本記事は、岡野隆宏氏の著書『管理職の手帳 BASIC100』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ラポール形式
(画像=NEW/stock.adobe.com)

心の距離を近づけるラポール形成の技術

ラポールという言葉をご存じでしょうか。心理学では「ラポールを築く=相手と心の架け橋を築き信頼関係を構築する」という意味合いで用いられます。

「あなただから話せる」と自己開示できるような関係があれば、コミュニケーションもスムーズに進みます。

ラポールの形成に効果的な方法には次のような方法があります。

《ペーシング》

相手のペースに合わせる技法です。人間は、共通項のある相手には本能的に安心感を抱く傾向があります。

そこで話題、話すスピード、声の大きさや抑揚などを相手に合わせてみるとラポール形成につながりやすくなります。早口の相手には自分も早口で話すのも効果的です。

《キャリブレーション》

相手の顔色や表情、身体的な姿勢など言葉以外の要素から感情を読み取ることを指します。言葉にならない相手の気持ちを察することができれば、相手は「自分のことを理解してくれている」と認識し、こちらへの信頼が生まれやすくなります。

《バックトラッキング》

相手が発した言葉の意味を変えず、別の言葉に置き換えながらコミュニケーションをとる技法です。

相手の発言の意味を繰り返したり、話の内容を要約することで話をきちんと聞いていることを示します。話の中身を確認しながら、相手の感情にも寄り添うことができれば、相手との心の距離が縮まってきます。

何より笑顔で接することが大切です。笑顔で心の居心地がよくなるような働きかけをしていきましょう。

POINT
自由に物が言える職場を風通しのよい職場という。『論語』にいわく「君子の徳は風なり。小人の徳は草なり。草これに風をくわうれば必ずふす」。職場に風を吹かすのはリーダーだ。よい風が吹けばメンバーは必ずその風に従う。

言葉よりも伝わる、非言語表現の力

人は言葉でコミュニケーションしています。しかし、話すこと以外にもコミュニケーションの手段はあります。

「ノンバーバル・コミュニケーション」とは非言語、言葉によらないコミュニケーションという意味です。これは、コミュニケーションは「言語表現」と「非言語表現」によって成り立っているということで、しかも非言語のほうが言語によるコミュニケーションよりも影響力が強いと言われています。

私が息子とコミュニケーションをとっていた際の出来事です。

息子は自動車の運転免許を取得したばかりで、運転したくて仕方がない時期でした。ある日、次の日曜日、車を貸してほしいと頼まれたのですが、その日私は車を使用する予定でした。

迷いましたが運転したい息子の気持ちを汲んで、渋々譲ることとし、うん、いいよと〝眉間にしわを寄せて〟返事をしました。すると息子は数秒後「いや、車は使わず、やっぱり電車で行く」と言い出しました。

私は、「使えよ」とやはり〝眉間にしわを寄せたまま〟奨めましたが、結局、息子は使わないと言って部屋から出ていきました。

これは正に非言語表現が、言語表現よりも強く伝わったコミュニケーションの場面と言えます。使ってよいという言語以上に、眉間にしわが寄った表情に息子は本音を読み取ったということです。

これは家族や長年の友人など、関係の深い相手に対して出やすい傾向と言われます。

のみならず、上司が部下に対して接する時などが典型例として挙げられています。管理職としては要注意です。こんなところから部下は上司の本質を見透かします。管理職として、言語以外などの要素に注意してコミュニケーションしましょう。

POINT
人との会話で記憶に強く残っているのは、相手の姿かたちや身振り手振り、それに表情、声音などばかりで肝心の話の内容はごくわずかだ。この事実を心得ているのがコミュニケーションの達人である。

言語化の習慣をつける

パナソニックの創業者松下幸之助の口グセに「君、どう思う?」、「アンタはどう思うんや?」があったそうです。

「どう思うんや」と問われて答えられる人は、日頃から問題意識を持ち何らかの考えを持っているから答えられるわけです。

しかし、考えていなければ答えられません。まだ考えが定まっていない場合も、即答はできないでしょう。

コミュニケーションをとる際、自分の考えや意見を求められることは多々あります。

そこで自分なりの考えや思いがなければ話が成立しないこともあります。したがって、管理職になれば見識を深めることも必要です。

以前、研修講師を務めていた時に次のようなことがありました。

受講者の1人が、目標設定シートに記入した内容を私に見てほしいと持って来られました。確認してみると悪く言えば単に枠を埋めたというものでした。

この目標設定に、受講者自身の意図があるのか質問しても明快な回答はなく、どうやら日頃上司から指摘されている事柄を書き込んだだけのような印象を受けました。

『「言葉にできる」は武器になる。』の著者である梅田悟司氏は、この本の中で「内なる言葉」で意見を育て、「外に向かう言葉」に変換せよと述べています。

言葉を他人に伝える前にまず自分の中にある思いを言語化する、そのために自分と向き合うことの重要性を説かれているのだと私は解釈しています。

何となく思っていることでもハッキリと言葉にして理解しているかと言えば、案外そうでもありません。自分の思いを書いてみる、話してみることでその思いに気づく、分かることがあります。

見識を深めるためにも、思いを育ててみましょう。

POINT
理論や考えは批判を受けて完成度が上がる。批判も立派なコミュニケーションのひとつだ。そういう考えもあるかと批判を受け入れる態度で臨むことで、理論や考えは一段と鍛えられ、その形が整い定まってくる。
『管理職の手帳 BASIC100』より引用
岡野 隆宏
株式会社新経営サービス人材開発部シニアコンサルタント。広告会社や研修会社で、営業・人事・教育に関わる実務を担当。その経験を基に、現在は「社員のモチベーション向上」「関係性強化」「未来志向」などをテーマに主に中堅・中小企業の組織・人材開発支援を行っている。クライアント企業に対するコンサルティングや研修のみならず、外部団体での講演等も精力的に行っている。受講者からは「分かりやすく、現場経験に基づいた話に説得力、納得感がある」と定評がある。

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『管理職の手帳 BASIC100』
  1. 管理職に求められるものとは?
  2. あなたの「部下力」は大丈夫?
  3. 非言語表現の力と言語化の習慣
  4. コントロールとマネジメントの違いとは?
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