世界的に記録的な猛暑が続いているが、ここに来て冷めきっているいるのが半導体業界だ。コロナ禍の生産減少で深刻な供給不足に陥り、半導体市場は活況を極めた。しかし、コロナ禍の収束で供給が正常化すると、市況は悪化に転じている。

韓国半導体トップ2社が上半期で1兆7000億円の赤字計上

メモリー生産で世界トップと2位の韓国サムスン電子と同SKハイニックスの上半期赤字額が合計で15兆2000億ウォン(約1兆7000億円)にまで膨らんだ。半導体各社は減産を急ぐが、先行きは不透明だ。コロナ禍の半導体不足で「半導体国産化」に舵(かじ)を切った先進国での大増産が見込まれるからだ。もちろん日本も例外ではない。

半導体で旺盛な需要が残っているのは「Chat GPT」に代表される生成AI(人工知能)用だけだ。だが、生成AIには膨大な情報をストックする巨大データセンターと、短時間で回答を生成するための強力なコンピューティングパワーが必要になる。

Chat GPTに採用されている言語モデル「GPT-4」の場合、パラメータ数は非公開ながら5000億以上と言われているが、その機械学習のためだけに1億ドル(約141億円)が必要だという。さらにユーザーの質問に答えるための推論モデル構築のコストも別途かかる。

生成AIは半導体産業にとっての「お得意様」である一方、投資負担が大きすぎて参入計画を断念するIT企業も出始めた。生成AIによる半導体特需も、新規参入者が減少すれば終息する可能性が高い。パソコンやスマートフォンの需要減が下げ止まりつつあるという明るい材料もあるが、物価高や金利上昇に伴う景気低迷の懸念から、爆発的な回復は期待できそうにない。


コロナ禍で世界増産へ、すでに需要を大きく超える半導体供給

追い打ちをかけるのが、先進国での半導体増産だ。米国で500億ドル(約7兆円)の半導体産業投資を含むCHIPS法が可決され、欧州では2030年までにロジック半導体の開発などに1345億ユーロ(約21兆円)が投入される。中国でも中央政府と地方政府による日本円にして総額10兆円超の半導体産業向け基金が新設された。

日本も「日の丸半導体」として政府主導で設立したラピダスや台湾積体電路製造(TSMC)の熊本誘致で、半導体の国内生産を大幅に増やす。つまり、世界的な半導体の大増産時代となるのだ。既存半導体メーカーの減産努力を吹き飛ばす「供給爆発」となり、半導体市況の長期的な低迷は避けられない。

一方、需要はと言うと、スマートフォンやパソコンは世界人口の大半を占める新興国と先進国では普及済みで、代替需要しか望めない。かつての普及期のような倍々ゲームでの半導体需要増は難しいだろう。新規需要としては、生成AI以外に期待できる分野がない。

ただでさえ供給過剰な市場に、これから世界各地で増産される莫大な数量の半導体が流れ込む構図だ。半導体業界は深刻な不況期に突入することになる。最終的には半導体メーカーの再編による生産縮小で需給を調整するしかない。

そうなれば日本政府が推進する「日の丸半導体」構想も、巨額の損失を計上して破綻する可能性がありそうだ。ポストコロナで急ブレーキがかかった半導体産業だが、先行きにはさらに深刻な事態が待ち受けている。世界的な「半導体投資ラッシュ」の後片付けは容易ではない。

文:M&A Online