本記事は、三橋貴明氏の著書『日本経済 失敗の本質』(小学館)の中から一部を抜粋・編集しています。

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国債の60年償還ルールを定めているのは世界で日本だけ

我々が銀行からお金を借りると、銀行預金という貨幣が発行される。つまりは、我々が銀行からの借り入れを返済すると、銀行預金という貨幣が消える。

実際、図16の通り、日本では1997年度以降、非金融法人企業(一般企業)が借入金を減らしていった。つまりは、銀行預金という貨幣を「返済」することで、この世から消滅させていったのである。

日本経済 失敗の本質
(画像=日本経済 失敗の本質)

2013年度以降、一般企業の借入は回復傾向を見せているが、未だに90年代のピークに戻っていない。1990年代以降、日本企業が消滅させてしまった銀行預金は、30年近くが経過したにもかかわらず、完全回復していないのだ。

民間が銀行から借りることで発行される銀行預金という貨幣は、「返済」により消滅する。ならば、政府が「国債発行」により発行された貨幣が消滅することはあるのだろうか。

もちろん、ある。政府が国債を償還(返済)してしまうと、我々の銀行預金という貨幣は消滅する。償還する原資を入手するために「徴税」する。政府が徴税により我々の銀行預金を奪い取り、国債を返済すると、社会全体で貨幣が消滅する。

民間の企業や家計が「借金」を返済するのは、これは仕方がない。借金を返済しなければ債務不履行になってしまう。

それに対し、国家は国債発行という「負債増(借金ではない)」について、返済する必要はないのだ。というよりも、そもそも返済していない。国債とは、原則「借り換え」である。しかも、自国通貨建て(日本の場合は日本円建て)の国債など、中央銀行が買い取ってしまえば返済や利払いの必要は消滅する。中央銀行は政府の一組織である。日本の場合、日本銀行の株式(厳密には出資証券)の55%を日本政府が保有している。

日本銀行は日本政府の「子会社」である。親会社-子会社間のおカネの貸し借りや利払いは、連結決算で相殺される。その日本銀行が、すでに国債の半分を保有しているのだ(図17)。日本銀行が保有する国債は、日本国消滅の日まで延々と借り換えされていくことになる。財務省はメディアを活用し、「国の借金1,000兆円!」とあおり続けているが、実はその半分は「返済も利払いも不要な負債」なのである。

日本経済 失敗の本質
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さらに、民間の銀行等が保有する国債についても、基本的には借り換えされる。だからこそ、「日本を除く」諸外国は国債の「償還ルール」など定めていない。

自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が2022年10月20日、10月末をめどに政府がまとめた総合経済対策に向けた提言をまとめた。同時に、議員連盟は極めて重要な「日本の財政運営を国際標準に是正する提言」も提出しているのだが、こちらはまったく報じられなかった。少し長いが、非常に重要な文章であるため、そのまま引用する。


『【日本の財政運営を国際標準に是正する提言 令和4年10月20日】

財政法第4条は赤字国債の発行を禁じており、この条項は日本が再び戦争を行うことができないよう、戦勝国により付されたものと考えられている。

我が国では特別措置法により特例国債を発行し財政運営を行うことが常態化しているが、世界各国が新型コロナ感染症から国民の生命と経済を守るため国債を大量に発行し、我が国以上に財政支出を拡大していることを鑑みると、当然の対応と言える。日本の財政はドーマー条件(編集部注※利子率と経済成長率を比べた財政の安定条件)を満たしており、今後も経済成長に全力を傾注し、債務残高対GDP比を下げることが重要であり、CDS(編集部注※クレジット・デフォルト・スワップ。企業の債務不履行に伴うリスクを対象にした金融派生商品で、対象となる企業が破綻し金融債権や社債などの支払いができなくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取るという仕組みのこと)の数値を見ても財政破綻の確率は皆無に等しい。

世界各国と日本の最も大きな違いは、我が国だけが一般会計予算歳出に国債費を計上していることであり、世界各国が利払費のみを計上していることと比して特異な状況にある。

その根本には、世界で唯一日本だけが60年償還ルールを適用していることにある。

国債償還については我が国も世界各国と同様に借換債により償還しており、日本独自の償還ルールを廃止し、世界標準に是正することに何ら不都合が発生しないことは明らかである。

日本経済 失敗の本質
(画像=日本経済 失敗の本質)

財政の硬直化が顕著な現状を適正化するために、日本独自の60年償還ルールを見直し、利払費だけを一般会計予算に計上することとし、国際標準と同様の予算編成を行うよう強く求める。これにより財政の弾力性を確保し、増税なき防衛費の拡大を行うべきである。』

ほとんどの日本国民は「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が何をいっているのか、理解できないかもしれない。前述したように、世界において、国債を「償還する」という前提で「償還ルール」を設けているのは、日本だけだ。2015年に「財務省」が公表した図18を見て欲しい。

重要なのは「国債の償還(償還ルール)」の部分である。国債の償還ルールについて、日本は、

『財政赤字でも償還(一般会計からの繰入により60年かけて公債(建設、特例)を償還(60年償還ルール))』

となっている。それに対し、「日本以外の国々」は、『財政黒字になれば償還(明示的なルールなし)』だ。何しろ、国債発行とは政府による貨幣発行なのである。政府が国債を発行し、支出をすることで民間に貨幣(現在は銀行預金)が供給される。国債を償還する場合、その原資のために政府が徴税で我々民間の銀行預金を奪い取る形になる。つまりは、国民を「貧乏にする」ことになるわけで、どこの国も(日本以外は)そんな意味不明な「害悪」にしかならないことは考えていない。

ちなみに、政府が財政黒字になる状況とは、民間が市中銀行から過度に貨幣(銀行預金)を借りていることを意味する。具体的には「バブル経済」の時期だ。

バブルが発生し、需要が拡大している経済環境において、政府が財政黒字を「支出」してしまうと、インフレが加速しかねない。というわけで、財政黒字分で国債を償還することは合理的だ。

次に『国債の償還(借換財源)』であるが、日本は、

『「借換債」の発行、一般会計からの償還費の繰り入れにより調達』

となっている。それに対し、日本以外の国は、

『国債発行により調達』

で、終わりである。国債とは、基本的には借り換えされる(実は日本も同じだ)。借り換えが必要な際、諸外国は単に国債を発行して借り換えてしまっているのだ。それに対し、日本はわざわざ一般会計に国債償還費を繰り入れている。これが、大変な問題を引き起こしている。

他の国々は、利払い費のみである。国債とは借り換えされるものである以上、当然である。図19は、日本の令和3年度一般会計予算だ。一般会計歳出の方に、国債償還費が15.2兆円計上されているのを確認して欲しい。次に、図20の令和4年度一般会計予算。国債償還費はさらに増えて16.1兆円になっている。

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(画像=日本経済 失敗の本質)
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日本経済 失敗の本質
三橋貴明
作家・経済評論家。中小企業診断士。1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」において、公開データの詳細な分析によって韓国経済の脆弱な実態を暴く。これが反響を呼んで『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)として書籍化されて、ベストセラーとなった。

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