本記事は、岡野隆宏氏の著書『管理職の手帳 BASIC100』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
虫の目・鳥の目・魚の目で情報をつかむ
組織の中核を担う管理職は、虫の目・鳥の目・魚の目で情報を判断し、情報分析でもリーダーシップを発揮することが求められています。
虫の目とは、昆虫の複眼のように様々な角度から物事を細かく検証することで、物事の細部を観察し検証するには虫の目が必要ということです。
「質の高さは細部に宿る」という言葉がありますが、これは詳細をつかむ重要性を表しており、高い品質には物事を分析する力として虫の目は欠かせません。
鳥の目は、物事を俯瞰的に捉えることで、いま、何が重要か、何を優先すべきか、できることは何か、といったことを総合的に把握することを指します。
森の中にいれば木、花、草をそれぞれ細かく確認できますが森の全体像はつかめません。
ですから、鳥の目で全体の状況をつかむことも情報分析では重要です。
未来を考える時、時代や世の中の流れを感度よく察知する必要があります。魚の目とは見えないものを見る力です。
魚は潮の流れを読みながら海を泳ぐと言われることから、物事の変化や環境の変化、過程、トレンドなど目には見えづらいものをつかむセンスを魚の目といいます。
社会変化が生じ、技術革新が起こり、産業文化が発展すると、今日の正解も数年後には的外れになっているかもしれません。
未来を分析し、流れに取り残されないためにはますます魚の目が重要となってきます。
SNSの発展拡大により、質を問わず様々な情報が溢れています。中にはフェイクニュースや極めてクオリティの低い情報も氾濫していますが、その中には世間に広く拡散しているものも少なからず存在します。
したがって私たちビジネスパーソンは、組織において責任ある立場に上がるほど、物事の全体を捉えた本質的な情報リテラシーが求められます。
- POINT
- 情報を把握し先取りするためには3つのスキルが要る。情報の詳細な分析と大局的な観察、それに流れを読むセンスだ。これらに必要なスキルを、ビジネスシーンでは言葉を換えて「虫の目」「鳥の目」「魚の目」と言っている。
現状を疑い、未来の問題の対策をとる
管理職に必要なものを挙げろと言われれば、何といっても日々発生する問題を解決する手がかりとなる情報だと答えたくなります。しかし問題解決に最も重要なことは、解決のための情報よりも、何が問題なのかを正確に把握することにあります。
この正確に問題の本質を把握するために必要なのが問題意識です。
ところが、管理職でもこの問題意識が希薄、あるいは欠落している状態の人が時折見受けられます。
問題意識とは、先を見越し「これはよくない、このままではマズい」といった未来の事象に対する危機感と言えます。それが取り越し苦労で済むのならばよいのですが、未来に対する危機感がないために問題が発生し、ロスやクレームなどの対応に追われるケースは枚挙にいとまがありません。
特に企業活動に関する問題は、往々にして水面下に潜んでいることが多いため、認識しにくい特徴があります。
問題というものは、当事者が事象に対して「これは問題だ」と認識しない限りは存在しません。ですから、問題を見つけるために「自分が解決者である」という当事者意識は不可欠です。そして物事の本質をつかむ力が求められます。
昨今は「クリティカル・シンキング」という思考法が広まっており、よい意味であえて疑うことの重要性が唱えられています。
現状をありのままに受け入れる素直さは大切ですが、一方で「本当にこれでよいのだろうか」と物事を批判的に捉え、その中に未来の問題を見ようとする意識が、問題を発見する力の強化へつながります。
問題を正しく認識できなければ、回避できるはずの問題が実際に発生する、あるいは誤った解決策が打ち出されてしまうといった状況に陥りかねません。
- POINT
- 現下の問題に対処するだけなら問題対応力だけで十分だ。しかし見えない問題、将来起こり得る問題について事前に対策するためには、問題意識を持って取り組まなければいけない。未来を担う管理職にとって問題意識は不可欠だ。
環境適応を促進する
「VUCA(ブーカ)」という言葉が、ビジネスの世界で使われるようになったのは2010年代とされています。
VUCAとは「Volatility=変動性」、「Uncertainty=不確実性」、「Complexity=複雑性」、「Ambiguity=曖昧性」の頭文字で、予測が難しく、変化が激しい社会、不安定な経済情勢という意味です。
AI技術の進歩、ロシアのウクライナ侵攻、ビジネスのグローバル化、多様化する価値観、社会構造の変化などがVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の典型的な例でしょう。
外部環境は目まぐるしく変化し続けていますし、その速度は過去にないスピードです。
そして、この流れはさらに加速化すると見られています。
私たちビジネスパーソンは、常に外部環境に適応していかなければならない宿命にあります。
そのため、いま注目されているのが「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」です。
ダイナミック・ケイパビリティは、将来環境を予測して自ら変化し、競争力を維持する能力で、いわば「正しいことを行う力」を指しています。
ダイナミック・ケイパビリティは「センシング=変化を察知し、新たな機会や脅威を正しく認識する力」、「シージング=既存の経営資源を応用し新たな機会に再利用する力」、「トランスフォーミング=競争力強化のために組織を再編成し変化させる力」の3要素から構成されています。
企業ではアップルやユニクロなどが取り入れていることでも知られています。
環境適応を促進させるためには、まず管理職がその重要性を理解し、これまでの常識に支配されないことが重要です。
- POINT
- 異文化が出遭う時、そこに新しいビジネスが生まれる。ダイバーシティとはビジネスの多元化でありチャンスでもある。だが同時に変化できない者には、冷厳として退場を迫る。変化対応の成否はビジネスパーソンの死命を制する。
- 管理職に求められるものとは?
- あなたの「部下力」は大丈夫?
- 非言語表現の力と言語化の習慣
- コントロールとマネジメントの違いとは?