本記事は、岡野隆宏氏の著書『管理職の手帳 BASIC100』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
あなたの「部下力」は大丈夫?
上司に対して「部下力」を発揮することをフォロワーシップとも言います。
フォロワーシップとはロバート・ケリー教授の提唱した考えで、上司を助けてチームの力を発揮させ成果に大きく貢献する力となります。フォロワーシップのある部下は上司にとって実に頼りになる存在です。
上位者のいる管理職が、進んでフォロワーシップを発揮することを心がけるべきなのは言うまでもありません。
しかし、そのフォロワーシップを発揮する上でも前提となるのは上司との関係です。
上司との関係がよくないようでは、部下は進んで上司のために動く気になれませんし、上司も信頼の乏しい部下を自由に動けるようにはしておきません。
こうした関係に陥ってしまう理由の大半は、相性が悪いなどの個人的な感情です。個人的な感情とはいえ人間は感情で行動する動物ですから、人間関係は古くて新しい問題でもあります。
相性といっても、相手を変えることはできませんので自分を変えるしかありません。
ではどうすればよいか。ある経営者はこう言っていました。
「若い頃、同期トップで走っていた自分はある上司と相性が悪かった。相性の悪さはお互いさまだが常に意見が衝突した。そこで上司と対立した意見は3回までは主張する、しかしその後は上司の意見に従うことをマイルールとし、上司の意見があたかも自分の意見だったかのように率先して取り組み、チーム全体を巻き込むようにした」
つまり模範的なフォロワーシップを徹底して発揮したのです。
その結果、チームの成果も上がりました。その後、上司との関係は良好となったそうです。お互い同じ組織の方針・理念を共有する者同士ですから、両者に決定的な違いはありません。大事なことは歩み寄る姿勢です。
- POINT
- 管理職にも上司がいる。組織の中で仕事する以上は上司の協力が得られなければ何もできない。自己実現を果たそうと思うなら上司との良好な関係を築くことが必要。相性の問題はあっても互いに同じ目的・理念・ビジョンを共有していることを忘れるべからず。
「部下力」の核心、ボス・マネジメント
ボス・マネジメントとは、組織行動論を学ぶMBAのカリキュラムのひとつで、「優秀な成果を出す部下は、総じて上位者との関係が良好である」という傾向に基づいています。
つまりボス・マネジメントの方法は上司を欺いたり、陥れて弱みを握るような邪なものではなく、上司との人間関係を良好に築くことにあります。
部下にとっての悩みごとに「上司との人間関係」が筆頭に取り上げられます。
「上司が自分をサポートしてくれない、正しく評価してくれない」という不満からくる悩みとは、すなわち上司と部下の間で心理的距離が離れていることに起因する事象です。
原因のひとつは上司側にありますが、一方では部下側にも上司に関わろうとしない受け身姿勢が目立ち、これが関係構築の阻害要因になっていることが少なくありません。
管理職も立場が変われば自身も誰かの部下ですから、同様の悩みを抱えていることがあるはずです。その解決には部下である管理職自らが、上位者との関係を良好にする意識と行動が必要です。
上司との関係を良好にすることができたならば、多くの悩みごとや問題は自ずと解決することとなります。
人間関係を改善するには、まず相手のことをよく知ることが必要です。
相手を知るためにはコミュニケーションの量を増やすことと、そのためにはまず相手に関心を持つことが効果を発揮します。
人には好意の返報性という心理があります。
好意的な関心を寄せて来る相手には、原則、関心を寄せられた相手も好意を抱くということです。甘言をもってすり寄る相手にも好意は抱きますが、単なるおべっか使いでは軽く見られてしまいます。
上司と部下でもお互いに尊重し合う関係が基本中の基本です。
- POINT
- 部下が上司と良好な関係を築くことをボス・マネジメントという。上司の操縦法という解釈も可能ではあるが、部下が全力を発揮するための部下側の上司に対する働きかけで、意図も手法も健全で前向きなものであることが条件だ。
上位者の苦悩へと視点を移す
管理職が上位者に不満を抱き、モノ申す場面もあります。
その際に主張している不満は、往々にして管理職にとって「自分の見える世界」から感じた印象や事象から発言しています。しかし上位者は、管理職の見ている世界よりも広い世界と常に向き合っています。
その広い世界から管理職以上に大局的、俯瞰的、本質的に物事を考察し様々な判断を下しています。部下である管理職にとっては「自分には見えない世界」も存在するのです。
しかし、この事実に気づかなければ不満は募る一方で、「なぜこのような判断が下されるのか」「自分のアイデアの方が理に適っているのではないか」といった疑念が生じ続けます。この状況下で心理的葛藤を処理できず、ストレスを抱えている管理職が実は多く存在するのではないでしょうか。
ある経営者は社員に対して「理解に努めてほしい」という曖昧模糊な言葉を繰り返していました。情報管理や機密保持、責任の分散防止などを考え、タイミングを計った情報提供を考慮していたことが理由です。
このような事情があるものの、結果として社員には伝達されないことで、社内に誤解や憶測を生んでいました。経営者はその事実を知り、以降は「まだ言えないが、こちらの心情を察してほしい。時が来れば話をする」と発言を改めました。
立場が違えば役割や責任が異なり、それに伴う情報の量と質も変わります。しかし、自分が持つ知識や情報がすべてと思い込んでいる人もいます。そういう人は、やがて公開された情報に接し、知らない世界があったことを痛感します。
自分がすべてを知り得る存在ではないことを自覚することで、闇雲に否定するばかりではなく、経営者の内心に歩み寄る共感する姿勢が生まれます。
- POINT
- 人は自分の見ている世界が世界のすべてと考える。古来から、井の中の蛙大海を知らずという。同じ社内であっても社長と一般社員では同じものを見ていても心に映る景色は違う。管理職の目指すべきは上司の見ている世界が見えるよき部下だ。
- 管理職に求められるものとは?
- あなたの「部下力」は大丈夫?
- 非言語表現の力と言語化の習慣
- コントロールとマネジメントの違いとは?