本記事は、マネックス証券 暗号資産アナリストの松嶋真倫氏の著書『暗号資産をやさしく教えてくれる本』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ウォレット
(画像=S... / stock.adobe.com)

暗号資産のウォレットは銀行口座の仕組みと同じ

暗号資産を守る「公開鍵(アドレス)」と「秘密鍵」

暗号資産のウォレットは、銀行口座の仕組みと同じものとして理解することができます。

まず、銀行口座と同じで複数のウォレットを持つことが可能です。

たとえば、長期的に保有するものはより安全なハードウェアウォレットで管理し、短期的に売買する分は取引所のオンラインウォレットに置くというような工夫もいいでしょう。

また、同じウォレット内で複数のアドレスを持つこともできます。同じ銀行内で口座を分けて使用するように、あるアドレスは取引用、もう1つのアドレスは貯蓄用という具合に区別することが可能です。

その分、大変になりますが、用途によって分けて管理することができます。

銀行口座が預けたお金をペアとなる口座番号と暗証番号によって管理しているように、暗号資産のウォレットは同じくペアとなる「公開鍵(アドレス)」と「秘密鍵」によって暗号資産を管理します。アドレスが口座番号で、秘密鍵が暗証番号にあたり、どちらも不規則な文字列で表記されます。

ウォレットをつくる際には、まず、秘密鍵が乱数を返すプログラムによって生成されます。次にそれに対応する形で公開鍵(アドレス)がつくられます。つまり、1つの秘密鍵に対して1つの公開鍵(アドレス)が定められます。

公開鍵(アドレス)は、銀行の口座番号と同じ役割を持ち、暗号資産を誰かから受け取る時や誰かに送る時に使います。

銀行と違って注意しなければならないのは、暗号資産によってアドレスの仕様が異なる場合があるということです。

たとえば、ビットコインを仕様の異なるアドレスに送ってしまった場合には、それが届かないケースもあります。そのため暗号資産を送る際には、送り先が同じ仕様のアドレスであることを確認する必要があります。取引所から送金する場合には、送金内容について第三者が事前にチェックしてくれますが、個人で送金する場合にはその点に注意しましょう。

一方、秘密鍵は暗号資産を送る時に、取引の内容を承認する電子署名として使います。

暗号資産を送るということは、送り主と送り先(相手)との間でブロックチェーンデータベースが書き換えられるということです。この時、私たちはウォレットに保管されている秘密鍵によって、その内容に署名しています。

注意すべきなのは、秘密鍵が第三者に知られてしまうと、自分のアドレスから暗号資産を他のアドレスへ送ることができてしまうことです。秘密鍵は、銀行の暗証番号と同様に安全に管理しなければなりません。

秘密鍵を安全に管理する

ウォレットで「秘密鍵を管理する」とはどういうことなのか、大事なことなので詳しくお話ししていきましょう。

暗号資産取引所を利用する場合は、取引所が秘密鍵を管理してくれるため、自分で管理する必要はありません。しかし、個人のモバイルウォレットなどで暗号資産を保有する場合には、秘密鍵を自ら管理しなければなりません。

一般に暗号資産の秘密鍵はアドレスと同様に下記のような不規則な文字列によって表示されます。

例)KxyGRSTXuKojW3cwphAsnuQtdeuyv7hzCBwGd7MLHuB3Blmy79th

これを見てぱっと覚えられる人は、ほとんどいないでしょう。

一般に暗証番号は4桁なので覚えておきやすいものですが、これだとそうはいきません。そこで、見慣れた英単語の並びによって秘密鍵を簡単に復元できる仕組みができました。「バックアップフレーズ」や「パスフレーズ」「ニーモニック」など呼び名は様々ですが、ウォレットをつくる時に、プログラムによって秘密鍵の元となる復元フレーズが生成されます。この復元フレーズは2048個のワードリストからランダムに選び出された12単語もしくは24単語で1つひとつが構成されます。

例)Crash apology blanket inflict unable exhibit silent return tatoo enforce memory slot(12単語)

このような形で復元フレーズを管理することによって、秘密鍵を保管するモバイル端末をなくしてしまったとしても、新しい端末から秘密鍵を復元して自分の暗号資産にアクセスすることが可能となります。

ただし、復元フレーズを忘れてしまうと、万が一の際、ウォレットから自分の資産を引き出すことができなくなってしまいます。

ウォレットをつくった時には、復元フレーズを必ずどこかに書き留めるようにしましょう。

暗号資産の移動は銀行送金と同じ

送金は「マイニング」がカギ

お金を送金する際は、銀行の支店かATMに足を運ぶか、インターネットバンクを使い、どの銀行口座あてに、いくらのお金を移動するかを指定して、自分のお金を預けている銀行に依頼することでしょう。

この時、国内送金であっても、相手の銀行口座に着金するまでにはいくらかの時間と手数料がかかります。国際送金であれば、これらのコストはさらに大きくなります。

暗号資産もインターネット上の「お金」ですから、ウェブ上やモバイルアプリで送金することができます。自分のウォレットから「送金先」と「金額」を指定するだけなので、簡単です。送金先は、相手のアドレス情報をコピーするか、QRコードを読み取ることで指定できます。暗号資産のアドレスが、銀行の口座番号のようなものといわれるのはこのためです。金額は、ウォレットの残高分を上限に決めることができます。

暗号資産を取引所に預けている場合には、銀行送金と同じように取引所に対して送金を依頼します。

取引所では、依頼内容を確認してから送金の事務処理をするため、送金まで多少の時間と数百円程度の送金手数料がかかります。

暗号資産を個人で管理している場合は、自身のウォレットから送金を依頼します。取引所を介さないため送金までは比較的早いですが、同様に少額の手数料がかかります。

つまり、暗号資産の送金は銀行送金とほとんど同じ流れというわけです。

『暗号資産をやさしく教えてくれる本』より引用
(画像=『暗号資産をやさしく教えてくれる本』より引用)

しかし、違いとして知っておかなければならないのは、暗号資産は送金が依頼されてからその内容がブロックチェーン上で承認されるまでにコストがかかるということです。その承認作業を「マイニング」といいますが、取引が混雑した時にはその承認に時間がかかり、送金が遅延することがあります。また、取引の承認にかかる手数料も高くなることがあります。

暗号資産で送金するメリット

では、実際に暗号資産が送金に使われるのは、主にどのような場面でしょうか。

1つ目は国際送金です。

銀行を介しての国際送金では、着金までに数日、送金手数料が数千円以上かかることもめずらしくありません。

しかし、暗号資産での送金は、送金先がどの国、どの地域であっても、その日中に安価な手数料で送金することができます。このようなメリットから、とくにフィリピンやベトナムなど出稼ぎの多い新興国では、暗号資産を送金の代替手段として活用することもあります。

2つ目は国内の銀行システムが不安定になった時です。

2013年に欧州圏で起きたキプロス危機では、国内情勢の悪化を受けて預金者が銀行に殺到し、取り付け騒ぎになりました。この時、銀行の機能は一時的に停止してしまいました。国民が自分たちの資産を海外へ逃がそうとした際に、銀行に代わる送金手段としてビットコインが注目されました。

以降も、香港デモやミャンマークーデターなど有事の際は、銀行に代わる送金手段として暗号資産が活用されています。

このように暗号資産はグローバルに素早く安価に送金できることが特徴です。日本に住みながら銀行で国際送金の手続きをしたことがある人は、それがどれほど手間のかかる作業か身をもって感じているでしょう。万が一、国内の金融システムが停止した場合であっても、暗号資産は送金手段として活用できます。

暗号資産をやさしく教えてくれる本
松嶋真倫
マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ 暗号資産アナリスト
大阪大学経済学部卒業。都市銀行退職後に暗号資産関連スタートアップの立ち上げメンバーとして業界調査や相場分析に従事。マネックスクリプトバンク株式会社では業界調査レポート「中国におけるブロックチェーン動向(2020)」や「Blockchain Data Book 2020」などを執筆し、現在はweb3ニュースレターや調査レポート「MCB RESEARCH」などを統括。国内メディアへの寄稿も多数。2021年3月より現職。本書が初の著書。

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