この記事は2024年2月2日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「メジャーリーグの捕手評価指標「フレーミング」」を一部編集し、転載したものです。


メジャーリーグの捕手評価指標「フレーミング」
(画像=Ameer/stock.adobe.com)

(日本プロ野球選手会オフィシャルサイト)

往年の名選手であり名監督とも称された野村克也氏は「優勝チームに名捕手あり」という名言を残し、野球というスポーツにおいて捕手がいかに重要なポジションであるかを説いた。しかし、2023年のポジション別全球団平均年俸によると、捕手への評価が年俸に反映されていないようにも思われる(図表)。

さらに、一流選手の証となる1億円プレーヤーのポジション別割合は外野手が20.8%、投手が20.0%、内野手が16.2%であるのに対し、捕手は10.4%にとどまる。その理由として、捕手の分業制が進み出場機会が減少したこともあるが、一番の要因は、野手は打撃による貢献が年俸に反映されやすい傾向にあることが挙げられる。確かに、ポジション別の平均OPS(出塁率+長打率)を見ると内野手が.682、外野手が.677であるの対し、捕手は.639と差がある。

守備を評価するにしても、守備力を定量的に評価する指標は「守備率」(エラーをしない割合)など限られている。ましてや、捕手の守備力については印象によるものが大きく影響しがちで、その最たる例として「リード」がある。

リードは捕手が相手の打者のデータをもとに、投手の投げるコースや球種を組み立てるものだが、これを科学的に評価するのは困難である。なぜなら、投じられた球が予定どおりに投げられたものか、偶然のものなのかは投手のみが知るところだからだ。中日で長年エースとして活躍した山本昌こと山本昌広氏は「狙ったところに3割投げられるようだったら、その試合は完封できていた」と語る。

メジャーリーグでは捕手の起用は打力優先であり、リード面をあまり評価しない。それは投手が主体となって配球の組み立てを考えるからだ。捕手を守備で評価する際は「盗塁阻止率」と「球を後ろに逸らさない割合」が優先される。

さらに近年では、捕手の評価軸として「フレーミング」と呼ばれる指標が提案された。これは、ストライクかボールか際どいゾーンに来た球をストライクと審判に判定させればプラス、ボールと判定させればマイナスとなる指標だ。つまり、チームに有利な判定をもらうことで試合を優位に展開するための捕手のテクニックを評価するものといえる。ちなみに、昨年のワールド・ベースボール・クラシックの優勝に貢献した中村悠平選手(ヤクルト)、甲斐拓也選手(ソフトバンク)、大城卓三選手(巨人)の3捕手はフレーミング技術が日本トップクラスである。

フレーミングは「PITCHf/x」というトラッキングシステムの発展によって編み出された指標だが、より高度な技術が開発されれば、リードを評価できる指標も編み出せるかもしれない。それが確立すれば、日本プロ球界における捕手の待遇改善も期待できよう。

メジャーリーグの捕手評価指標「フレーミング」
(画像=きんざいOnline)

江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年2月6日号