本記事は、川島 睦保氏の著書『シニアが無理なく儲ける株投資の本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=Daniel / stock.adobe.com)

老後の資金対策の第一歩は健康であること

医療費については、「健康寿命」を伸ばすことで支出を減らすことが可能になる。

厚生労働省によると生涯医療費(日本人が一生のうちに使う平均医療費の推計、令和2年度、男女計)は2,700万円で、そのうち約6割(約1,600万円)が退職年齢の65歳以上に達してからの出費となっている。

しかし、私たちの多くは実際には公的医療保険に加入しているので、自己負担額はこの医療費のうち1~3割(個人の年齢や所得によって変化する)となる。そのため65歳以降にかかる医療費は160万~480万円が目安となる。

65歳以降も健康を維持し病院のお世話にならなければ、この分の医療費を大きく減らすことができる。

冒頭で紹介した65歳以上の高齢夫婦無職世帯の収入・支出のモデルケースでは、月当たり約1万5,000円の保健医療費が盛り込まれている。現在の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳(2019年時点)だが、夫婦ともに70歳までまったく病院のお世話にならなければ90万円(=1.5万円×12カ月×5年)、75歳までなら同180万円、さらに80歳なら270万円の出費を抑えることが可能だ。言い方を変えれば、健康であることによってこれだけのお金を〝稼いだ〟ことになる。

ただ現実問題としてかなりの高齢になるまで病院と無縁の生活を送ることができるかは怪しいところだが、心身ともに健康生活を送れるよう心がけることが、老後資金不足対策の第一歩であることは言うまでもない。

生活費の切り詰めには限界がある

このように医療費は努力次第で月当たり約1.5万円の節約が可能だが、それ以外の費目については生活の変化がすでにかなり織り込まれている。先に紹介した老後世帯の平均的な月当たり生活費約28万円の削減の「のり代」はほとんどないと考えるのが現実的だろう。

むしろこれからは、デフレからインフレへと時代の波がシフトする。現時点でも、ウクライナ戦争や中東情勢の緊張化で食費や光熱費、ガソリン代などが急騰している。いやがうえにも生活費は切り上がっていく。

ゆとりある老後生活の場合の月当たり生活費は約36万円だ。こちらは平均的な生活に比べれば、生活費を削減する「のり代」は多少あるかもしれない。しかし、それは「ゆとり」を我慢して、平均水準に近づけることでもあるから、削れるから大丈夫というものではないだろう。

本来はいろんな面で健康で豊かであるべき「人生の収穫期」に、財布の中身を気にしながら毎日を不安に過ごすのはあまりに寂しい。

結局、現実的な選択は、働き続けるか、資産運用するか、の二択しかない。

厚生労働省「国民生活基礎調査の概況」の直近データによると、年金等を受給している高齢世帯のなかで所得を年金収入だけに頼って生活している世帯の割合は年々低下している。2017年は52.2%と半数を占めていたが、19年は48.4%、22年は44.0%と低下をたどっている。年金収入だけでは、生活の質を支えられなくなっているのだろう。

多くの人が定年退職以降も、公的年金以外の収入源を見つけ出して、老後の生活費の足しにしている現実がうかがえる。

老後も働き続けて「老後をなくす」!?

資金不足対策としては、仕事で稼ぐ=死ぬまで月6万円稼げる仕事を現役時代に準備するということが考えられる。

平均的な老後生活の場合、仕事でひと月当たり6万円稼ぐことができれば、「月当たり不足額(約0万円)=生活費(28万円)-公的年金(22万円)-仕事の稼ぎ(6万円)」となって、不足額はゼロとなる。

これは「働き続ける」ことで「老後をなくす」作戦だ。

言葉遊びのようだが、公的年金のほかに月6万円の労働収入がずっと維持できれば、老後資金の不足を心配する必要がなくなる。

ところで65歳以降も働き続けるといっても、そんな都合の良い仕事や職場が簡単に見つかるのだろうか。「そんなのないから頭を悩ましているのだ」。お叱りの声が聞こえてきそうだ。

しかし「働き続ける」といっても、現役時代のように月給40万円や50 万円のフルタイムの仕事に就くわけではない。月に6万円を稼ぐ仕事ならハードルが下がる。

実際、多くの人が農業や運送業、施設警備や交通誘導、マンション清掃、販売業、接客業などで働いて、老後の資金の不足を補っている。

とくに警備や清掃は、シニア向け求人が多い。どちらも農作業と同じく屋外で立ったまま仕事をする時間が長く、体力の消耗が激しいが、体力に自信がある人なら挑戦する価値はある。

警備の仕事は、商業施設やオフィスビルなどの安全を守るのが目的だが、時には女性や子どものエスコートなどの仕事もある。仕事の内容はかなりハードだが、時給は悪くない。

ネットの広告を見ると、東京・神奈川エリアの交通誘導警備員の募集広告には「日給1万円~、夜勤1万2,500円~」と記されている。「勤務時間は8:00~17:00(1時間休憩)」。しかも3日間の研修があり、警備の仕事が初めての人も安心と記されている。仕事に就く前に3日間の研修に参加すれば2万円が支給される、という。

高齢になってからの警備員の仕事は肉体的・精神的にかなり過酷だが、この仕事を月に6日間だけやれば目標の6万円は稼げる。

スーパーやコンビニで時給1,000円(東京や神奈川など)のアルバイトをする場合、1日4時間×15日間働けば目標の6万円に到達する。夫婦2人でアルバイトすればそれぞれ7.5日間働くだけで済む。

シニアが無理なく儲ける株投資の本
川島 睦保(かわしま・むつほ)
1955年生まれ。1979年横浜国立大学経済学部卒業、東洋経済新報社入社。1991年から92年までフルブライト・プログラムでハーバード大学経済学部客員研究員。2000年『オール投資』編集長、2002年『週刊東洋経済』編集長、2009年東洋経済新報社取締役出版局長を経て、2017年に退社し、フリージャーナリスト、翻訳家となった。訳書にニコラス・レマン著『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体:エージェンシー理論の光と影』(日経BP 2021年)、ダレル・リグビー, サラ・エルク, スティーブ・ベレズ著『AX戦略:次世代型現場力の創造:巨大組織の進化形』(東洋経済新報社 2021年)などがある。
シニアが無理なく儲ける株投資の本
  1. 老後資金の心配をなくすための、現実的な選択肢とは?
  2. ゆとりある老後を送るために必要になる「資産運用」
  3. 高配当利回り狙いは、安全運航装置付きの投資戦法
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