本記事は、菅原洋平氏の著書『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています。
脳がやる気になるシチュエーションとは
私たちの脳には、やる気になる条件があります。やる気が出ないのは、自分の性格や気分の問題ではなく、脳がやる気になる条件を満たしていないことが原因です。
脳がやる気になる条件、それは、これから取り組む課題が、「50%はうまくいく保障がされていて、残り50%はやってみなければわからない冒険」に設定されているということです。
この「安全50%と冒険50%」の設定を、自分の脳に対してうまくつくることができれば、脳のやる気を引き出すことができます。
まずは普段の自分の行動を振り返ってみましょう。
初めての人と初めての仕事をするとき、あなたは次のうちどちらの行動を選択しますか?
A:いつもより早起きをして特別な朝食をとって、新しい服を着て臨む
B:いつも通りの時間に起きて、いつも通りの食事をとっていつも通りの服を着て臨む
脳がやる気になるのは、Bの行動です。
Aは、気合が入っているようですが、脳が過剰に興奮しています。危機状態を乗り切るために、自律神経の交感神経活動を過剰に働かせて血圧や心拍数を高めています。交感神経活動が過剰になると、視野が狭くなり、考えの切り替えが難しくなるので、普段は絶対に侵さないようなミスをすることがあります。例えば、プレゼンの資料が見つけ出せなかったり、相手の名前を忘れてしまったりといった、顔が青ざめるようなミスです。
このとき脳は、一体何に対して「危機状態だ」と反応しているのか、というと、その対象は「新しい課題」です。仕事で新しい課題に臨む冒険の設定になっているのに、日常生活まで新しい服を着るなどを加えたので、100%冒険の設定がつくられてしまったのです。
課題の中で「冒険」の要素が多くなりすぎると、交感神経活動が高まります。瞬発力が高まるので、一時的に高い能力を発揮することができるのですが、交感神経は大量のエネルギーを消費するので疲弊しやすく、あるとき突然、パタッとやる気がなくなってしまいます。
では、次の場面ではどうでしょうか。
毎日同じメンバーと同じ作業の繰り返しをするとき、あなたはどちらの行動を選択しますか?
A:いつもより早起きをして特別な朝食をとって、新しい服を着て臨む
B:いつも通りの時間に起きて、いつも通りの食事をとっていつも通りの服を着て臨む
脳がやる気になるのは、Aの設定です。
Bは、変化が起こらないのでトラブルが起こらない安全な設定ですが、先が見えている安全な設定で満たされ過ぎると、自律神経の背側迷走神経系の働きにより、代謝率が下げられて、最低限の生命維持活動が優先されます。すると、食事や入浴など、基本的な日常の行動までも面倒くさく感じられたり、人に会うなどペースを乱されるような場面に遭遇するのを避けるようになります。このやる気のなさは、仕事と日常生活で、100%安全な設定がつくられてしまったことが原因です。
つまり脳は、冒険し過ぎても安全過ぎてもやる気を失ってしまうのです。
この条件設定は、心理学の分野では、心理学者レフ・ヴィゴツキーによって提唱された「発達の最近接領域」、神経生理学の分野では、ステファン・W・ポージェスによって提唱された「ポリヴェーガル理論」が基になっています。
「もうちょっとでできそう」の設定でやる気になる
面倒くさいと思っていた作業も、作業が進んで終わりが見えてくるとやる気になることがあります。作業をしていると、その作業で得られた感覚を元に動作が修正されていき、「だんだんわかってきた」という状態がつくられます。
未知の課題の中の、既知の割合が増えていき、それが50%になったところで、「もうちょっとでできそう」という課題設定になります。この「もうちょっとでできそう」という設定で、自分の脳をやる気にさせることができます。ですから、この設定を最初からつくればよいのです。
とは言っても、仕事上の課題は自分で決められることばかりではありません。これまでの経験が通用しない新規事業に取り組んだり、人事異動でまったくわからない分野の仕事をしなければならないこともあります。
反対に、毎日毎日、単純な作業を繰り返さなければならないこともあります。
私たちは、こうした社会の都合に合わせつつも、自分の脳がやる気になる設定をつくらなければならないわけです。
ここで質問です。
これまで自分をやる気にさせるのに、どんな方法を使ってきましたか?
自分にご褒美を設ける人もいるかもしれません。
ご褒美を用いるのは、ドーパミンが行動を強化する仕組みを使った方法です。
ドーパミンが増えると、その行動は強化されて、またやるようになる。これを利用して、自分にご褒美をあげて、また作業するように仕向ける方法です。
実は、この方法では、脳はやる気になりません。
脳の中では、ご褒美が予告されたときにドーパミンが増えます。そして、ご褒美をもらえたときにはもうドーパミンは増えません。すると、「ご褒美を設ける」という行動が強化されてしまい、「終わったら何しようかなぁ」ということばかりえるようになってしまいます。
やる気を出すのにご褒美が使えるのは、予想していなかった場合だけです。予告なしにご褒美をもらったときだけがやる気になり、あらかじめご褒美を設けた場合は、やる気を出すのに役に立たないのです。
ご褒美ではなく、もっと根本的に脳がやる気になる方法を用います。
脳には、自身をやる気にさせる仕組みが備わっているのです。
その仕組みとは、記憶の仕組みです。