の負担軽減にもつながっています。

スマートグリッドの実証実験としては、東京都新島村の再生可能エネルギー設置システムを構築し、運用についての実証試験を行いました。2020年には、千葉県にあるリゾート施設「Sport & Do Resort リソルの森」にて、国内初の地産地消エネルギーシステム導入プロジェクトに携わり、このプロジェクトは、2021年度の新エネ大賞を受賞しました。

この他にも、再生可能エネルギーやスマートグリッドの普及のために、気象条件によって変動する電力への対策や需給バランスの維持、余剰電力問題などに取り組んでいます。

トヨタ自動車

トヨタ自動車では「トヨタ スマートセンター」を開発し、2010年に公表されたトヨタ自動車独自のシステムで、「六ヶ所村スマートグリッド実証実験」において実証実験を行いました。内容は、プラグインハイブリッド車や電気自動車、住宅をつなぎ、エネルギー需給の管理や調整を行うというものです。

HEMSを装備した住宅であることが前提であり、自動車から送信されるバッテリー残量や住宅の電力消費情報、気象予測データ、電力会社の時間帯別料金情報などを総合的に判断しながら、二酸化炭素排出量や居住者の費用負担を軽減することを目的としています。

また、居住者が普段使うスマートフォンと連携させることで、外出先からエネルギー使用量の確認や調整ができ、スマートフォンから空調の遠隔操作なども可能です。

スマートグリッド実現のために、トヨタ自動車では、世界各地の実証実験に参加しています。例えば、アメリカでは、プラグインハイブリッド車と住宅の連携に関する実証実験、フランスでは、太陽光発電と連携した電力マネジメントシステムを構築するプロジェクトなどです。

NEC

NECでは、スマートグリッド実現に向けて情報通信技術分野で研究開発し、事業化を行っています。具体的には、ICTインフラやエネルギー制御、プライバシー保護などの技術開発などです。そして日本だけでなく、世界各国で技術提供をしたり実証事業に参加したりしています。

例えば、日本での取り組みとしては、「横浜スマートシティプロジェクト」に参加し、「次世代サービスステーションにおける蓄電・充電統合システム」の実証事業を開始しました。コンビニ大手のセブンイレブンの店舗における実証実験では、電気使用状況や設備の稼働状況を確認する技術を提供しました。

海外に目を向けると、アメリカのニューメキシコ州において、日米スマートグリッド実証プロジェクトに参加し、太陽光発電や電力系統からの情報、スマートハウスからの情報などの取りまとめや監視を行い、最適化するシステムを構築しました。

富士通

2020年に行われた「国際スマートグリッドEXPO」に出展経験のある富士通も、スマートグリッド導入に携わっています。スマートグリッドを導入するためには、これまでインターネットに接続していなかったものを接続させなければなりません。

富士通では、こういったIoT化を進めたり、ネットワークに接続したスマート家電などの電源の制御や連携など行ったりする技術を開発したりしています。

例えば、福島県伊達市では、最新ICTを活用し10%以上のエネルギー使用量を削減しました。具体的な内容は、伊達市の公共施設や小中学校など45施設に富士通のEnetune-BEMSを導入し、電気使用状況の見える化や太陽光発電などの再生可能エネルギー設備の監視制御をサポートするというものです。

伊達市全体では10%以上の削減でしたが、一部の小学校では、例年比50%以上の電力使用量削減に成功しました。

スマートグリッドネットワークの市場規模は今後どうなる?

株式会社グローバルインフォメーションが行った市場調査によると、スマートグリッドの世界市場は2026年には1,034億米ドルになると予測されていますが、世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延によりスマートグリッド市場の伸びは鈍化しました。

しかし世界各国の政府は、スマートグリッド導入や省エネへの取り組みに重点を置いていることには変わりありません。もちろん国内でも、さまざまなエリアでスマートグリッド導入の実証実験が行われています。

さらに、内閣府が主導する国家戦略特区制度を活用して、スーパーシティ構想が始動しています。2030年頃を目標に、都市部だけでなく地方都市にもスマートグリッド導入は進められていくでしょう。

限りある資源を守るためにはスマートグリッド導入は欠かせない

スマートグリッドを導入すれば、電力の需給を把握でき、発電や蓄電の管理がしやすくなります。つまり、限りあるエネルギー資源を無駄なく使え、最終的には資源を守ることにもつながるというわけです。しかし、スマートグリッド導入には莫大な費用がかかります。地球を守るためにも、世界規模で考えなければならない問題と言えるでしょう。

(提供:Koto Online