本記事は、廣瀨涼氏の著書『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』(金融財政事情研究会)の中から一部を抜粋・編集しています。
VUCA時代と「そうあるべき論」の消滅
特に昭和後期や平成前期においては高度経済成長やバブルの名残もあり、「よい大学に入って、よい企業に就職する」「結婚して盛大に披露宴を開く」「戸建てを持つ」といった、画一化された幸福が存在していた。親が敷いたレールを走ること、型にはまった生活ができていること自体が幸せと捉えられていたのかもしれない。
しかし、Z世代はバブル時代の羽振りのよさを知らない。大手企業も中小企業も若いうちの給与に大きな差はなく、入社するメリットを見出しにくくなっている。そして、かつての「企業戦士」「モーレツ社員」のように、仕事や企業ブランドに誇りを持って身を粉にして働くことを美徳とする時代ではない。
好景気のときは羽振りがいい上司をみて、「自分もこの人のようになりたい」「このまま仕事を続けていれば、この人ぐらい稼げるようになるだろう」といったように、目の前にニンジンがぶら下げられ、それが働くモチベーションとなっていた。
しかし、日本経済が低迷し、定年延長や年金支給年齢の後ろ倒し等、社会環境が変化するなかで、そのモチベーションは揺さぶられたといえる。企業が個人を守ってくれるという意識が薄れ、終身雇用制度を前提にして同じ仕事を継続する、1つの企業に縛られるという状態に疑問を持つ人もいる。今後、企業という枠組みにこだわらない働き方は増加していくと考えられる。
結婚においても、個人がより尊重されるようになり、結婚がすべてではないという考え方も広く浸透してきているし、持ち家に関しても資産価値としての考え方が変化している。
かつて、成功や達成のイメージが描けていた時代は、なりたい姿(あるべき姿)を描いてそこから逆算する「バックキャスティング思考」によって歩みを進めることができたが、昨今のVUCA(ブーカ)といわれる変化のスピードが速く先行きが不透明な時代はあるべき姿を描きにくい。
VUCAとは、V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)を意味する。
グローバルの流れに目を向けても、様々な国の政治の先行きが不透明であり、今までやってきたことやスタンダードだと思われてきたことが、ここにきて崩れていっている。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象、台風や地震といった災害など、予測困難な事象が次々と起こっている。
従来の日本企業では当たり前だった年功序列の枠組みも変わりつつあり、人材の流動性も高まっている。
このように、未来を見通すにはあまりにも先行きが不透明で、将来の予測が困難であるため、画一化した〝なるべき姿〟が消滅していき、「それぞれが幸せならばよい」「それぞれの価値が尊重されればよい」といった〝多様性〟が強く尊重されているともいえるだろう。
普遍的な価値観を押しつけること自体が、モラルハラスメントと捉えられるといえるのかもしれない(そうあるべき論の消滅)。