病院は多すぎる?毎月消えて行く病棟と病床の不思議
2014年3月20日、厚生労働省のプレスリリースは興味ある調査を公開した。医療施設動態調査、といい国内の病院数と病床数の変化を公表したものである。これによれば、平成26年1月現在国内には約17.8万もの病院がある。病床数は約170万もあり、ざっと100人に1.3人の入院病床が用意されていることになる。
ところが、病院数は25年12月からわずかひと月で132カ所(そのうち歯科医院が45)減少し、病床数はひと月で1,106床も少なくなった。もちろん、月によって増減の波はあるものの、今年に入ってから減少数の方が上回っている。
これに対して、65歳以上の高齢者の人口は年間約100万人ずつ増加している65歳以上の高齢者人口は、3,079万人 (前年2,975万人)、高齢化率も24.1%(前年23.3%)。
4人に1人が65歳以上であり、患者予備軍の増加が見込まれているのに、病院病床数の減少はなんとも不可思議な事態、といわざるを得ない。
減少する病院の特徴とは
独立行政法人医療福祉機構は、病院建設や病棟の増築などの融資を行う政府系機関だが、2014年10月17日のSCリサーチレポートでは、99床以下の小規模病院(国内病院の約60%)で経営難を問題視する見方が多く、診療報酬の削減や『7:1入院基本料(患者7対看護師1)』を選択する大病院に比べ、『15:1入院基本料』『療養病院入院料』という低水準の診療報酬を選択せざるを得ない、という事情がある。
だからといって従来の様に病棟を増築して患者数を増やし、看護師の患者対比の増加で経営安定を図ることが最善の策、とはいえなくなった。実は、安倍政権で初となる10月実施の診療報酬改定では、『急性期高度医療』と『早期退院による在宅医療の強化』に報酬増を提示しているからなのだ。つまり、患者への臨床を長引かせ、病床時間をゆったりとる日本型医療の典型病院は、どんどん淘汰される運命にある。
ビジネスチャンスとなる医療市場はここだ
一方で、大規模病院の増築や機材購入が進む現象も進む。中でも福岡市の九州大学病院の拡張ぶりは目を見張る。2008年にアジア遠隔医療開発センターをオープンさせ、ロボット手術や災害医療などの『医療技術のモデル病院』となった。富士フイルム < 4901 > が開発した『SYNAPSE』を2013年1月に導入し、病院情報システムをベンダーに変え、電子カルテとの融合させることで、臨床技術を飛躍的に向上させた。
2014年10月発表された日立製作所 < 6501 > のプロジェクトの相手は北海道大学。共同開発の動体追跡照射技術『陽子線治療システム PROBEAT-RT』が薬事法適用となり、2014年度中に、このシステムによるがん治療が北大で開始。これは世界初の動体追跡照射技術とスポットスキャニング照射技術の両方を搭載した陽子線治療システムで、患者の痛みがほとんどないまま、水素の原子核である陽子を加速器で高速に加速し、腫瘍に集中して照射することでがんを治療する。2018年度の売上高は6,000億円を目標とするが、その半分は病院向けのソリューションだ。
さらに、東芝 < 6502 > 傘下の東芝メディカルシステムズはCT(エックス線を使って身体の断面を撮影する)、MRI(強い磁石と電波を使い体内の状態を断面像として描写)の分野で世界初の技術を持ち、2014年度の売上は2,871億円、営業利益だけで223億円にも及ぶ。ちなみにサッカープレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドに無償貸与したCTは57億円だ。東芝の計画では2015年度の売上目標は6,000億円、17年度は1兆円だ。東芝全社がヘルスケアでの収益を目指すという。