M&Aで地方の活性化にも貢献できる
ーそうした優良企業であれば、自社単独で生き残れます。M&Aの説得は難しいのでは?
確かにその通り。グループ入りの交渉は期限を設けず、相手先と柔軟に向き合う。ブランドビジョンや経営戦略などが擦り合っていないままで交渉を進めると後で困ることになるからだ。
とはいえ、いたずらに長引かせて良いわけでもないので、コミュニケーションは密にしている。太陽のRyo-san(川嶋 伶 社長)とは焼肉を食べながら将来ビジョンを語り合い、グループ入りを決めてもらった。
わが社が声をかける企業は単独で生き残ることができる企業ばかりだが、単独ではできないがグループならばできることもある。声をかけた企業の成長を加速させ、ワクワク感がある魅力的な事業が展開できるメリットは大きい。そこがグループ入りの決め手となっている。
-共創型M&Aは、企業間だけでなく企業と地域との「共創」にもつながっているそうですね。
その実例は2022年8⽉にグループ入りした、ベビー&マタニティブランドのkerätä(ケラッタ)だ。ベビー&マタニティー用品の企画・開発・販売を手がけており、グループ入りすることでブランドが浸透し、ECによる販路が拡大した。かつてモノを売ろうとすれば人口が多い地域でなければ難しかったが、デジタルテクノロジーの発達でどこに本社があろうが関係なくなっている。
ケラッタは長野県塩尻市に本社を置く。ECは地理的な制約がなく、M&Aで東京の企業にこだわる必要はない。同社には非常に優秀な社員が多く、人材確保のうえでも地方企業に注目している。地方に高いブランド力を持つ成長企業があれば、地域貢献にもつながる。
単に雇用や税収をもたらすだけでない。ケラッタのようなワクワク感を実感できる仕事があれば、優秀な若い人材が地方に定着するだろう。地方自治体や地元メディアもMOON-Xの取り組みに注目しており、地域社会との共創に期待している。
-今後のM&A戦略は?
広いエリア(地方)とカテゴリー(業種)から、パートナー企業を集めたい。現在も全国で積極的に交渉を進めている。将来は海外企業も対象にしたい。わが社の経営メンバーには多国籍ビジネスの経験者が多く、組織として対応する能力は十分にある。
◎長谷川 晋(はせがわ・しん)氏
2歳から9歳まで米シアトルで育つ。京都大学経済学部卒。2000年に東京海上火災入社。その後、P&Gで10年間、マーケティングおよびマネジメントを統括。楽天に上級執行役員として招かれ、グローバルおよび国内グループ全体のマーケティング活動を主導した。2015年、Facebook Japanの代表取締役に。2019年8月にMOON-Xを創業、現在に至る。