特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業時からの事業変遷
――まずは御社の立ち上げに至ったきっかけや、創業期について教えてもらえますか。
ブロードマインド株式会社 代表取締役社長・伊藤 清(以下、社名・氏名略):
伊藤:私が保険業界でのキャリアをスタートしたのは、ソニー生命です。顧客のニーズを丁寧に聞き出し、それに基づいてプランを立てるソニー生命のやり方に、私はサービスとしての価値を感じていました。しかし、当然ながら他社にも優れた保険商品がありますが、立場上ご提案できるのは自社や関連会社の保険のみです。
このように当時は一社専属型の保険会社が主流でしたが、様々なメーカーの商品を比較しながら買うことができる「家電量販店のような形態を保険でも作りたい」と考えました。
さらに「保険会社を自ら立ち上げて、保険の価格破壊をしたい」とも考えていました。きっかけとなったのは、ロンドンのロイズとの出会いです。日本の保険会社で保険料が1万円する商品を、ロイズに再保険(保険会社が自社の事業リスクを回避するために加入する保険)をかけたら、2,000円まで下がりました。
※ロイズ:火災・新種・海上保険の様々な分野で保険・再保険を提供する保険市場・組合
つまり、簡単に「2,000円で仕入れて1万円で売る」という仕組みが存在していたのです。この仕組みを知ったことで、日本の保険料が非常に高いことに気付き、価格破壊を実現したいという強い思いが芽生えました。しかし、保険会社を立ち上げるには認可が必要であり、資金調達も困難です。そこで、まずは任意の共済事業を始めることにしました。これが、弊社を創設した原点となります。
※共済事業:組合員や会員が共同で出資し合い、リスクを分散して相互に助け合うための保険制度の一種
伊藤:たとえば、ある連合会の保険を担当していた損害保険会社が設定していた保険料は1,600円でした。しかし、ロイズに数理計算などを提示して再保険にかけたところ、保険料を200円~300円まで引き下げることができました。最終的には、事務費用や利益を加えて約600円で提供することが可能となったのです。この結果、連合会の保険に加入していた30万人が一気に当社の共済に移行しました。
もうひとつの事業では今では当たり前となった、色々な保険会社の情報を提供する「代理店事業」を行っていました。この2つが事業の柱だったわけです。
――その後は代理店事業にしぼられたということですが、どのような経緯があったのでしょうか?
伊藤:共済事業で認可を取得しなければならなくなったからです。
認可を受けると、再保険先に海外の保険会社を利用することができなくなるというルールが導入されました。その結果、ロイズでは200円~300円だった保険料が、日本の保険会社を再保険先とすることで約600円となり、価格破壊が不可能となりました。
この事態を受けて、一度保険会社を立ち上げるというアイデアを断念し、現在の事業に専念することに決めました。
新卒採用を拡大した仕組み
――人材にご注力されていると思いますが、新卒採用の取り組みについてお聞かせください。
伊藤:2011年から新卒採用をしています。
保険業界で新卒採用というのは顧客開拓や教育体制という点で非常にハードルが高く、うまくいくか懸念がありましたが、マーケットを会社で用意したことや安定した生活が送れるように給与制にして、コンサルティングに集中ができる環境を用意した結果、うまくいきました。特に帰属意識が高くなる点は新卒採用のメリットと考えています。現在は8割近くが新卒採用です。また中途採用の場合も未経験者を積極的に採用するようにしています。
私も今でも社員から案件相談を受けたり、一緒に同行したりすることがあります。教えあう文化が根付いているので、離職率が低いです。3年以内の離職率が業界では80%~90%のところ、我々は大体10%前後です。
良い商材や手法を共有しあえる、質問しやすい、風通しが良い社風が定着していることが弊社の文化といえます。
――そのような企業文化を築くためには、何が重要になるのでしょうか。
伊藤:採用担当者が弊社の社風や文化を十分に理解していること、コンサルの経験を十分に積んでいること、採用担当者以外も採用に協力的であることが大事だと考えています。
現在弊社の採用責任者は、2011年に新卒として採用した社員です。その社員を含む採用担当の4人全員がコンサルタント経験がありますす。
そして、採用フローにおいてさまざまな役職、部署の社員が協力的です。弊社では学生が入社前に、色々な部署の社員と話す機会を設けています。さまざまなポジションの社員との対話を通して、社風など、明確なイメージをもってもらえるようです。
上場を目指した背景
――次に、上場を目指した背景について教えてください。
伊藤:今回の上場の大きなきっかけは、日本人の金融リテラシーをスピード感をもって上げるには上場する必要があると考えたことです。
高齢化社会において、長生きするためには、しっかりとした金融リテラシーを身につける必要があります。SNS詐欺や金融詐欺に遭う人が多い現状を鑑み、スピード感を持って日本人の金融リテラシーを向上させるには、もっと多くの仲間が必要だと感じたことが上場の大きな動機となりました。
上場後は提携先との連携もスムーズになりました。新卒採用も増加し、以前は15人前後だったのが、昨年は35人、今年も40人、そして来年も40人の採用を予定しています。
今後の事業戦略や展望
――事業戦略や今後の展望についてもお聞かせください。
伊藤:戦略や展望としてあるのは金融教育とDX系システムの拡散です。
弊社には、未経験の新卒社員を2年から3年で同業他社と比べて高い生産性を発揮できるように育成するノウハウを持っています。
この育成ノウハウを活用した金融教育モデルも動き始めています。金融教育には2つのアプローチがあり、ひとつは一般向け、もうひとつはプロ向けです。
一般向けでは、伴走型の金融教育プログラムである「ブロっこり」を提供しています。企業に福利厚生として導入いただくサービスであり、SCSKさんや日清食品グループさんなどに導入していただいています。
プロ向けでは、ライフプランシミュレーターである「マネパス」と、弊社が独自に開発したオンライン面談システム「ブロードトーク」という商材を活用したサービスの展開が始まっています。
マネパスは、保険や投資、資産形成に関するプランを一括で提供できる仕組みになっており、実際に弊社の新卒社員もこれを活用して生産性を向上させています。また、ブロードトークを利用すれば、対面では1日3件しか対応できなかったものが、6件から7件にまで面談数を効率化できます。コロナが流行している最中に大いに活躍しました。
これは、弊社ならではのDX系システムと教育を組み合わせて広げていく手法です。人海戦術ではないため、利益率が非常に高いことが特徴です。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
――今後のファイナンスの計画についてもお聞かせください。
伊藤:先ほどお話しした「マネパス」や「ブロードトーク」などのDX系や、人材、M&A、に投資していく予定です。その中でも、M&Aや人材を主軸に投資していきます。
M&Aにおいては、ライフイベントに関わる事業者を視野に投資を考えています。たとえば、結婚相談所の場合、結婚後に貯蓄や保険について考えるようになります。実際に、提携先にブライダル事業者があり、お客様が結婚されるとお金に関する相談が来る仕組みが整っています。
また、最近では子育てに関する情報を提供するIT系の会社も存在します。このような事業者とのM&Aにおいて、良い話があれば積極的に取り組んでいきたいと考えています。
人材の中での新卒採用についても現在のペースで進め、数年後には50人、60人と採用する可能性があります。今後も人材投資を重視していく所存です。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
最後にZUU onlineユーザーに向けて一言いただけますか。
伊藤:保険業界と言えば、一般的に「代理店」とイメージを持たれることが多いかと思いますが、弊社は金融教育も提供していて、単なる代理店ではありません。
弊社は生命保険や損害保険、さらには証券や銀行、不動産など、幅広い金融サービスを提供しているため、金融サービス業の中で、新しい業態だと考えています。
今後も、急激な株価の上昇は見込めないかもしれませんが、着実に売上と利益を伸ばし、人材育成やM&Aにも積極的に取り組んでいきます。会社として、拡大路線にありますし、今後の増配にも期待していただきたいです。
ポートフォリオのひとつとして弊社を考えていただければ非常にありがたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。
- 氏名
- 伊藤 清(いとう きよし)
- 社名
- ブロードマインド株式会社
- 役職
- 代表取締役社長
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