この記事は2024年2月1日に「The Finance」で公開された「運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来」を一部編集し、転載したものです。


ESG投資における情報開示や、投資に関わる業務においては運用機関と上場企業の双方で多くの課題が残されている。ESG投資に関して同じ問題意識を持つ国内大手金融機関と日立製作所で設立された一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会の取り組みや、課題解決のためのサービス「Sustainable Finance Platform / Engagement Support Service」(SFP-ESS)について紹介する。

目次

  1. ESG投資を取り巻く現状
    1. (1)ESG投資の現状
    2. (2)開示基準の整備動向
  2. サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会の取り組み
    1. (1)設立背景
    2. (2)ESG情報開示・投資における運用機関と上場企業の課題
    3. (3)運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォーム
    4. (4)ビジョン
  3. ESG/サステナビリティに関する会員企業の取り組み

ESG投資を取り巻く現状

運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=Barriography/stock.adobe.com)

(1)ESG投資の現状

2006年に国連のアナン事務総長が投資の意思決定プロセスにESGを組み入れる「責任投資原則」(PRI)を提唱した。2008年のリーマンショック以降、それまでの短期的利益追求型の経営や投資に対する批判が高まったこともありPRIには世界の多くの機関投資家が署名した。2015年には世界最大の機関投資家GPIFも署名し、ESGへ消極的な企業は投資対象から除外されるビジネスリスクを抱えていることが広く認識されるようになった。こうした動きを背景に2020年時点の世界のESG投資額は全世界で35.3兆ドルまで拡大した。
2022年時点では米国の調査手法厳格化等を要因に全世界で30.3兆ドルまで減少したものの、欧州や日本においては2020年比で増加した結果となった。(*1)

(2)開示基準の整備動向

これまでさまざまな組織・団体が独自に開発してきたサステナビリティ開示に関する基準やフレームワークが混在し、それぞれの用語や開示項目の調整が行われていない状況にあったが足元では基準などの主要な設定団体に協調の動きが出ている。
その中で2023年3月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がサステナビリティ開示基準「IFRS S1号」と「IFRS S2号」の草案を公表した。国内においてはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2023年度中に草案を公表し、2024年度中に確定基準を公表する方針を示している。

※脚注
*1)GSIA-Report-2022.pdf (gsi-alliance.org)

サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会の取り組み

(1)設立背景

このような状況において一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会(以下、SFPF運営協会)は、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス、損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、日本生命、日立製作所、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行の8社で設立された。
各々がESGやサステナビリティを推進する立場として課題意識を持ち、活動を進めている中で、顧客である上場企業が持つ課題である「情報開示のために集めた貴重なESG情報をいかに運用機関に届けるか」というテーマが共通していたことをきっかけとして、法人設立前から協議体を設立し、解決策の検討を進めてきた。

(2)ESG情報開示・投資における運用機関と上場企業の課題

運用機関はスチュワードシップ・コードに基づき投資先企業やその事業環境などに関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促す役割を担う。上場企業はコーポレートガバナンス・コードにおいて財務情報以外のESG情報などの非財務情報についても利用者(投資家など)にとって有益な記載となるよう、取締役会が積極的に関与し適切な情報開示を行うべきとされている。

これらは運用機関と上場企業の双方で適切な対話が行われることで企業の持続的な成長が促されるよう定められた原則であるが、適切で効果的な対話が実現するためにはそれぞれの業務において未だいくつかの課題が残る。

■運用機関の課題

  • 上場企業によって統合報告書等の開示媒体や、開示項目の定義にばらつきがあるため、ESG情報の収集に多くの工数と時間がかかる、
  • 投資判断に必要な情報が上場企業から開示されていないため、判断材料が不足している。

■上場企業の課題

  • 役員・取締役会との開示方針・内容の合意形成と各事業部への情報収集依頼・調整に多くの工数と時間がかかる
  • 運用機関がどのような意図で情報開示を求めているかわからないため、一般的な開示情報にとどまっている、または情報開示に取り組めていない
運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)

※ESG情報開示、投資における業務イメージ

(3)運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォーム

「Sustainable Finance Platform / Engagement Support Service」(略称:SFP-ESS)SFP-ESSは運用機関と上場企業をつなぎ、相互理解を深めるツーサイドプラットフォームであり、双方の課題解決のために開発された。
従来の企業の情報開示から始まる一般的な開示プロセスの起点を、運用機関の「情報開示ニーズの提示」を両者の対話を起点とするプロセスに変えることが最大の特徴である。上場企業は運用機関のニーズに沿ったメリハリのある情報開示を効率的に進められ、運用機関は自社が提示した開示ニーズに沿った情報開示を受けることで、ピンポイントに、かつ効率的に投資判断に必要な情報を収集できるようになるとともに、企業間の比較可能性が高まったデータを入手可能になる。

運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)
運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)

10月から提供されているベータ版においては、運用機関の情報開示ニーズをSASBに沿って提示し、上場企業が参照する「開示促進サービス」、上場企業が登録した情報の横比較が可能となる「ESGデータベース」、双方のエンゲージメント活動をサポートする「コミュニケーション支援サービス」から構成される。

運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)

なお、本サービスでは「IFRS S1号」と「IFRS S2号」への対応を2024年に計画しており、IFRS財団より「IFRS S1号」と「IFRS S2号」の利用ライセンスを日本で初めて付与されている。(*2,*3)

(4)ビジョン

SFPF運営協会のビジョンでは、デジタルプラットフォームで様々なステークホルダーをつなぎ、効果的・効率的なコミュニケーションを促すことで新たな価値を創出することを掲げている。
価値創出の第一歩として、SFP-ESSではESG投資領域をターゲットとして運用機関と上場企業の相互理解を深め、マーケットの更なる発展に貢献していく。
将来構想としては対象領域を融資や保険といった金融全体へ拡大し、相互理解を促進する社会インフラとなることでサステナブルファイナンス全体の活性化を通じて持続可能な社会の発展に貢献することをめざす。

運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)

■リンク

※脚注
*2)SFP-ESSは、日立製作所がサービス提供を行う。
*3)IFRS財団が2023年6月に公表した開示基準。IFRS S1号(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項)及びIFRS S2号(気候関連開示)で構成される。

ESG/サステナビリティに関する会員企業の取り組み

ここからは、ESG/サステナビリティに関して、SFPF運営協会に所属し、サステナブルファイナンスの更なる発展を共にめざす会員企業の取り組みを各社から紹介いただく。

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社
「ESG課題を考慮した投融資の取り組み」

当社グループは責任投資原則(PRI)の署名機関として、ESGを考慮した投融資を行っています。具体的には、当社グループの優先取組課題を踏まえて、ESGの要素を考慮したプロセスの構築や、収益性を前提としてESGテーマ型投資(サステナブル・テーマ型投融資、インパクト投資)に取り組んでいます。また、三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は「日本版スチュワードシップ・コード」の受入れを表明し、ESGの観点を踏まえた投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を実践し、投資先企業のESGへの意識をより高め、中期的な企業価値の向上を促す取り組みを進めています。

運用機関と上場企業をつなぐデジタルプラットフォームでひらくESG投資の新しい未来
(画像=The Finance)

気候変動への対応については、投資先企業への建設的な対話(エンゲージメント)を通じ、温室効果ガス(GHG)排出量の削減とTCFD提言に基づく情報開示を促しています。また、2023年11月には2050年ネットゼロへの移行を進めるため、保険引受先及び投融資先に係るGHG排出量を、2030年までに37%削減(2019年度比)する中間目標を設定しました。対象となる国内主要取引先(約3,300社)との対話を通じて、GHG排出量削減における課題を共有し、課題解決にともに取り組みます。(三島和子氏)

株式会社 三菱UFJ銀行
「サステナブルファイナンスの取組について」

弊行では、国内ではサステナブルビジネス部を中心に、海外においては各地域拠点が主体となって、グローバルにサステナブルファイナンスの推進を行っています。
推進にあたっては、お客様とのエンゲージメントを重視し、支援先のセクターや領域を限定せず、可能な限り幅広いお客様の支援を目指しており、国際的なガイドラインに準拠したグリーン/ソーシャル/サステナビリティローン、サステナビリティ・リンク・ローン、ポジティブ・インパクト・ファイナンス、トランジションファイナンスや、弊行Gr会社と共同開発したESG経営支援ローン等、お客様の目的・課題・取組状況に応じた幅広いラインナップを用意しています。同時に、外部格付機関からの認証の取得や、行内の知見の蓄積を通じ、提供するファイナンスの品質の維持・向上を心がけています。
近年、国際的に脱炭素社会実現に向けた活動が活発化しています。弊行は2021年にカーボンニュートラル宣言を発出しており、ファイナンスを通じた実体経済の脱炭素化実現に向け、お客様との対話を大事にし、引き続き積極的に活動して参ります。(圓尾哲也氏)


[寄稿]山本 真司 氏
一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会
代表理事
[寄稿]小野 祐文 氏
一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会
事務局長
[寄稿]圓尾 哲也 氏
一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会 理事
株式会社三菱UFJ銀行 ソリューション本部 サステナブルビジネス部 投資・事業推進室 室長
[寄稿]三島 和子 氏
一般社団法人サステナブルファイナンスプラットフォーム運営協会 理事
MS&ADインシュアランス グループホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 担当部長