北海道函館市出⾝。1988年⼀橋⼤学商学部卒業後、⼤和証券(株)へ⼊社。1994年ペンシルバニア⼤学⼤学院ウォートン校を修了しMBAを取得。1997年モルガン‧スタンレー証券(株)⼊社。2008年に⾷品の製造‧販売を⾏う中⼩企業の⽀援‧活性化を⽬的として(株)ヨシムラ‧フード‧ホールディングスを設立、代表取締役CEOに就任。創業時よりホールディングス体制で展開し、グループ各社の強みを活かし、弱みを補完する中小企業支援プラットフォームを独自に構築、各社の再生支援・活性化を手掛けてきた。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
起業から現在までの事業変遷
冨田:それでは、ヨシムラ・フード・ホールディングスのこれまでの事業の変遷について教えていただけますか?
吉村:私は元々証券会社で法人部門に所属しており、資金調達を行っていました。その後、独立して中小企業のコンサルティングを行うようになり、その中で株を引き受けて経営するようになったのが食品の会社でした。その会社が成功したことから、中小の食品会社を買収して経営するというビジネスモデルが生まれ、現在に至っています。
特に重要なポイントとしては、2008年にホールディングス会社を設立し、2016年に上場したことが挙げられます。基本的なビジネスモデルは、中小企業の支援という点では変わっていません。
冨田:なるほど、ホールディングス化している子会社では、独自の商品を開発・製造し、卸業者を介して全国の小売業者に販売していると理解しています。会社全体での中小企業の支援という観点からは、特に食品関連のメーカーを中心にグループ化しているということでしょうか?
吉村:はい、その通りです。私たちが扱っている顧客は、生産を行っている食品関連の中小製造企業が中心です。特に工場を持っている会社をグループ化しています。
冨田:吉村代表の会社は一つの事業領域から始まり、徐々にそれが拡大されていき、さらにファンド形成される様な形で運営されるようになったと理解しております。しかし、その過程で会社を買収していくことの難しさや、キャピタルゲインを狙うビジネスモデルとは異なっている部分もあるかと思いますが、そのビジネスモデルはいかがでしょうか?
吉村:それはご理解いただいている通りです。私たちは事業会社であり、会社を買い、売らずに事業を拡大していきます。これは不動産業でいうところのデベロッパーとは異なり、大手の不動産会社のように所有したまま賃料を得るビジネスモデルに近いです。
ヨシムラ・フード・ホールディングスの唯一無二の強み
冨田:それは非常にユニークなビジネスモデルですね。自社事業の強みは何だとお考えですか?
吉村:私たちの最大の強みは、同業他社がいないことです。私の知る限り、私たちのように上場して中小の食品メーカーを引き受けてグループ化していくビジネスモデルは他にはありません。そのため、私たちと共鳴する中小食品メーカーのオーナーが、私たちに対して良い話をしてくれるという点も大きな強みだと思います。
私たちは売らなくても良いので、良い会社であればグループに入れることができます。その意味で、私たちがターゲットにする会社の範囲は全然違います。
冨田:非常に困難な状況の中で経験を積んできたということですが、資金が不足している中小企業を引き受けることも大変だったのではないでしょうか?
吉村:実際、引き受けるのは大変でした。いろいろな挑戦を通じて組織を作ってきました。大企業が大企業を買収する場合、組織があって、やりたくない人がいても別の部署に行けるなどの選択肢がありますが、中小企業ではそうはいきません。運営も難しく、実は外から見るより非常に難しいハードルが高いエリアなのです。
冨田:その経験が今、後継者がいなくて会社を売りたい人が多い中で価値を生み出していると言えますね。そのような状況下で、生産効率や経営効率がポイントになってくると思いますが、どのように対応していますか?
吉村:経営効率がポイントになってきた時には、販路を広げることが重要になります。例えば、北海道で販路を持っている会社と、地域別で違う販路を持っている会社をグループ化することによって、販路が広がります。また、同業他社と生産を一つにすることも考えられます。
冨田:それは非常に興味深いですね。小さい分野で収益を上げている会社が集まると、利益を出すシナジーが生まれるということですね?
吉村:はい、その通りです。一つの商品を毎日コツコツと作ることが最も効率的なメーカーと言えます。しかし、その商品がうまくいかなくなった場合、会社全体が危険にさらされます。そんな時に、いくつもの会社がグループにあると、そのうちの一社が何らかの問題を起こしたとしても、他の会社が収益を上げてくれれば全体としては安定します。その意味で、ニッチなマーケットで収益を上げている会社をグループとして組むことは、非常に大きなメリットがあると思います。
冨田:それは非常に金融的な発想ですね。
吉村:小さいメーカーや中規模企業では10倍以上の利益率を持つ会社もいくつかあります。問題は、大きなイベントがあったときに壊滅的な打撃を受けることです。だからこそ、大手企業は様々な商品を作り、リスクを分散して大きくなります。しかし、私たちの戦略は、収益率の高い会社を積み上げていくことで、高い収益のあるグループを作ることです。
冨田:それは他の会社がやっていない考え方ですね。市場原理というのは、競合が増えていくと利益機会が薄まっていくということですよね。
吉村:そうです、私が考えているのは、金融的にいえば債券を積み上げていくことに似ています。株のように、一度に増やしていくのではなく、着実に増やすことによって成長していく様な形です。それを投資家に評価してもらいたいと考えています。
冨田:なるほど。食品業界には天候リスク、仕入れの価格変動、円高リスク、為替リスクなどによって仕入れの価格や売れ行きは常に変動していくため、 それらのリスクをポートフォリオを組んで対応していくということですね。
吉村:私も様々な中小企業を見ていて、中小企業が成長するのが難しい現状を知っています。特に壁になるのは、売上規模が5〜60億円になってきた際に大手企業と戦うという壁です。その壁を乗り越える際に大抵の会社は、工場に対して多くの設備投資を行い、大量に製造します。さらに販路も拡大させます。しかし、大量に製造しても売れなければ意味はありませんし、販路を広げることで販管費もかかるようになってきてしまいます。
しかし、そのような戦い方では大手企業には敵いません。これが食品業界の中小企業が直面している課題です。この課題によって、食品業界の中小企業のほとんどが成長することは出来ていないのが現状です。 特に食品業界は、内需で人口の減少により市場が縮小しています。そのような環境の中で成長することは非常に難しくなってきています。
このような食品業界の中小企業の状況を考えた時に先行きが不透明かつ後継者問題を抱えている企業をグループ化して収益率の高い中小企業を積み上げていくことで、債券のように安定的なキャッシュフローを増やしていきます。 それが投資家から評価されれば、非常に良いビジネスになるとなります。
吉村社長のルーツ「大実業家」
冨田:このビジネスモデルは金融的に見ても非常に興味深い戦略ですね。 今のお話には様々な要素が含まれていますが、経営判断をする上で最も重視していることは何でしょうか?
吉村:経営判断に迷ったことはあまりないです。大体、直感的に「こっちだろう」という方向性が見えてきます。加えて私たちにしかできないこと、他の会社が行った方がうまくいくかどうかや存在意義に繋がるかユニークな存在である私たちとしてやるべきことかどうかが常に頭の中にあります。 それらをベースに、最終的には経験を生かして直感で判断します。
冨田:なるほど、今回お話しを伺って吉村社長の経営に関する判断軸が非常にシンプルだと感じました。そのシンプルさが、共通認識の形成や意思決定のスムーズさに繋がっているのかもしれませんね。
元々は証券会社でお勤めになって、そこから経営者へという経緯を伺いましたが、その経営者としてのルーツや、経営者になってからの経験を含めて、吉村代表ご自身の特徴や強みは何だと思われますか?
吉村:私自身は非常に小さい頃から会社を経営したいという意識がありました。そのため、常にビジネスの運営方法や利益の出し方について考えてきました。その経験が現在の私の強みとなっていると思います。 また、小学校の時には既に将来の夢として「大実業家」になりたいという夢を持っていました。このように、私は昔からビジネスに対する意識が高かったと言えます。
冨田:それは驚きですね。
吉村:私の周りの子供たちは様々な夢を持っていましたが、私は実業家になりたいと考えていました。 また、私は北海道の地方の公立小学校からアメリカの有名なMBAを取得し、ニューヨークのウォールストリートで働いたり、コンサルティング会社に勤めたりと、様々な経験をしてきました。そういった経験から、多種多様な人々と接することができ、それぞれの価値観を理解することができました。その経験は私のバックボーンとなっており、それが私の強みだと思います。
冨田:それは非常に珍しい経験ですね。そのような経験から、何か特別な視点や考え方があるのでしょうか?
吉村:私の経験は、中小の食品メーカーの経営に携わる人々の中では珍しいものです。そのため、私の視点や考え方は他の人々とは異なるものがあります。それが私の強みであり、私の過去の経験から学んだことです。
ヨシムラ・フード・ホールディングスの思い描く未来構想
冨田:なるほど。では、今後吉村代表が会社経営をしていくに当たって関連していくであろうテーマや思い描いている未来構想について教えていただけますか。
吉村:基本的には地域経済の活性化を見据えています。 私の出身地である函館の経済状況を見てきた経験から、地域経済の活性化には「職」が必要だと思っています。日本経済の空洞化が進み、工場が海外に移転すると、地方の経済は大打撃を受けてます。ITやコンサルティングのように頭を使う仕事は人材の数はあまり必要としませんが、工場では沢山の人材が必要となります。だからこそ、各地域に工場を持ち、安定した給料を出して人々を雇うことが重要だと思っています。
つまり、地域に大きな工場があって人々を雇うことで、安定した生活を送れる環境を作り出すということですね。その結果、地域の税収が増え、子どもたちも地元に戻ってくると。 そういった環境が整えば、新たな店舗や学校ができ、地域が活性化します。都会のような物価の高い場所で満員電車に乗るよりも、地元で豊かに暮らす方が幸せだと思います。だからこそ、地方に都市的なインフラを整備し、人々が楽しく住める環境を作ることに貢献したいと思っています。
このような背景の想いも踏まえて具体的な将来構想としては、各都道府県に一社ずつ、我々のグループの中間持ち株会社を設けるという構想を持っています。
冨田:なるほど、それは新しい発想ですね。そして今回のインタビューでお話しいただいている内容が全て繋がっていると感じ、非常に共感しました。
吉村:私たちが考えているのは、地域ごとにグループ化することです。それには、ロジスティックスや人材採用など、様々なメリットがあります。そこに地方銀行がファンドにお金を出すだけでなく、地域を支援するという意味で参画頂ければ、一緒に雇用を守り、地域を活性化することができます。そういったことを広げていきたいと思っています。
読者へのメッセージ
冨田:素晴らしい発想ですね。ありがとうございました。 最後に、投資家の皆さんに一言お願いできますか?
吉村:私たちが取り組んでいる事業は、他社が参入していない分野であり、それが私たちの強みとなっています。現在のマーケット状況は、私たちにとっては追い風です。後継者が不在の食品中小企業は多く、ベビーブーマー世代が75歳を超える中で、事業を譲りたいと考える人も増えています。
私たちの会社も年間300件ほどの企業を見ていますが、実際に買収できる企業は限られています。大企業は小規模な企業に対する関心が低く、ファンドも買収後の売却を考慮しなければならないため、私たちが取り組むべき事業は多いと考えております。
私たちが長年にわたり取り組んできた結果、ビジネスの引き受け体制が整い、人材も雇用し、育成することができました。去年からは後継者と同時にビジネスの引き受けを始め、年間1件だった引き受け件数が、5件に増えました。引き受け可能な案件も増えてきており、銀行もM&Aに対する融資に慣れてきました。迅速な意思決定が可能となり、私たちの交渉もスムーズに進むようになりました。
これは、私たちと取引のある銀行が内部的に迅速な対応ができるようになったからです。案件が発生した際にすぐに情報を共有し、すぐに決済を得られるようになりました。これらの要素が揃ってきており、良い状況になりつつあると思います。私たちの事業は、面白い展開になりつつあると思っています。
冨田:今回のインタビューで私も経営者として学ばせていただく点が多々ありました。本日は、本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
吉村:こちらこそ、よろしくお願いします。ありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 吉村 元久(よしむら もとひさ)
- 会社名
- 株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
- 役職
- 代表取締役CEO