2008年、東北大学歯学部/2015年、UCLA Anderson School of Management卒。歯科医療法人にて診療に従事しながら、中小企業診断士として業務改善に携わった後、UCLAにおいてMBAを修学。2015年、WHITE CROSS株式会社を共同創業。東北大学歯学部/大阪歯科大学大学院/松本歯科大学/日本大学松戸歯学部 非常勤講師。神奈川歯科大学 医療経営学招聘講師。東京都歯科医師連盟会員。
これまでのご経歴について教えてください。
当社は歯科医療従事者専門のオウンドメディアを活かして、企業向けにマーケティング支援を、歯科医院・歯科技工所などの歯科医療機関向けに人材教育や業務改善SaaSなどの幅広いサービス・ソリューションをバーティカルに立ち上げて提供しています。
私は歯科医院の三代目で、岡山の片田舎の歯科医院の出身です。家族の影響もあって、東北大学の歯学部に入学し、臨床現場に立つ歯科医師を目指していました。しかし、その当時は歯科バッシングが多くありました。本来比較すべき対象ではないため相互的に失礼な話ですが「歯科医院は、コンビニより」 多いという言葉が一人歩きしたりしていたのですが、私の知っている歯科医療は、もっと楽しくて社会にとって良いものだと思っていました。そこで歯科医療を経済的に俯瞰しようという思いで、大学在学中に中小企業診断士を取得し、その過程で歯科業界の問題をノートに書き留めていました。その後、臨床医として生きるか、業界に影響を与えうる仕事をするかという選択で、後者を選びました。
その後、日本でも有数の規模の歯科医療法人に入社し、臨床医として働きながら、中小企業診断士として得た知識・経験を活かしてマネージャーとして働きました。一定の成果をあげることはできたのですが、マネジメントとして法人自体に影響を与えることは可能であっても、業界全体に影響を与えることはまだ遠いと感じました。私はまだ年齢的に若く挑戦したいという思いがあり、視座を高めるためにUCLAのビジネススクールに留学しました。
ビジネススクールの選択基準は、起業に強いこと、歯学部を持つ総合大学であること、そして世界中から優秀な人が集まる場所であることでした。条件を全て満たすビジネススクールは少ないのですが、その中で合格したUCLAに進学できたのは幸運でした。UCLA在学中には、M3社やメドピア社などの企業の分析を行い、マザーズ上場直後のメドピア社にてインターンも経験しました。その過程で歯科医療の領域で起業しようと決めました。
私が留学をしていた2013年から2015年当時は、ニッチ産業故に歯科医療における情報の流動性が非常に低かったのです。当時の歯科医療における主な情報源は雑誌や歯科関係者を介した情報伝達であり、m3社やメドピア社などがある医科と比較して、明確に遅れていました。しかし、歯科医療も日進月歩で発展しています。臨床現場が最新の歯科医療情報を得られるようになれば、その先にいる患者さんにとっての歯科医療の価値が高まるのではないかと考えました。このギャップを埋める存在として2015年、ビジネススクールの卒業に合わせて当社を起業し、帰国と同時に事業に完全に集中する形で現在に至ります。
一番感銘を受けた書籍とその理由は
私が一番影響を受けた書籍は『ビジョナリーカンパニーゼロ』です。私は昔から本が大好きで、起業前から様々な本を読んできましたが、この本は、経営に関して自分が肌感覚で感じてきたものや、経営学の基礎的な部分がまとめられていると感じました。また、書籍内では主にビジネスの「0to1」について書かれていて、企業を横並びで比較するのではなく成功する企業をつくるまでの道のりが描かれています。このことからも、対比ではなくどうあることで個々の成功の確率を高めるか、という部分が記されていると感じました。
読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。
この本で体系化されていることを、当社の運営や仕組みづくりにあてはめました。この本が出版された2021年から、社内のリーダー職以上全員に一人一冊配布し、一年間かけて読み合わせのリーダーシップ研修を行い、この本に書かれていることをできる限り忠実に再現して当てはめています。例えば、ビジョンに関しても、パーパス、ミッション、コアバリューという考え方に切り替えて進めています。自分の経営の基軸とするために少なくとも30回は読み返しており、今でも定期的に読み返し、辞書的に使っています。
私は、私たちが考える会社のあるべき姿や社員のあり方について、『ホワイトクロスノート』という本にまとめています。この本は、私がこれまで学んできた様々な先達の本や経験から得た知識を元に、社員一人ひとりが職業人として何を考え、どのように行動すべきかを記しています。全154ページにわたるこの本を社員に配り、当社の社員としての軸にしています。
経営において重要としている考え方を教えてください。
私が重視しているのは道徳心と経営学の基礎です。そして、当社が歴史上経験してきた失敗を基盤とすることです。これらは全てホワイトクロスノートに記されている考え方や価値観でもあります。私自身がこれまで読んだ書籍や積み重ねてきた経験、失敗から学んだことを生かして、経営に取り組んでいます。
例えば、道徳心に関して、良い心を持つことはどんな場面においても大切だと思っています。私が社内で言っていることは、社員が家に帰って、その子供に言っても大丈夫なことでなければいけないと思います。逆に子供に言えないことを社内で教えるのは良くないことで、それを許容して道徳心のない企業文化になれば、社内不正や売上至上主義に繋がってしまいます。
その上で良い心だけではお金は稼げず、誰も幸せにできません。事業をやる以上、お金を儲けなければいけません。中小企業診断士を取得し、MBAを修学してきた私が言うのは滑稽かもしれませんが、そこに活きる経営学というのは、ロケットサイエンス的な難しい話ではありません。だからこそ基礎的な部分を適切に取り込んでいきたいです。本当に難しいところであれば、ロイヤーやストラテジストやエンジニアといった専門家がいますが、彼らとも根源の部分では価値観を共有しようと努めています。その上で、正しく徹底的に儲けられる会社になることを目指して、常在戦場の日々を積み重ねています。
一方で、私も経営者として働き始めたのが8年前で、当然いろんな失敗をしてきました。その中で、新規事業の立ち上げで失敗したこと、私の経営者としての未熟さで失敗したこと、社員に任せて失敗したこともあります。その全てが経営の責任だと思っています。そのうえで、経営においては「人として正しいかどうか」が大切だと思っています。それを持ったうえで経営者として競合との戦いや社員と向き合わなければいけないと思っています。逆に、正しさを追求しようと思うと、自分が社長だろうが謝らなきゃいけないときは社員に対して謝りますし、それでいいと思っています。
最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
まず、東証グロースへの上場を目指し、永続性のある偉大な企業にしていくことが目標です。その中で、ホワイトクロスは、世界中の歯科医療従事者が利用するシステムを作り上げ、歯科医療産業に関わるあらゆる企業の活動において欠かせない存在になりたいと考えています。
また、長い目で見た時には、世界中において歯科医療の社会的価値の向上にも取り組みたいと思っています。日本にいると信じられないことですが、今でも子供が指で歯磨きをしている国もあります。政府との連携事業を通じて、当社のシンクタンク機能を生かし、歯科医療の価値を広げていきたいと考えています。最終的には、歯科医療の社会的価値を高め、社員とその家族の幸福を追求することが私たちの目指す未来です。
社員に対しては、人として正しい心を持ち、一流の職業人として努力を積み重ねることを期待しています。会社は、職業人としての成果を上げる場であり、同時に人格形成の場でもあると考えています。その中で、一人ひとりの人生においてホワイトクロスで過ごした時間が厳しくも良い価値観や経験、影響を得られた時間になること、同時に経営者として働く人の幸福が願い続けられる場所でありたいと思っています。
- 氏名
- 赤司 征大(あかし まさひろ)
- 会社名
- WHITE CROSS株式会社
- 役職
- 代表取締役 CEO 歯科医師/共同創業者