この記事は2024年8月23日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「金利上昇懸念が企業活動に悪影響を及ぼす可能性」を一部編集し、転載したものです。
(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」)
欧米を中心として世界的に金利上昇圧力が強まるなか、いよいよ日本にも「金利のある世界」が到来し始めている。今年3月、日本銀行は2016年から実施していたマイナス金利政策の解除と長短金利操作付き量的・質的金融緩和の終了を決定し、7月の金融政策決定会合で追加利上げに踏み切った。これにより、短期金利(無担保コール翌日物金利)は小幅ながらプラス圏まで引き上げられ、長期金利の上昇にも拍車が掛かっている。
こうした日銀の金融政策の正常化で特に懸念されるのが、企業の財務面での悪化を通じた投資活動への負の影響である。しかし、企業の資金繰り状況を見ると、日銀短観の資金繰り判断DIは引き続き低水準で推移するなど、現時点で財務面に悪化の兆しは確認できない(図表)。
金融機関による貸出金利は上昇傾向に転じているものの、24年1~6月期における国内銀行の新規の貸出約定平均金利(企業向け以外も含む)は、前年差で0.08%ポイントの小幅上昇にとどまるなど、そのペースは緩やかである。これに加え、企業業績が順調に推移していることも、目立った悪影響が見られない要因といえる。
もっとも、金利の上昇幅が緩やかであるとはいえ、長らく低金利環境が続いてきた日本において、金利のある世界の到来は企業を取り巻く環境の大きな変化であることは間違いない。実際、金利が上昇していると感じる企業は増えており、資金繰りなどに支障がなくとも、心理的な面で企業の投資活動に悪影響を及ぼす可能性はある。
日銀短観の借入金利水準判断DIは、リーマンショック以降、長らくゼロ近傍で横ばいの推移が続いた。だが、物価高で世界的に金利上昇圧力が強まった22年ごろに上昇傾向に転じ、足元にかけて一段と数値が高まっている。直近24年6月調査における借入金利水準判断DIは、07年9月調査以来の歴史的な高さに到達しており、金利上昇を実感する企業は相当数に上る。
企業規模による明確な差は見られないものの、中小企業でゼロゼロ融資の返済が始まっていることが、金利上昇の実感につながっている可能性もある。今後、金利上昇への警戒感が投資マインドの低下として表れることも想定される。それにより、設備投資などの前向きな企業の投資活動が抑制されるリスクに対しては十分に注意する必要がある。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員/藤田 隼平
週刊金融財政事情 2024年8月27日号