総括
FX「何故、超巨額円買い介入は効かなかったのか。需給から分析」
ドル円=155-160、ユーロ円=168-173、ユーロドル=1.06-1.11
通貨ごとの注目ポイント
*円「通貨最下位(最下位)、株価3位(3位)、何故、超巨額円買い介入は効かなかったのか。介入なければどうなるのか」
(何故、超巨額円買い介入は効かなかったのか)
4月下旬から5月下旬で9.8兆円という超巨額円買い介入を行ったが、年間では主要12通貨で最弱通貨のままだ。今年の1-4月は2.5兆円の貿易赤字だ。ただ新NISAを含む外貨投信残高は1-4月は12.4兆円増加している。為替の円安で資産増加している部分もあるが約半分は純粋な円売りだろう。これにさらに、外貨債券、外国株、外貨預金、FXの長期的円キャリーなども円売り要因。それが9.8兆円という巨額の円買い介入に繋がった。超巨額円買い介入だったが、需給を埋め合わせるという意味では、合理的な数字であった。
(3人の鈴木大臣のせめぎあい、政策に一貫性なし)
鈴木俊一氏は内閣府特命金融担当大臣(新NISA)、財務大臣(介入)、デフレ脱却担当大臣の3つの職を兼ねている。新NISAでは海外投資が急増し円売り、それを抑えるために円買い介入行っている。
また財務省はインフレを抑制するために、日銀に暗に利上げを要求しているが、政府は「デフレ完全脱却」実現へ骨太方針の骨子案を近々公表する予定であり、これまで景気を支えてきた「円安・超金融緩和政策」を急には変更できないだろう。それらにすべて絡んでいるのが鈴木氏だ。今後の舵取りは難しい。
(日銀=利上げは慎重)
日銀の安達審議委員は「円安が長期化して想定以上に物価が上昇する場合には追加の利上げが必要になるという考えを示した一方、拙速な利上げは絶対に避けなければならない」と述べた。
6月にはガソリン補助金が停止され、夏以降は、4万円減税や賃上げが家計に現金として入金され、日銀が示す基調的なインフレが2%を超える可能性も出てくるだろう。ただ、同時に1-3月期にマイナス成長となった景気が回復しなければならない。
(10日ごとのドル円の動きのデータ)
昨年11月から過去の10日ごとのドル円のデータから、今後の10日ごとの動きを予測している。強くデータがブレた時だけ取り上げているが、11月から取り上げた11回すべてエータ通りとなっている。5月は「下げ」、「上げ」「上げ」であった。 6月は上中旬はクセがない。下旬だけがドル上げだ。
*米ドル「通貨2位(3位)、株価(NYダウ)13位(112位)、5月のドルは介入で弱かった(来週の消費者物価、FOMCを前に今週は雇用とISM)」
(5月の米ドルは日銀の円買い介入もあり弱かった)
5月の米ドルは日銀の円買い介入もあり12通貨中11位と弱かった(最弱は米ドル主軸のバスケット制をとる人民元)。ただ円との差は僅か0.27%、円は12通貨中8位。米ドルは年間では2位と強い。
株価はダウが20市場中で13位、ナスダックが4位。10年国債利回りは4.5%で先週末の4.46%から小幅上昇。
(今週は雇用統計とISM製造業・非製造業の発表)
来週の5月消費者物価、FOMCを前に今週は5月雇用統計とISM製造業・非製造業の発表がある。米国市場は先週もマチマチであった。5月のCB消費者信頼感指数は102.0と、予想に反し4カ月ぶりに上昇。一方、
1QのGDP改定値は年率換算で前期比1.3%増と、速報値の1.6%増から下方修正された。FRB当局者が長期の成長率とみる1.8%を下回る結果となった。FRBの政策が効果を上げていることを示唆しているが、インフレの鎮静化傾向が続くかどうかは依然として不透明だ。 個人消費支出(PCE)指数は3.3%上昇と、速報値の3.4%上昇から下方修正された。
(米国はドルの強さにノーテンキ)
イエレン財務長官は日本の介入について不快感を示し、G7声明でも特に「介入前のコミュニケーションを明確化すること」をクローズアップさせた。ただ、ドル高についてはベージュブックなどでは、製造業も、観光業もドル高懸念を示していない。そもそもベージュブックに「ドル」という単語が書かれていない。ドルは対円では強いが、他の通貨に対しては、同等、あるいは小幅のドル高だからだ。
米国側からドル相場の是正に動く可能性は少ない。円が弱いのは円の問題だ。
(トランプ氏有罪)
トランプ前米大統領に有罪評決が下ったことを受け、共和党有権者のうち同氏に投票する可能性が低くなったとする人が10%に上った。トランプ氏は有罪判決を受けた初の元米大統領となったが、為替市場から時間外の株式取引まで、ほとんどの金融資産は基本的に安定していた。米国がエキセントリックに動く可能性は低下したのだろうが、まだ先は長い。
*ユーロ「通貨5位(6位)、株価6位(7位)DAX)、ECB理事会は利下げか、焦点は四半期経済予測」
(ユーロは強くもなく弱くもなく)
ユーロは年間で5位とまずまず、対ドルでも年初来1.71%安で大差ではない。為替相場としてはドルもユーロも問題はないだろう。株価は独DAXが20市場中6位の年初来10.42%高。独10年国債は2.66%で前週末の2.58%から、利下げ観測はあるが小幅上昇している。
(今週ECB理事会は利下げか、焦点は四半期経済予測)
センテノ・ポルトガル中銀総裁は、ユーロ圏のインフレは制御されており、金融政策の緩和プロセスは「まもなく開始される」と語った。クノット・オランダ中銀総裁は、インフレ率の低下を踏まえ、ECBは段階的に金利を引き下げることが可能との見解を示した。また、今後の利下げについては新たな四半期経済予測が発表される理事会で決定される可能性があると述べた。
3月の予測では今年3-4回の利下げが適切になる可能性が示唆されていたが、賃金の伸びは依然として高く、生産性の伸びは弱いため、6月6日に発表される経済予測で同様の金利の道筋が示されるかどうかは分からないと主張。ただ、ディスインフレが継続し、見通しが改善するにつれて、ECBは物価上昇率が2%目標に戻りつつあるとますます自信を深めるだろうと語った。
ECBのチーフエコノミストレーン氏は、「6月6日の会合での行動の見通しについては大きなサプライズがない限り、現時点では最高レベルの制限を解除する十分な理由があると考えている」と述べた。
(ユーロ圏インフレ、5月は2.6%に伸び加速)
5月のユーロ圏消費者物価は前年同月比2.6%上昇と、予想値の2.5%上昇を上回った。前月は2.4%上昇。食品やエネルギーなど変動の激しい項目を除くコアインフレ率は5月に2.9%に加速した。
インフレ率は目標の2%へ低下しつつあるが、当局者は金融政策のたどる軌道は平坦ではないと慎重な見方を示している。短期金融市場は今週の0.25%利下げを織り込むが、それ以降の利下げ見通しは引き下げた。トレーダーが想定する年内の利下げは計2回。3回利下げの確率は25%となっている。
(逆南北問題)
欧州委員会の最新経済予測によると、ユーロ圏経済は今年平均0.8%成長し、昨年のわずか0.4%の成長率から改善する見通し。成長は主に南ヨーロッパ諸国の好調な経済実績によって牽引される。今年のポルトガル経済は1.7%、スペインは2.1%、ギリシャは2.2%の成長が見込まれており、債務危機によるこれら諸国の過去の経済停滞から逆転することが見込まれている。欧州経済の牽引役であるドイツは昨年から景気後退の瀬戸際にあり、もう一つの経済大国であるフランスも低迷している。
(日本とユーロ圏のエネルギー依存度)
コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻による原油高で日本の貿易収支は赤字となったが、ユーロ圏は黒字を続けている。その大きな要因はエネルギーの海外依存度がユーロ圏は10%台前半であり、日本は20%台後半であることによる。
*ポンド「通貨首位(2位)、株価8位(9位)、ポンドが年間最強通貨へ、IMFが成長見通し引き上げ」
(ポンドが年間首位に立つ)
ポンドが僅差ながらも年間首位に立った。4月消費者物価が予想を上回り6月利下げ観測が後退したことでポンドドルが3週連続で上昇した。首位争いをしていた米ドルは日銀円買い介入で下落、メキシコペソは景気減速で下落し、その間隙を突いた。FT株価指数も8位で年初来7.01%高、10年国債は4.33%
(ベイリー中銀総裁)
ベイリー中銀総裁は、インフレ率は低下を続けている一方で、サービス価格や労働市場などインフレの持続性を示す主な指標は緩まってはきているものの引き続き高い水準にあるとした。その上で、持続的なインフレの圧力と経済の強靭性を示す指標を継続してモニタリングするとした。
インフレ率についてはエネルギー価格による影響もあり、2024年後半にインフレ率はやや上昇するとしているが、その影響は以前の予測よりも早期に収まるとして2025年、2026年の見通しについても前回予測からも引き下げている。GDPについては、2024年第1四半期に0.4%、第2四半期に0.2%の成長を見込むとした。
(IMFの勧告)
IMFは、英経済に関する年次報告書を公表した。政府は債務目標を達成できないとの見方を示し、今年の総選挙前に減税すべきではないと訴えた。将来的に増税が必要になる可能性が高いとしている。
2024年の経済成長率は0.7%とし、4月時点の0.5%から引き上げた。今年初めの好調な成長を反映した。イングランド銀行(英中央銀行)は今年2回か3回、0.25%ずつ金利を引き下げるべきとした。ただインフレ率が持続的に目標に戻るのは25年初頭と予想した。英国は23年後半に短期間の浅いリセッションに陥った後、ソフトランディングに向かうとの見通しを示した。
ハント財務相は経済見通しが上方修正されたことを受けて、英経済が好転したとの見方にIMFも同意したと述べた。「将来に関する不当な悲観論を払拭すべき時だ」と表明した。
しかしIMFは英国の経済成長は引き続き弱いままで、債務は増加傾向にあると指摘。英中銀の債券購入プログラムを除いた公的部門の純債務は、2028/29年度にGDPの97%に達すると予想した。
(英企業経営者100人以上、労働党に支持表明)
7月4日の英総選挙を控え、100人以上の企業経営者らが野党・労働党への支持を表明し、経済の足を引っ張っている不安定と停滞に終止符を打つべきだと訴えた。大企業は与党・保守党を支持する傾向が強いが、労働党のリーブス影の財務相は、労働党に経済運営を任せられると企業経営者に何年もかけて支持を訴えてきた。労働党への支持を表明した書簡には労働党は変化しており、国の将来を形作るチャンスを与えるべきだと主張している。書簡は「英国財界のリーダーであり投資家であるわれわれは、今こそ変化が必要だと信じている」とし「過去10年の停滞を断ち切るには新たな展望が直ちに必要だ」と述べた。
スターマー党首率いる労働党は、世論調査で保守党に対し1年近くにわたり約20ポイントのリードを維持している。
*豪ドル「通貨6位(7位)、株価15位(16位)、豪ドル円は5か月連続上昇、利上げ観測も出て月間2位と好調だがインフレ懸念に成長が見合わず」
(5月は月間2位と強かった)
5月の豪ドルは対ドルで強く2.8%高、対円では2.33%高で5か月連続月足陽線となった。5月は月間2位、年間では6位。株価ASX30は金利高止まりで年初来1.8%高と冴えない。10年国債は4.4%で前週末の4.31%から小幅上昇した。
(消費者物価が上昇、利上げ観測も出始めて豪ドル上昇)
4月の消費者物価(CPI)は前年比3.6%と3月の3.5%から予想外に上昇し、5カ月ぶりの高水準となった。
ガソリン価格上昇や医療費、休暇関連コストの増加が一因。予想は3.4%上昇。RBAの次の一手が利上げになるリスクが高まった。コアインフレ率の指標として注目されるCPIの中銀トリム平均値も前年比4.1%上昇と前月の4.0%上昇から加速した。変動の大きい品目と旅行を除いたCPI上昇率は前年比4.1%で、前月から変わらずだった。
(次の焦点はGDP)
今週は1Q・GDPの発表がある。予想は前期比0.2%増、前年比1.2%増。前期はそれぞれ0.2%増、1.5%増。政府の2024年度の国内総生産(GDP)成長率の予想は2.0%で、12月の見通しの2.25%から下方修正された。世界的に経済の見通しが不透明となっていることや、やや軟化しながらも高止まりするインフレ、高い金利水準などが景気の足を引っ張っていると説明した。
(4月小売売上高冴えず)
4月の小売売上高は前月比0.1%増。予想の0.2%に届かなかった。高水準の借り入れコストと家賃の上昇に直面する消費者は慎重な姿勢を崩していない。慎重な消費者が必需品以外の裁量消費を減らしているため、小売売上高は年初から横ばい傾向にあると指摘。
*NZドル「通貨9位(9位)、株価16位(18位)、今月最強。インフレ懸念強いが景気は弱い」
5月は豪ドルとともに強く、NZドルは月間首位となった。豪と同じく利上げ観測があった。5月は対ドルで4.17%高、対円で3.95%高。巨額円買い介入を実施した円よりもはるかに強かった。ただ高金利もあり株価は弱くNZ50指数は年初来0.82%高、10年国債は4.84%でOECD諸国では高い。
(オア中銀総裁、インフレ懸念強まる)
オア中銀総裁は、インフレは鈍化しているものの、国内のインフレ要因が依然低下の動きを示していないと失望を表した。
中銀は日、政策金利を5.5%に据え置いた。オア総裁は保険、住居費、地方自治体の費用など、特定の経済部門でインフレの高止まりが顕著になっていると指摘。「消費者物価の大部分で大幅な進展が見られたが、経済部門によってはインフレ鈍化により長い時間がかかるのが常だ」と述べた。また、政府支出は減少しているものの、潜在国内総生産(GDP)の減少ペースが加速しており、ディスインフレの基調は2月より弱まっていると述べた。
(住宅ローンの所得倍率規制導入)
NZ中銀は住宅ローンが所得の何倍かに当たる所得倍率(DTI)に基づき銀行の融資を制限する措置を設けたと発表した。債務が所得の6倍を超えている持ち家購入者に対する融資は、銀行の融資残高の20%を上限とし、7倍を超えている場合は5%を上限とした。同時に、ローン資産価値比率(LVR)に基づく融資規制を緩和する。LVRは、銀行の融資額とその融資を使って取得する不動産評価額の比率を示す指標。
ホークスビー副総裁はDTIとLVRの両規制を適用することで適切にリスクに対応すると同時に、金融システムの全体的な強靭性を維持あるいは強化できると述べた。
(経済指標は弱い、企業信頼感、5月は低下)
5月の企業信頼感は低下した。今後1年で景気が改善すると回答した企業は差し引き11.2%で、前月の14.9%から低下した。向こう1年の自社事業の成長を予想した企業は差し引き11.8%で、前月の14.3%から減った。