目次
ダイバーシティ推進によって実現した働きやすい職場環境
ーー人的資本経営におけるこれまでの取り組みを教えてください。
当社は、ダイバーシティや働き方改革など、様々な取り組みを行ってきました。まずダイバーシティに関しては、2015年にダイバーシティを推進する専門組織を設置のうえ、本格的に取り組みを開始し、2022年には独立したダイバーシティ推進部を設立しました。
2015年当時は、長時間労働の削減が一番の課題でした。営業現場では、高い実績を上げるために長時間働くという考え方が根深く、お客様のために自分の時間を惜しまず働くという文化があったのです。しかし、これが社員の健康を損ねることもあり、半強制的な働き方改革が必要でした。様々な取り組みの一例として、職種・部署毎に例えば21時などにはパソコン上で仕事ができなくするため、パソコンの強制シャットダウンを導入するなど環境を変えました。こういった数々の取り組みを通じ、社員は仕事の工程を組み直すなど、効率的に業務を進められるようになり、結果的に長時間労働が減少しています。
加えて、組織風土改革の一環として「支店健全経営ランキング」という制度を全国の支店に導入しました。当制度は、成果主義が強い企業風土の中、支店運営において、営業実績や利益などの短期的な業績指標だけでなく、生産性や人材育成、労働環境などの中長期的な非財務指標も評価軸として数値化したものです。これを継続的に示し、現場に浸透させることで、新たな視点に基づく現場での組織マネジメントに変化が生まれました。結果として、長時間労働や生産性への考え方が徐々に変わり、エンゲージメントの向上にも繋がっています。
休日取得に関しては、本社主導で有給休暇の取得促進という方針が示されましたが、現場にはなかなか浸透せず、有給休暇取得が促進されなかったこともありました。しかし、当時の社長自ら音頭を取り、経営層の理解を得て、現場にダイバーシティ観点の目標を設定しました。有給取得がなかなか進まない現場には、経営層から直接、支店長・部門長を指導し、徐々に社員の意識改革と有給休暇取得が進んでいきました。そういった地道な取り組みを通じて、取り組み開始時は50%だった有給休暇取得率が今では80%を超える水準となりました。
これらの取り組みと併せて、育児・介護と仕事の両立支援制度を充実させ、浸透させていくことも重要です。男性の育休取得率はすでに119%(※)と高い数字を示しておりますが、単なる取得を促すだけではなく、現場の雰囲気づくりやマネジメントにも注力していこうと考えています。
※算出方法・・・「2023年育児休暇を取得した男性従業員数/2023年度に子が誕生した男性従業員数」
女性管理職比率と従業員エンゲージメントの向上に成功した理由とは
ーー人的資本経営において苦労した点と、乗り越えるために行った施策を教えてください。
長時間労働の削減にも苦労しましたが、女性の管理職比率向上にも苦労しました。
現在、当社における女性社員の活躍について環境整備はある程度できており、女性自身のキャリアに対する意識は徐々に変わってきています。一方で、ライフスタイルの違いから、管理職になりたくないという女性社員も一定数いる状況でした。そこで、女性活躍やエンゲージメントにフォーカスした取り組みをいくつか行っています。
当社では2021年から女性の管理職割合について、各職種を統括する部門にクオータ制で女性管理職数を設定し、資質のある女性社員を発掘して計画的に育成しています。結果として、2021年は4.9%だった女性管理職比率が今年の4月には6%台の着地となっています。
また、エンゲージメント調査のスコアの向上に関しても苦労しました。当社では、2021年から従来の従業員満足度調査(2015年導入)に替えてエンゲージメント調査を導入していますが、エンゲージメント向上策として、社員の期待値に対する現実の乖離を是正することに重点を置き、外部の専門家に介入してもらい、実際の状況を正確に把握したうえで対策を打っています。その結果、エンゲージメントスコアは徐々に改善し、現在は60.3(※)まで上がり、エンゲージメントが向上することで生産性が高い組織になりつつあると感じています。 ※外部機関調査による偏差値(2023年11月実施)
現場と本社のギャップを埋めるコミュニケーション
ーー取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響について教えてください。
長時間労働削減の取り組みについては、当時私も営業の現場にいたので、社員からの反発を直接感じました。しかし、それを受け止めたうえで労働時間の削減を行わなくてはいけません。そこで、パソコンのシャットダウン時間を厳守することや、業務をアウトソーシングするなどハード面から取り組むことで、社員の負担を軽減することができました。また、グループ会社に業務を移管することで、社員が今までの業務を時間内に終わらせられるようになりました。そういった現場でのハード・ソフト両面での様々な取り組みを通じ、社員の反発も徐々に解消されていったと思います。
また、人的資本経営を進めていく中では、現場と本社で重要視する視点の違いによる摩擦が大きな課題でした。現場は短期的な目線で物事を考えることが多いのに対し、本社は中長期的な視点で考える必要があります。この違いを解決するためには、お互いによく話し合い、工夫をしていく現場視点が重要です。そこで、現場と丁寧にコミュニケーションを取りながら、お互いのWin-Winをよく考えることで、徐々にソフト面も充実していったと思います。
多様性と個性を力に変える大東建託の人材育成ビジョンとは
ーー今後の展望と社員に対して期待することを教えてください。
私たち大東建託株式会社は、社員の多様性を大切にし、それぞれの個性を受け止めて会社の力に変えていきたいと考えています。しかし、現状は、制度設計や浸透が十分でない部分もあり、まだまだ改善の余地があると感じています。そして社員が成長することが、最終的には会社の成長に繋がり、ステークホルダーに対して高いクオリティのサービスを提供できると考えています。そのため、社員には自ら学び、成長してもらいたいと思っていますし、与えられた仕事をただこなすだけでなく、積極的に学んでもらう意識・行動が大切だと感じています。
今後は、社員が多様な仕事の領域にチャレンジできるよう、学びの環境を整え、能動的に動くことができる人材を育成していきたいと考えています。社員がしっかりと学び、次のステップに進むことができるキャリア形成の支援を進めていきます。
大東建託からステークホルダーの皆さまへのメッセージ
ーー ステークホルダーの皆さまへのメッセージをお願いします。
大東建託グループは、昨年50年目を迎えた会社です。これまで託されるという信頼を大切にしてきました。全国に数多くある賃貸住宅について、今後は防災や介護など様々な事業やサービスを横展開しながら繋いでいきたいと考えています。また、国内の少子高齢化が進む中で、大東建託グループとして地方創生に貢献していきたいと考えています。
ステークホルダーの皆さまには、「大東建託グループと繋がっていて良かった」と思える次の50年を築いていきたいと思っています。そのためには人(ヒト)が非常に重要です。ロボットやDXがある程度進んでも、それを創るのも使うのもすべてはヒトであり、ヒトが全ての源泉だと考えています。会社として、ヒトという人的資本を最大限伸ばし、活用していくために、今以上のヒトづくりに向けた仕組み作りや様々な部分の改善を進めていかなければならないと感じています。これからもさらに温度感を上げて人的資本経営の推進に取り組んでいきます。
- 氏名
- 田中良昌(たなか よしまさ)
- 社名
- 大東建託株式会社
- 役職
- 取締役 上席執行役員 業務本部長