新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
創業までの経緯について
—— どういった経緯や背景があって会社を設立されたのかお伺いしてもよろしいでしょうか?
株式会社 ZEエナジー 代表取締役社長・松下 康平氏(以下、社名・氏名略) 私は中高生の頃からずっと、環境問題について課題感を持っていました。30年ほど前は、環境問題に取り組んでいる企業というのはほとんどありませんでした。企業のほとんどは、環境問題に取り組むとコストが上がって採算が取れないため、表向きだけやっているという感じでした。
そこで、大学在学時は、私が代表を務めていた起業家サークルの仲間と共に、「ゼロエミッション」を起業しました。故郷である富山で「炭化装置」の開発を始めました。炭化装置とは廃棄物を熱分解、同時に二酸化炭素排出を低減して炭を生み出すシステムです。地球温暖化問題の解決を可能とし、また、炭を再利用可能な資源として活用できることに利点を感じたことから、この開発を主軸にしてきました。炭は土壌や水の浄化作用もあり、また脱臭効果もあります。地球環境問題の中でも世界のゴミ問題を解決できるのは炭であると考え、日々様々な有機物を炭化し、実験を繰り返しました。
それからおよそ15年ほど環境問題に向き合い続け次の事業を立ち上げました。炭化装置の開発に取り組み、炭化からガス化を経験、そこから更に進化させ発電というエネルギーに置き換えていくところまで踏み込んだ事業展開を実現するため、「ZEエナジー」を2008年に設立しました。
現在「ZEエナジー」では、炭化装置、ガス化装置、そこから生み出される木質バイオマス発電装置の運用をして、環境問題、エネルギー問題、食糧問題について、国内外の地方自治体、現地の政府との連携により、資源的、環境的、経済的、文化的な側面から地産地消モデルを普及させることに取り組んでいます。例えば、過疎化地域に弊社の炭化装置があることによって地域から出る間伐材、地域内で出るゴミを炭化ガス化することによって電気が生まれたり、または炭にすることでその地域の農業を活性化したり、地域内で出てきたものを地域内で消費することで更なるエネルギーを生むという取り組みをしています。約30年の確固たる技術を基に、過疎地域の新たな雇用創出に貢献し、最終的には地産地消の発電で得られる災害に強い日本、地域を作ろうと活動しています。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— ここまで成長を実現できたと思われる、1番の秘訣やブレイクスルーの転換点となったポイントを教えてください。
松下 私がずっと取り組んできた炭化装置という分野は、長らくニッチな産業でした。当初はゴミを炭に変えてリサイクルし、土壌改良剤として食品工場や廃棄物中間処理業者に装置売りを提案していました。
しかし、ここ数年で政府が脱炭素政策を進める中、バイオマス発電の動きが活発化し、炭化装置メーカーが注目されるようになりました。そんな中で、30年以上炭化装置を販売してきた会社は世の中になく、当社の過去の実績と経験値がクローズアップされ、大手企業が私たちのシステムを見直すようになりました。そして一緒に組んで事業を進めようという話がここ数年でどんどん舞い込むようになりました。これが1つのブレイクスルーになったと思います。
—— それは大手企業との共同出資の形で進められているのですか?
松下 地元の企業や廃棄物処理コストがかかっている会社に共同で出資してもらい、私たちが炭を売って儲けた利益の中から彼らに配当を出すというビジネスモデルです。これにより、廃棄物処理コストがかかっていたものが原材料に変わり、配当が出るようになります。
—— 素晴らしいビジネスですね。それ以前は地元の企業とのお付き合いが中心だったのでしょうか?
松下 それ以前は、地元の建設会社や産業廃棄物処理会社、食品工場向けに装置を提案し、出てきた炭を商品化して流通させる取り組みをしていました。しかし、炭の商品化や設備の導入には時間がかかり、収益性もそれほど良くはありませんでした。現在は、大量の炭を作って石炭の代わりに販売するモデルになっており、炭のニーズが全く違っています。
—— 炭化装置製造のトップランナーとして、競合は存在しない形になっているのでしょうか?
松下 そうですね。このビジネスモデルを始めたのは弊社で、ビジネスモデル特許も事前に押さえて出願しています。そのため他社は同じやり方では真似はできません。参入障壁が大きい市場であるといえます。
—— 企業規模や売上規模的にはどれぐらいのフェーズなのですか?
松下 前期の売上で5億1000万円で、今期はまだ売上が確定していないのですが、だいたい6億円ぐらいです。来期の計画で言うと13億円、その次が70億円を見込んでいます。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営を判断する上で、特に重視してきたポイントがあればお伺いできればと思っております。
松下 まず、我々がやってきたことというのは、お客様のニーズに合わせてものを作っていくというやり方を今までしてきています。技術があって、その技術を世に広めるという考え方よりも、むしろお客様のニーズに合わせて、うちのある技術をうまく活用してどういうものが提供できるのかという視点で物事を考えてきました。
なぜなら、いくら素晴らしい技術があっても高すぎるものであれば当然売れませんし、お客様に受け入れられません。特に我々は今、東南アジアなど海外にも進出していますが、やはり日本製品は高すぎるため誰も買えないというのが、東南アジアのいろんな国々の方たちの本音です。しかも今、技術的にも日本は昔ほど優位には立っていないとも言われている時代ですから、やはり世の中のニーズに合わせたものが作れない会社は淘汰されていくということを、危機意識として持っています。
—— お客様を第一にビジネスを展開されてきたんですね。そのお客様の声を大事にしていたことや、実際にやっていたことはありますか?
松下 実際に現地に行ってお客様からの相談を受けながら、具体的な取り組みやコストをヒアリングし、どういうものが提案できるのかということを打ち合わせし続けてきました。
—— そういう営業活動は社長ご自身でやられることが多いのですか?
松下 当社は営業という感覚ではなく、既製品をマーケティングしながら売る発想でもなく、逆にお客様のニーズや世の中のニーズに合わせて、どういうものを生み出していったらいいのかという発想でものを作ってきています。そのフロントに立って先方のニーズを引き出すのは私自身が行ってきましたが、毎回開発になるとコストが合わないことがよくありました。しかし、マーケット規模が大きくなってきたため、一つのものを開発すると、それをパターン化して広げることができる環境になってきました。
事業拡大の未来構想
—— 今後の未来展望についてお聞かせいただけますか?例えば、いずれ上場を目指すのでしょうか?また、新規事業にも参入していきたいという意向があるのでしょうか?
松下 現在取り組んでいるビジネスモデルは、国策に合致していると考えています。最近、日本政府が石炭の使用をやめ、新しいインフラに移行する方針を立てました。しかし、製鉄会社などは現実的にすぐに設備を変えることができません。そこで、私たちは「バイオマスカーボン」という石炭の代わりになるものを提案しています。これは、もともとバイオマス廃棄物だったものを炭にして利用するビジネスモデルです。この話は、経済産業省、環境省、農林水産省などにも伝えています。
政府の方針にも、「バイオマスカーボン」の取り組みが加わると思っています。ただ、ベンチャー企業が一生懸命頑張っても、普及度合いやスピード感が足りないと考えています。そこで、私たちは2029年に上場を目指しており、資金調達ができる環境を整えながら、既存の大手企業と連携して一気に拡大できるロジックを準備しています。そうしないと、2030年や2050年の石炭ゼロの方針に間に合わないのです。
私たちは政府や地方自治体と連携しながら、上場し、大手企業との提携も進めながら、このビジネスモデルを世の中に広めていきたいと考えています。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZEエナジーは近い将来でのIPOを目指すとのことでしたが、これからの展望や投資家に向けての注目ポイントをお聞かせいただけますか?
松下 当社が実施しているこのビジネスモデルは一見古くさいと感じるかもしれませんが、視点を変えると“新しいエネルギーの革命”だと捉えることができます。昔からの古い技術を現代の技術に置き換え、工業的に大量生産できる環境を整えることで、新たなインフラを構築していると考えています。
それには多額の資金が必要です。建設にはお金が必要ですし、銀行の協力も必要になってきます。投資家の方々にも、この新しいモデルを推進していくための支援をいただけるとありがたいと考えています。
—— 今後の活躍を期待しております。本日はお時間いただきありがとうございました。
- 氏名
- 松下 康平(まつした こうへい)
- 社名
- 株式会社ZEエナジー
- 役職
- 代表取締役社長