本記事は、廣瀨涼氏の著書『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』(金融財政事情研究会)の中から一部を抜粋・編集しています。

スマホを使う若いグループ Z世代 デジタルネイティブ世代
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金融商品とZ世代

SHIBUYA109 lab.の「Z世代のお金と投資に関する意識調査」(2022年6月12日)によれば、Z世代が現代を生き抜くために必要と感じる知識は、「コミュニケーション力」(59.3%)や「語学力」(43.0%)を抜いて、「お金の知識」が73.0%で最多だという。

また、日本証券業協会の「証券投資に関する全国調査」によると、証券投資を「必要だと思う」20代の割合は、2018年度と比べて2021年度は上昇している[図表7-6]。

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか
(画像=あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか)

若者がお金の知識、いわゆる金融商品への理解や知識に対して必要性を感じている背景としては、ネガティブな側面とポジティブな側面があると筆者は考える。まずネガティブな側面としては、金銭的な余裕がない点、預金金利が低く貯金をしても資産を増やしにくくなった点、老後生活には2,000万円以上必要といわれている点など、将来のお金に関して漠然とした不安を持っている点などがあげられるだろう。

一方、ポジティブな側面としては、学習指導要領改訂により2022年4月から高校の家庭科の授業で金融教育が必修となった点がある。それ以前より、金融庁や金融広報中央委員会などでは学生向けに金融に関する情報発信や教材提供などをしており、教育課程のなかで金融に触れる機会があって、従前の世代が若者だった頃よりも金融に対するリテラシーが浸透してきているといえるのかもしれない。2022年4月に成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳からクレジットカードをつくるなど金融に関する様々な契約を行えるようになったことから、金融教育の重要性はますます高まっているといえる。

また、マイクロインフルエンサーの存在も金融商品への関心に大きな影響を与えていると筆者は考える。マイクロインフルエンサーとは、簡単にいえば特定の領域に関して優れた技術や豊富な知識を持つ情報発信者のことを指す。昔はファッションやメイク、グルメなどの情報が発信されることが一般的であったが、現在では弁護士やFPなどが法律やお金に関して、わかりやすくかみ砕いた解説動画を配信しており、需要は高い。

昔はユーチューブなどの動画配信コンテンツは娯楽性が求められていた側面が大きかったが、オリエンタルラジオの中田敦彦やメンタリストのDaiGoのユーチューブチャンネルなど、教養を得るためのユーチューブ視聴が定着したことが大きな要因だろう。

マネー関連のユーチューブチャンネルでいえば、「両学長 リベラルアーツ大学」(登録者数200万人超)や、「バフェット太郎の投資チャンネル」(同48万人超)など、人気チャンネルが多数存在する。昔からそのような教養を高めるための動画は存在していたが、その多くが投資を始めようとする主にビジネスマン向けにつくられており、大学の講座のように長めの尺で無機質、退屈なモノが多かった。そのため、バズる動画は少なく、大部分は若者の目にとまることは少なかった。しかし今では、若者を意識して簡潔に、ポップに、わかりやすくした動画がユーチューブのショート動画やTikTokに投稿されるのが一般的になっている。またインスタグラムにおいては、画像中心のSNSということもあり、投資の仕組みに関するマンガが日々投稿されていたりする。ツイッターでは、損しない投資術や、初心者向けの投資など、特定の金融に関するトピックがバズることも多く、様々なSNSが若者が金融商品に興味を持つ入り口になっている。

ヴァリューズの「SNSアプリ利用動向調査」によると、全体の10.2%がSNSをきっかけに金融商品を購入した経験があるという。性別でみると、男性16.4%、女性5.2%と、男性の購買経験が顕著となっている。さらに詳しくみると、男性30代が23.9%と最も高く、男性40代17.7%、男性20代16.1%と続く[図表7-7]。

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか
『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』より引用

NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)など気軽に始めやすい商品や、スマホ証券等の普及もあり、友人から口コミで情報を得るように、SNSに投稿されている他人の疑似体験が金融商品の購入を後押しする要因となっているといえる。

一方で、前出の「Z世代のお金と投資に関する意識調査」によれば、Z世代の半数以上が投資に興味があるものの、すでに現在投資をしていると答えたのは全体の1割程度にすぎない。

興味や魅力を感じている一方で投資に踏み出せないのは、金融知識に対する自己評価の低さが影響していると考えられる。社会経験、投資経験が少ないこともあって、様々な金融商品のうち、Z世代の「理解している」が半数を超えたのは「預金」のみである[図表7-8]。

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか
『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』より引用

また、生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」で金融に関する知識の自己評価をみると、男女ともに18~19歳、20歳代の「詳しい」の割合は他の世代と比べると低くなっている[図表7-9]。

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか
『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』より引用

預金金利は低水準に留まっており、若者が預金を中心にした貯蓄を行っているだけでは、将来形成できる資産は、上の世代に比べて少額に留まるだろう。

若者は、お金に余裕がない。金融商品に興味を持ってもらうためには、「将来必要だから」(安泰だから)といった漠然とした遠い未来のための理由を提示するより、「なぜ」今必要なのかを自覚させる必要がある。そのためにも企業は、彼らの消費文化や懐事情、プライオリティを十分理解したうえで歩み寄ることが最善といえるだろう。

あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか
廣瀨涼(ひろせ りょう)
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員。 専門は現代消費文化論。オタクの消費を主な研究テーマとし、10年以上彼らの消費欲求の源泉を研究している。昨今では自身の経歴を活かし若者(Z世代)の消費文化について研究を行い、講演や各種メディアで発表している。 NHK『NEWSおはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBS『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。

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