CAEの分野で独自のポジションを築き上げ、大手企業との長年にわたるパートナーシップにより、高度な技術とサービスを提供している企業。 事業変遷、挑戦、そして今後の展望についてお話を伺いました。

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(画像=株式会社日本アムスコ)
西脇 良一(にしわき りょういち)
株式会社日本アムスコ代表取締役
1966年生まれ。兵庫県神戸市出身。近畿大学を卒業後、エンジニアリング会社に就職し、エネルギーや宇宙開発に関わるCAE業務を経験。2000年に父親が創業、その後、他界し、休眠中であった日本アムスコの業務内容を「CAE受託業務」に刷新し、代表取締役に就任。趣味はスキー、ゴルフ。
株式会社日本アムスコ
ものづくりの上流設計に対して、PC上でのシミュレーション技術を用いて設計的課題を解決していく独立系企業です。「全ての物理現象をPC上に再現する」ことを夢に邁進しており、対象は自動車からエネルギー産業、はたまた航空宇宙まで。 産業界を横断して、社会に貢献できることが弊社の醍醐味であり強味だと自負しております。まだまだ発展途上な会社だからこそ、今後の成長に大きく期待を持っています。

創業のきっかけとこれまでの事業変遷

―1987年の創業から現在までの事業変遷について、お話しいただけますか?

当初は父が機械設計を手掛けていて、定年退職から独立したのが始まりです。最初の事業はベルトコンベアやショベルカーを使って土を動かすような設計コンサルでした。私自身はその頃学生で、機械工学を専攻していましたが、学生時代から父の会社でアルバイトをして、実務経験を積んでいました。卒業後は、三菱重工のグループ企業に入社しました。当時は、父が会社を大きくしてくれることを期待し、後から私も参画するという目標を持ち、三菱重工のグループ企業で機械設計を学んでいました。CAEとの出会いもこの時です。

しかし、その後阪神大震災が発生し、父の事業所も被災しました。再建する力はもはやなく、社員も全員退職したため、事業は廃業という形になりました。しかし、屋号のみ残り、少しばかりの税金を払い続けるという状態が続きました。

― その後、お父様の会社が休眠状態に入ったとのことでしょうか?

はい、父が他界したことで会社が休眠状態になりました。ただ、私自身は父が築き上げた事業を引き継ぐつもりでいましたので、周囲にも就職した会社をいつか退職することは伝えていました。そして、9年間の勤務を経て、とある小さな会社に誘われ転職しました。経験として小さな会社の社長を身近で見ておきたかったからです。

― その後も、再び日本アムスコを立ち上げる機会を伺っていたのでしょうか。

はい、その通りです。小さな会社で2年間勤めた後、当初の目的である日本アムスコを再興するための資金を必死で貯金し、本格的に立ち上げの準備を進めました。初めは、友人の広告代理店の経営を見ることが日本アムスコの事業の再スタートでした。そして、34歳の時にトヨタ自動車がCAEの人材を集めているとの情報を得まして、大の自動車好きだったこともあり、これに乗っかる形で、トヨタの関連企業と契約を結ぶことにしました。

当時、私自身がトヨタに派遣されるという形で、CAE業務をスタートさせました。将来、トヨタから仕事を持ち帰るという意識で臨みました。

― その後、トヨタを離れ帰任されたとのことですが、その時のお気持ちを教えていただけますか?

その時、私は家族を持っていて、週末は愛知から神戸に帰るという生活を送っていました。また、子供がまだ小さかったので、広告代理店の仕事と家庭での役割との両面でとても忙しい日々でしたが、非常に充実した時間でした。

― 広告代理店とCAEの事業を両立していたとのことですが、CAEの方の事業に展開するとなったときに大変だったことなどございましたか?

まず、親からは「そんなことして上手くいくはずがない」と言われ、妻からも、子供が小さい時に単身で事業を展開するというので、泣かれるほど大反対されました。 社員も含め、全員から反対されましたが、それでもやらない方が後悔すると思い、思い切って挑戦しました。特に資金面では非常に苦労し、社員の見えないところで支払いの交渉も行っていましたし、もう二度と経験したくないですが、当時の苦労した経験が、現在に繋がっていると思います。

― そのような逆境の中でも、踏ん張ってここまで会社を大きくされてきたところには、本当に感服いたします。家庭と事業の両立をするために行っていたことや工夫について、お聞かせいただけますか?

私の中で事業をやりながら、自分の考え方が大きく変わった瞬間がありました。それは、周囲の人々やいくつかの企業が私の事業に将来性を感じ、投資いただけるという声がかかったときです。それまで、私の他力本願な部分が出ていたのですが、徐々に、自社が誰かの食い物されてしまうのではないかという恐怖感を感じるようになりました。その時に自分の行動がそれを誘発していると気づき、完全に自力で事業を進めるという決意をしました。これが転機となり、この頃から事業も好転し始めました。

この経験から学んだことは、自責思考になるということです。会社の中で起こることは、社員のせいでも、取引先のせいでも、外部環境のせいでもなく、全て自分の責任だと思い込むようにしました。この自責思考が自社を成長させる原動力となりました。この考え方は家庭においても同じで、問題が生じたときはそれを家族のせいにするのではなく、自分自身の責任として受け止めています。

日本アムスコの強みとは

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― 素晴らしい思考ですね。ここまでお話を聞いていて、自己責任の重視や困難な状況を乗り越えてきた経験などが、会社の強みとなっていると感じましたが、一方で、西脇社長の考える、自社の強みとして挙げられる事業面の特徴について教えていただけますか?

強みは主に3つあります。1つ目は希少性です。私たちはCAEの専門会社として、同規模の企業では珍しい存在だと思います。一部のソフトウェアベンダーさんなどもCAEのソフトウェアを取り扱っており、ある部分では競合しますが、全部分で競合する会社はほとんどありません。2つ目は大手企業のお客様が多いことです。CAEはコストがかかる一方で、高い能力を要求されるため、大手企業がお客様になるのだと思います。 3つ目は様々な事業に水平展開が可能で、ポートフォリオが効くところです。

― あらゆる分野への展開が可能というのは魅力的ですね。具体的にはどのような分野に展開が可能なのでしょうか。

航空機や自動車、医療分野や宇宙分野など、幅広い分野で活用できます。また、これらの分野でのビジネスを統一的に管理することで、リスク分散も図っています。

― このリスク分散の戦略は、どのような場面で役立つのでしょうか。

例えば、リーマンショックの時に、自動車メーカーからの仕事が激減した際に、クリーンエネルギーという新たな領域で受注を強化しました。その結果、売上は下がらず、我々はこの危機を乗り越えることができましたが、このように特定の分野にとらわれないことで、柔軟な戦略を立てられます。

― そのような柔軟な対応力は驚きですね。しかし、一方で参入障壁も高いのではないでしょうか。

確かに、我々の事業は外部から見えにくい部分もあり、それが参入障壁の一つとも言えます。また、専門性が高いことや、高価なソフトウェアを使用することも必要となります。これらが参入障壁といえます。我々は何千万もするソフトウェアを少しずつ揃えてきました。そのためのコストは高いですが、これが我々の強みになっています。

― ちなみに、大手企業からの発注を受けるというのはどのような経緯でしょうか。また、どのような特性や要素が評価されているのでしょうか。

一番は技術力を強くアピールしているからです。この技術力は、社員の教育制度、評価制度が整備されている事が大きいです。この育成の仕組みがあることで、積極的に未経験者の採用に力を入れられるという部分も強みです。これにより、お客様からの紹介も受けることも多々あり、紹介をいただけるということはお客様からの信頼性が高いと考えています。

―続いて、特に印象に残っている、 過去の成功体験やそれによる実績について教えていただけますか。

成功体験というか、私は失敗をあまり恐れません。ただ、致命傷になる失敗はダメだと思うので、ジャブを打ちます。私が可能性を感じるものについては、会社全体で試行錯誤し、実験的に取り組んでいます。制度を変えたり、お客様にも試してみたりして、その結果、可能だと思うものだけに本格的に取り組みます。 そのために、これまで経済の勉強や、有名な著者や経営者の書いた本を読んできましたが、時代の変化が早すぎて、私たちの業界も進化していますので、インプットを継続的に行うだけでなく、役立つ部分と役立たない部分を正しく取捨選択していくために、日々知恵を使って改善していかなければならないと思っています。

これからの日本アムスコについて

―今後思い描いている未来構想や事業の展開について教えていただけますか?

まずはシェアを拡大したいと考えています。我社の大部分は国内メーカーに依存している状態です。その需要はメーカー次第です。しかし、将来的にも日本のメーカーに勝っていただかないと厳しい状況です。今後の市場の縮小を考えると、この状況は少々危険だと感じています。ただ、我々が手がけている事業は市場全体の一部に過ぎないので、この部分のシェアを増やしていきたいと考えています。現在、社員数は230名程度ですが、11年後には1000人を目指しています。この目標が現代社会で達成可能かどうかはわかりませんが、業界内での影響力を高めていきたいと思っています。

― 11年で1000人規模を目指しているんですね。そのための新しい取り組みなどはありますか?

もちろんです。私たちは新たに「コムスコシステムズ」という子会社を設立しました。これはソフトウェア開発に特化したシステム会社で、お客様が抱える数学的・物理的に難易度の高い設計的な問題をシステムで解決することを目指しています。一般的に、大手企業と提携している中小企業は、複数の階層を持つ構造になっており、利益が上層へと流れてしまうことが多く、情報も遮断されがちです。しかし、私たちは一層構造で、直接お客様の抱える問題を解決できます。この新しいシステム会社を投入したことで、お客様からの評価も高まり、仕事が増えてきました。今後は、このシステム子会社の拡大にも注力し、両輪で拡大を目指していきたいと考えています。

― 今後、事業が拡大していくと思うのですが、将来的にはどのようなことを課題と考えていますか。

最近は、 経営と株式の分離について考えています。現在、私一人が全ての株式を保有していますが、株価は上昇傾向にあります。創業時から、この問題にどう対処するかを考えてきました。

― それは興味深いですね。西脇さん自身は、お金に対してどのような価値観を持っていますか?

私自身、物欲がそれほどありません。ただし収入は自分の社会的価値とも考えています。だからとことん上げていきたい。お金を使うとすれば、それは新たな経験のためです。趣味であるスキーが大好きで、12~5月は毎週滑っています。また、ゴルフも楽しんでいますし、余裕があれば海外見聞もしたいです。様々な経験を通じて、自身の考え方を深めるためにお金を使いたいと考えています。

― この先の企業としてのビジョンについても教えていただけますか?

私のビジョンは、社員一人ひとりが自分の能力を最大限に発揮できる環境を作ることです。それが結果的に会社の利益にもつながりますし、社員ひとりひとりが自分の能力を活かして楽しく働ける会社になると考えています。

― それは素晴らしいビジョンですね。それでは最後に、これから起業を考えている方に向けてのメッセージをお願いします。

起業は大変な部分も多いですが、自分の思いを形にする喜びは何ものにも代えられないものです。また、逆境に立たされたときこそ、自分の信念を見つめ直し、一歩ずつ前進していくことが大切だと思います。そして、自分だけでなく、周りの人々と共に成長していくことの大切さを忘れずにいてください。

氏名
西脇 良一(にしわき りょういち)
会社名
株式会社日本アムスコ
役職
代表取締役