この記事は2024年1月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「5年ぶりに賃料上昇への転換点を迎える東京オフィス市場」を一部編集し、転載したものです。


先発投手の公平性指標「クオリティースタート」
(画像=拓也神崎/stock.adobe.com)

2023年は新築の大規模ビルが相次いで竣工したことで、合計21万坪のオフィス床が新たに供給された。1年前の今ごろは、大量供給によってオフィス需給が緩和してコロナ禍拡大以降の市況悪化が加速するという見方も多かった。だが、ふたを開けてみると、企業のオフィス需要は強く、コロナ禍前の19年を上回る19万坪の床が新たに賃借された。

上昇が続いた空室率も頭打ちとなった。ビルの建て替えや再開発に伴って5万坪相当の既存ビルが滅失したとみられ、結果的に需給バランスは2万坪の需要超過となり、空室率は小幅ながら4年ぶりに低下している。空室率の動向にやや遅行する傾向があるオフィス賃料は4年続けて下落したものの、前年比変化率はマイナス2%となり、その幅はゼロに近づいている。

堅調な需要の背景には、オフィスワーカーの出社率が高まったことがある。テレワークが普及したことで企業はオフィス面積を圧縮し、22年まではマクロの雇用情勢や企業収益の悪化度合いから想定される以上にオフィスの解約が見られた。一方、経済活動が正常化に向かうにつれ、逆に出社回帰の動きが広がった。その結果、手狭になったオフィスを借り増す流れが強まり、23年のオフィス需要を押し上げたといえる。

総務省・経済産業省の「21年経済センサス活動調査」によると、近年、東京都心部で従業者数が増加している産業は、情報サービス業、専門サービス業、職業紹介・労働者派遣業である。社会的なデジタル化の進展、企業のDX支援ニーズや人手不足を背景に、ソフトウエア開発などのIT関連やコンサルティング、人材派遣サービスなどがオフィス需要の拡大に寄与しているとみられる。

24年のオフィス市場は賃料相場の転換点を迎える公算が大きい。当社のマクロ計量モデルによると、今年も空室率の低下が継続することでオフィス賃料は底を打ち、5年ぶりに上昇に転じる見込みである。その理由として次の3点が挙げられる。

第一に、24年に竣工が予定される新築ビルは過去の平均的な供給量に比べてかなり少なく、供給面からオフィス需給が崩れる懸念は大きくないこと。第二に、業容拡大に向けた企業の設備投資増加などを受け、24年もオフィス需要の拡大が続くとみられること。第三に、需給の改善に加え、過去最高益を更新する良好な企業業績によって企業の賃料負担力が回復すると予測されることである。

無論、予測はあくまで過去の傾向に基づく機械的な推計結果ではある。それでもなお、今年はオフィス市場にとって久々に明るい話題が増えると期待せずにはいられない。

5年ぶりに賃料上昇への転換点を迎える東京オフィス市場
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJ信託銀行 シニアリサーチャー/竹本 遼太
週刊金融財政事情 2024年1月30日号