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(画像=株式会社神戸屋)
桐山 晋(キリヤマ シン)
株式会社神戸屋代表取締役社長
1986年生まれ。2009年京都産業大学外国語学部を卒業後、株式会社USENに入社。2012年株式会社神戸屋に入社し、総務部での勤務を経て2017年に米国のコーネル大学ホテル経営大学院に入学。2018年ホスピタリティ経営学修士号取得後に帰国し、2019年に管理本部経営企画部 部長を務める。2020年に執行役員 経営戦略室 室長に就任、2021年に代表取締役社長に就任(現任)。
株式会社神戸屋
1918年に創業し、2023年に創業105周年を迎える。 "明日の食文化を拓く"を使命として、無漂白小麦粉への切り替えやイーストフード・乳化剤無添加など、業界に先駆けた挑戦を続けてきた。 2023年3月に祖業である包装パンの製造販売事業と子会社の営むデリカ食品の製造販売事業を譲渡し事業ポートフォリオの改革を断行。 現在はパンの冷凍生地・焼成後冷凍商品を製造販売するフローズン事業、パンや料理を店舗で販売・提供する直営事業に加え、パンに関連するオンライン事業(オンラインストア、冷凍パンサブスクリプションサービス)を運営。

創業から現在に至る事業変遷について

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(画像=株式会社神戸屋 直営事業)

―それでは、これまでの事業変遷について教えていただけますか?主に創業時の事業の経緯についてお話しいただければと思います。

株式会社神戸屋・桐山 晋氏(以下、社名・氏名略)::私たちの会社は100年以上前の1918年に創業されました。 当時、パンはまだ一般的ではなく、特に神戸や横浜という港町では外国人が大勢いたため、パンを焼く釜を持っていて、その港町である神戸で作られたパンを大阪のホテルやレストランに卸売りするという形で事業を開始しました。 その後、需要が増えて供給が追いつかなくなったため、1918年に大阪で工場を開設し、神戸屋としての事業を始めました。

―最初は卸業からスタートされ、パン製造にシフトしていったのですね。その後の事業の多角化や変遷についても教えていただけますでしょうか。

創業から現在にかけて、パンを中心に様々な事業を展開してきました。1918年の創業から20年近く経った1939年頃には、すでに関西地方で大手企業となり、現在は当たり前ですが、パンを包装して販売するという当時ではまだ新しい取り組みを始めました。 その後、包装されたパンの製造販売事業を中心に、戦前・戦後を通じて事業を拡大してきました。パンは日配品であり、地域性が強い商品であるため、関西以外で人口が集中している地域を中心に工場を設立し、販路を拡大することで、全国展開に成功しました。

事業の多角化という面においては、フードサービス事業やフローズン事業にも進出しました。フードサービス事業については、1936年に初の直営店をオープンし、1975年のベーカリーレストランのオープンをきっかけに関西や首都圏を中心に展開してきました。

フローズン事業については、BtoBビジネスで、業務用の冷凍されたパン生地及び焼成後冷凍パンの製造販売を行っています。主に、スーパーやカフェ、レストランなどのフードサービス事業者に対して、冷凍パン生地を提供し、最終的にはエンドユーザーのところで焼き上げていただいています。また、BtoCビジネスとして、当社の商品が購入できる神戸屋オンラインストアを立ち上げたり、業界の活性化を目指して、全国各地のベーカリーと協力し、様々なベーカリーのパンが毎月冷凍で届くサブスクリプションサービス「毎月PANDA!」などの事業も推進しています。

事業の変遷という面においては、かつて主力だった包装パンの製造販売事業を業界トップ企業様に株式譲渡し、フードサービス事業とフローズン事業に絞っています。かつては人口増加、経済成長に伴いパン製造事業の拡大をメインに経営していましたが、現在は人口減少の背景もあり、量より質を重視し、業界課題の解決策にもなり得る冷凍技術に活路を見い出し、事業ポートフォリオを再編しています。

事業内容やその強みについて

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(画像=株式会社神戸屋 ベーカリーワールドカップ)

―次に、御社の事業やその強みについて教えていただけますでしょうか。

食品メーカーとして生産性を追求したラインを持ちつつも、パン作りの本質である、職人が作る製品の技術力も持ち合わせていることが強みだと考えています。私たちの技術力が可視化されているものとしては、ベーカリーのワールドカップであるクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリーが挙げられ、当社から日本代表選手を多数輩出し優秀な成績を収めています。この大会に初めて日本が参加した1994年には飾りパン部門で優勝、2002年と2012年には日本チームが総合優勝しており、当社のパン職人が優勝に大きく貢献しました。

また、私たちは、パン作りに対する向き合い方や、その結果習得できるパン作り技術の向上にも力を入れてきました。機械製パンや冷凍パン製品でも、こねてから焼き上がるまでの工程において職人の技術をいかに取り入れるかを意識的に行ってきました。

―ベーカリーワールドカップでの優勝経験は本当に素晴らしいと思います。数多くのライバルがいらっしゃる中で、御社がパン作りの技術力において常にトップ争いをされている要因はあるのでしょうか。

はい。創業以来大事にしてきた「挑戦」の企業文化が要因だと思います。営業面での販路開拓やパン製造においても、自身の技術力向上や新しい技術の習得のために色々な機会を自ら掴みに行くということを非常に大事にしてきました。その結果が個々の技術力に表れていると認識しています。

地域で愛される秘訣や取り組み

―続いて、地域で愛される秘訣や考え方、取り組みについて教えていただけますか。

フードサービス事業は地域との距離が近いビジネスかと思います。コロナの影響で店舗数は減少してしまいましたが、首都圏中心に出店していて、その中でも特に鉄道路線を中心とした小規模なドミナント戦略を意識していました。

ある程度小規模の地域で認知度やロイヤリティを高め、ロングセラー商品においては、進化させつつも絶やさないことを意識してきました。そのため、昔から今まで通ってくださる方も多く、出店当時は20代だった方が60代になっても愛されるような店舗や商品作りができているかと思います。

また、直近では原材料費の高騰による価格改定もお客様にご理解とご協力の上進めていますが、店舗数増加及び業務用製品の取り扱いゆえに単店のベーカリーと比較し一定の調達力を有しているため、材料費を可能な限り抑制することをここ数10年間実施しています。

神戸屋のブレイクスルー

―次に、過去に色々な転換点があったと思いますが、会社として一番大きな転換点は何でしょうか?

包装パンの製造販売事業での販路拡大における挑戦が大きな転換期だったかと思います。パンというものは長い歴史の中で販路が移り変わってきており、古くは街にパン屋のメーカーの名前がついた一般店という形で販売していました。

しかし、1970年代になると流通システムが成長し始め、同業界内の大手企業の中でも比較的早いタイミングで流通と連携を取ったことで他企業より早い段階で販路を拡大することに成功しました。もちろん社内外での反対意見もありましたが、そのタイミングで合併や買収される他企業もいて、業界内のシェアバランスが大きく変化していたので、私たちの企業文化である挑戦をし続けたからこそ今があると考えています。

神戸屋の伝統と変革

―100年企業として、今まで伝統として守り抜いてきたこと、変化してきたことがあると思いますが、具体的にどのような部分を守り変えてきたのかお聞きできますでしょうか。

私たちは常に変わり続けている会社なので、特定のモノやコトを守り抜くというよりは、進化をし続けるマインドを大事にしてきました。包装パンの製造販売事業を手放し、事業ポートフォリオを再編するかどうかの決断をする際にも、社内の反対意見や業界の驚きの反応を予測しつつ、進化し続けるための決断をしました。

その結果、売上規模が非常に大きな事業を手放すことになってしまいましたが、決して縮小したとは思っていません。

これからも進化するマインドを絶やさないことが最も大切な伝統だと思っています。

思い描く未来構想とビジョン

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(画像=株式会社神戸屋 毎月PANDA!)

―ありがとうございます。これまでのお話を伺ってきましたが、今後の5年、10年、あるいはそれ以上先の未来についてどのような未来構想を持っていますか?

成長し前進し続ける時代を直接経験していない私の世代は特に、これから日本はどうなるのかという不確定性を抱えていると考えています。また、当社だけでなく、パンという産業、パンに関わる職業全体を見ても、市場規模の拡大による成長は厳しいと感じています。その中で、パンに関わる業界が抱える課題を一つ一つ解決していくことで、持続可能な産業にしていければと考えています。

私たちはこれまで包装パンの製造販売により、パンの供給量を増やし、パンの食文化を作り上げてきました。しかし、今後は新しい食文化を構築していかなければならないと思っています。それは小規模であるかもしれませんが、一つ一つ取り組んでいきたいと思っています。

―それは興味深いですね。具体的に、業界が抱えている課題とは何でしょうか?

食品業界全体としては、食品ロスを始めとした環境問題への対応が急務となっています。その中でも特にパンは、過剰生産や保存期間の短さから、食品ロスが大きな課題となっています。

また、パンは日配品である上に、軽くて体積が大きいため物流効率が非常に悪いという課題も抱えています。さらに、パンは低価格の商品というイメージが強く、価格が上がりにくいという問題もあります。これらの課題解決が、持続可能な産業を築くための鍵となると考えていますし、そのためには、一企業の努力ではなく、産業全体としての改革が必要だと考えています。

当社としては、お客様と直接対話し文化を発信できるフードサービス事業と、物流や労働力など業界の課題を解決することにつながるフローズン事業に注力します。この取り組みは業界にとって大きく役立つと考えています。

プロフィール

氏名
桐山 晋(キリヤマ シン)
会社名
株式会社神戸屋
役職
代表取締役社長