近年、急速なデジタル技術の進化と市場の変化により、従来のビジネスモデルや競争力が十分に対応できなくなっているケースが起きています。これからの時代において、DX(デジタルトランスフォーメーション)は企業の成長と生存に不可欠な要素です。DXを進めることで、企業は柔軟性やイノベーション力を高め、市場の変化に適応し続けることが可能となります。
しかし「DXといっても具体的にどうすべきかわからない」「そもそも、なぜDXが必要と言い切れるのか?」「今のままのやり方で何か問題が起きるのだろうか」という方もおられるかもしれません。この記事では、今後のあらゆるビジネスにおいてなぜDXが必要なのかを解説します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション:Digital Transformation)について、総務省は以下のように定義しています。
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
(出典)総務省 令和3年情報通信白書:デジタル・トランスフォーメーションの定義
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
デジタルトランスフォーメーションとは、企業や組織がデジタル技術を活用して既存のビジネスモデルやプロセスを改革し、今までに無い革新的な成果を生み出す取り組みのことを指します。この概念には従来のアナログの手法からデジタル化への移行も含みます。例えばクラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどの最新のテクノロジーを活用して業務の効率性を向上させることなどです。
デジタルトランスフォーメーションの目的はさまざまですが、ビジネスにおいては顧客体験の向上、業務プロセスの最適化、新たなビジネスモデルの創造などが主となります。この取り組みによって、企業は競争力を高め、市場の変化にも素早く対応でき、持続的な成長を実現することが可能とされています。
日本におけるDXの現状
なぜDXが必要なのかを解説する前に、日本の製造業や小売業、その他ビジネスにおける現状を解説します。
日本の世界競争力は年々低下している
IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が発表した世界競争力ランキング2022年版によると、日本は主要63か国中34位となり、前年より3位も順位を落としています。2022年のランキング1位はデンマーク。以下2位スイス、3位シンガポールと続きます。
実は日経平均が最高値を記録した1989年からバブルが弾け終わった1992年まで、この世界競争力ランキングのトップは日本であり、その後1996年までは5位以内に入り続けるなど、かつて日本の世界競争力は非常に高いものでした。それが現在、IMFが2022年に発表した1人あたりGDPにおいても日本は31位と非常に低い位置にいます。なぜ日本はここまで世界競争力を落としてしまったのでしょうか?
世界競争力ランキングの評価指標は大項目4種類、小項目20種類の合計24種類ありますが、評価指標大項目の1つである「ビジネス効率性」で、日本は46位と非常に低いランクになっています。現在、日本では製造業を中心に業績を落としている企業が多くなっていますが、これは急激な少子高齢化に伴い経営者の年齢層が高くなっている中、事業承継やシステム化が思うように進まず、意思決定スピードや社会環境の変化に対応しきれずにビジネス効率を落としている企業が多いことも大きな要因と考えられます。
日本は産業用ロボットの導入も進んでいない
「業務プロセスの変革」にはいろいろな手段があります。例えば製造業においては「生産プロセスに機械やロボットを組み合わせる」ことは生産性向上に有効ですが、この機械やロボットの導入も日本ではあまり進んでいません。
国際ロボット連盟(IFR)の2016年版統計資料によると、製造業従業員1万人あたりの産業用ロボット利用台数(2016年)順位は、1位韓国(631台)、2位シンガポール(488台)、3位ドイツ(309台)、そして4位に日本(303台)だそうです。2008年から2016年までの推移を見てみると、日本ではロボットの導入があまり進んでいないどころか、利用台数が以前より減ってしまっているようです。
シンガポールはガートナーが定義する企業内のIT利用の第3段階まですでに駆け上がり、着実にデジタルトランスフォーメーションを実現しつつあるのに対して、日本はまだ1段階目の「業務プロセスの改革」もクリアできていないおそれがあります。
従来のような「経験・勘・根性」や「人の頑張り」だけでは生産性は改善されません。国内の経営者はDX、すなわちデジタル技術やAI、ロボットなどの導入による生産性向上の可能性と効果性を再度シミュレーションし、変革に前向きに取り組むべきといえます。
日本企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が必須
DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれるデジタル技術を使って、既存のビジネスモデルを変革する考え方が注目されています。
私たちの日常生活は、デジタルテクノロジーにより以前より便利に、豊かになりました。例えば、
・何か調べたいものがあったらパソコンやスマホで検索する
・移動中にスマホのサブスクリプションアプリで映画を見る
・振込が必要な時には銀行に行かなくてもスマホのアプリで済ませられる
・家に帰ってスマートスピーカーに音楽を流すように指示をする
などのように、デジタルの力で快適な生活を送れるようになっています。
このようにBtoC向けのサービスでは、DXによる革新的な新しいサービスが続々と出てきています。一方、日本国内のBtoBのビジネスでは、デジタルの本質や価値を理解しきれていない高齢化した経営者が、旧態依然とした経験・勘・根性と呼ばれる3Kに依存した仕事の仕方を従業員に強いており、それがいまだに続けられています。
先ほどご紹介した2019年世界競争力ランキング1位のシンガポールは「経済パフォーマンス」「政府効率」「ビジネス効率」「インフラ」などが高評価でした。一方、日本は「生産性と効率性」「経営慣行」「姿勢と価値観」などが低評価となっています。かつての日本の競争力を取り戻すためには、低評価の項目を高評価に、そしてそれ以外の項目も上位国に追いつかなければなりません。
DXが必要な4つの理由
なぜDX推進が企業にとって急務なのか、すでに前章である程度おわかりではないでしょうか。ここであらためて3つにまとめてみます。
変化・進化することでビジネスにおける競争力を生む
DX推進が急務な理由の一つは、急速に変化・進化するビジネス環境において競争力を保つためです。デジタル技術の導入や最新のツールやプラットフォームの活用により、顧客体験の向上や効率的な業務プロセスの確立が可能となります。これにより、顧客からの信頼獲得や競合他社との差別化を図ることができます。
既存システム老朽化への対応|「2025年の崖問題」への対応
多くの企業が既存のシステムやITインフラを長年使用してきましたが、これらは老朽化やメンテナンスの困難さといった課題を抱えています。これは「2025年の崖問題」と呼ばれる課題として経済産業省から指摘され、話題になりました。DX推進は、既存システムのアップグレードやクラウド化などの取り組みを通じて、この問題に対応する必要があります。
働き手不足を解消・働き方改革の推進
現代のビジネス環境では、人材の確保や定着が課題となっています。DX推進により、業務の自動化や効率化が進められれば、生産性の向上や人手による繰り返し業務の削減が可能となります。また、柔軟な働き方やテレワークの導入など、働き方改革もDX推進の一環として取り組むことで、働き手不足の解消や働く環境の改善が実現できます。これにより、企業は優秀な人材の確保や生産性の向上に貢献できます。
DX推進の3つのメリット
ここではDXによってもたらされるメリットを解説します。
【メリット1】業務効率化による生産性向上が期待できる
DXの推進により、業務プロセスの自動化や効率化が可能となります。タスクの自動化や情報のリアルタイム共有により、従来の手作業や煩雑なプロセスを削減できます。これにより、生産性が向上します。また人材にはルーチンワークではなく、より高度なスキルを必要とする創造的な業務をしてもらう時間が生み出されます。
【メリット2】ビッグデータの活用によりイノベーションを生み出せる
DXは大量のデータを収集・分析できます。ビッグデータの活用により市場動向や顧客ニーズを把握し、新たなビジネスチャンスを見つけ出すことが可能です。また、データをもとに戦略の立案やサービスの改善を行い、イノベーションを生み出すことができます。
【メリット3】変化に強い企業体質を作れる
DXは組織やビジネスモデルの「柔軟性」を高められます。急速に変化を続ける市場や競争の激化に対応するためには、迅速な意思決定と行動が求められます。DXの推進により、変化に対応しやすい企業体質を構築することができるのです。これにより、競争力を維持し、成長を続けることができます。
DX推進を成功させるための4つのポイント
DX推進を成功させるためのポイントはいくつか考えられます。ここでは主なものを4つ紹介します。
【ポイント1】組織全体をDX推進に合わせ変革する
せっかくDXを目指しても、組織風土が古い考え方のままだと、社員に浸透せず使ってもらえないまま旧来のやり方に逆戻りしてしまうこともあり得ます。当然、成果は見込めないでしょう。
また、DXはその場限りの取り組みではありません。新規開発した商品やサービスには継続的なモニタリングと評価を行い、問題点を特定して改善することを繰り返さなければなりません。成長のためには、進化し続けることが必須です。
何より、経営層からの積極的な支援と、変化を受け入れる意欲あるチームの形成が重要です。
【ポイント2】デジタル技術とデータの活用
DXでは最新のデジタル技術とデータの活用が不可欠です。データの収集と分析にもAIなどは必須なので、この2つは同時に進めなければなりません。
多くのデータを収集し分析することで、顧客のニーズを知ることができます。また効率化や意思決定の根拠となる情報も得ることができるでしょう。AIやビッグデータ分析、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーを活用しましょう。
【ポイント3】ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の向上を目的に設定する
DXの目的は顧客満足度の向上と、それによって得られる売上アップと企業の成長です。顧客のニーズと要求を理解し、それに応える優れたユーザーエクスペリエンスを提供することが重要です。「これなら売れるだろう」という勘や経験に頼った独りよがりの商品ではなく、本当にお客様に必要とされているものは何かを知る「姿勢」が必要といえます。
【ポイント4】チームの協働とITスキルをもつ人材の育成
DXは複数の部門やチームの連携が不可欠です。異なるバックグラウンドや専門知識を持つメンバーが協力し、シームレスなコミュニケーションと効果的なプロジェクト管理を行う必要があります。また、DXに必要なスキルをもつ人材の育成も重要です。
(参考)
経済産業省
DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
総務省
情報通信白書/第2節 人工知能(AI)の現状と未来
企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック
DXへの取り組みのために|専門家への相談も利用しよう
冒頭でお伝えしたとおり、日本の世界競争力は年々落ち続けてしまっています。「なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組まなければならないのか?」。その問いに対する答えは、「日本企業が生産性高く業務に取り組み、再び世界の中で輝くため」といえるのではないでしょうか。
今、世界中で急激にIoTの開発と利用が進んでいますが、そのIoTデータを使えば、企業や人の行動データをビッグデータとして集約し、顧客のニーズに合った商品を販売することができます。あるいは今後の製品開発のスピードを上げたり、製品の品質を高めたりすることも可能なのです。
米国の調査会社ガートナー社によると、企業内のIT利用には、
【1】業務プロセスの変革
【2】ビジネスと企業/人を結び付けて統合する
【3】人とモノと企業もしくはビジネスの結び付きが相互作用をもたらす
の3段階があり、この 3 段階目への改革プロセスが「デジタルビジネストランスフォーメーション」と定義されています。
ガートナーによる企業内IT利用の第2段階である「ビジネスと企業/人を結び付けて統合する」とは、デジタル技術やクラウドの活用により、仮想や物理の世界を融合すること、またそのデジタルデータを活用して顧客との関係性をこれまでと大きく変えることを意味しています。
そして第3段階である「人とモノと企業もしくはビジネスの結び付きが相互作用をもたらす」とは、さまざまなプロダクトの中にデバイスやセンサーを埋め込んでおくことで、そのプロダクト自体の売り上げだけでなく、埋め込まれたデバイスやセンサーから得られるデジタルデータなどがさらに売り上げをもたらすということを指しています。
「うちの会社はこれまでどおりでよい」「海外の流れは関係ない」という経営者がいるとしたら、それはリスクの高い考え方と言わざるを得ません。グローバル化の波はすでに足元に押し寄せており、何もしなければ淘汰される時代がきています。
海外の製品がこの数十年の間に品質も価格も市場(顧客のニーズ)に対応し最適化されているのに比べ、日本企業の製品は開発・生産・販売・在庫管理、そして新しいアイデアの創出で一歩出遅れています。海外企業との差を埋めるには、DXに取り組み課題を洗い出して地道に改善し、効率や意思決定のスピードなどを高めていくしかありません。
「DXが大切なのはわかったけれど、具体的に何をすればいいかわからない」「社内にITスキルの高い人材がおらず、すぐに採用するのは難しい」「せっかく新しいシステムを導入しても、全員に使ってもらえるようになるか心配」という経営者の方は、外部の専門家の支援も利用しましょう。
まとめ
この記事では、「なぜ企業にDXが必要なのか」について解説しました。古い体制の日本企業がDXへの取り組みを行う場合、さまざまなハードルが存在します。しかしデジタル技術やAIなどをビジネスモデルに組み込むことで、企業は新しい時代に適応でき、今後も存続できる可能性が高まります。
「最初から完璧な状態を求めるのではなく、まずはやってみて、少しずつ改善して馴染ませる」という意識で取り組める企業風土を育て、トップが積極的に取り組むことがDX成功の秘訣といえるかもしれません。導入に不安がある場合は、専門スキルをもつサービスの利用も検討してみることをおすすめします。