東京・日本橋にある「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」の院長、横井彩です。本来の健康的な素肌を取り戻すには、適切な治療と正しいスキンケアが一番の近道という思いから、皮膚科の専門医としてみなさんの日常に彩りを足すお手伝いをしています。
前回は「肌荒れ」について解説しましたが、今回のテーマは肌荒れ対策、そして美肌ケアとして重要な「洗顔」についてです。肌に塗るケアには力を入れる方が多いのに対して、落とすケアにはそこまで手間やお金を使わない方が多いのですが、これはとてももったいない。洗顔は結構な“美肌の基本”です。
肌が乾燥しやすいこの季節、みなさんはどのような洗顔をされていますか?私の若い頃は、「ニキビはきちんと洗顔しておけば治る」みたいな誤解もあり、洗い過ぎてしまう人が多い風潮があった気がします。しかし最近の若い人の話を聞くと、「洗いすぎは肌によくない」「乾燥するとニキビができるからあえて朝は洗わない」という声をよく聞く気がします。実際、ニキビで受診する若い人の中に、朝は洗顔料を使わずお湯だけで洗う人も少なくない印象です。今回は皮膚科専門医からみて、どのような洗顔方法が肌によいのかを解説したいと思います。
まず洗顔とはどういう行為なのか。洗顔の目的はもちろん、汚れを落とすことです。肌トラブルに繋がる“汚れ”を適切に落として、肌の健康を保つという重要な役割が洗顔です。この皮膚の汚れにはメイクや花粉・ほこりなど外的なものはもちろん、皮脂や汗など自分から出るものも含まれます。この「自ら出たものでも肌に良いとは限らない」という点が抜けると、メイクもしていないし外にも出ていないから朝の洗顔は不要と考えがちです。では実際、自分から分泌されたものが、どのように肌に良くないのでしょうか。寝ている時も起きている時も、常に毛穴からは皮脂が分泌されています。皮脂は時間の経過とともに酸化し、この酸化した皮脂が皮膚の赤みや痒みを引き起こします。また皮脂は肌の上の微生物(不潔とかではなく、元々肌にいるいわゆる常在菌です)により分解されますが、皮脂が分解された物質は肌への刺激となります。赤みや刺激というと強い症状を想像して驚くかもしれません。もちろん一日顔を洗わないからといって肌が真っ赤に荒れたりするような激しいことは起きませんが、この古いギトギト皮脂による軽微な炎症を放置し続けると、皮膚の赤みや毛穴の目立ち、ニキビの悪化など様々な肌トラブルとなります。お湯だけでは落ちにくい皮脂などの“アブラ汚れ”を落とすことが洗顔料の役割で、毎日のケアにおいて洗顔の果たす役割は結構大きいのです。
一方、皮脂には肌を乾燥から守る機能もあり、皮脂そのものが悪者なわけではありません。洗顔しすぎて肌に必要な保湿成分まで洗い流してしまうと肌は乾燥するので、そういう意味で「洗いすぎは肌によくない」は正解です。お湯だけ洗顔で肌が良い状態に保たれている方もいますので、肌の調子が良い場合は現在のお手入れで問題ありません。おそらく皮膚が薄く極端な乾燥肌や敏感肌の人では、“朝はお湯だけ”が合っている人が多いかもしれません。洗顔料を使わない(皮脂が残る)ことによるデメリットは先ほど述べたとおりですが、洗顔料を使うデメリットとしては、皮脂や保湿成分の流れ出てしまうということがあります。皮脂の分泌量が極端に少ない人や肌のバリア機能が低下しがちな人だと、洗顔することによるデメリットが上回るケースがあるかもしれません。そういう人は、朝はお湯だけ洗顔や化粧水での拭き取りケアが合っていると思います。
ただ、これは肌質や生活習慣など個人差がとても大きいです。ひとつ注意して欲しいのは、女優さん美容家さんといったいわゆる美の“プロ”の肌の綺麗な人たちの「洗いすぎは肌によくない、朝はお湯だけ洗顔です」という発信を鵜呑みにしていいかどうかです。この人たちが間違っている、嘘を言っている、ではありません。その人の肌にとっては「洗い過ぎない」が多分正しいのです。しかし忘れてはいけないのは、人の肌質はそれぞれ違うということ。他人に合っているケアが自分に合うとは限りません。肌の綺麗な人たちのケアで、すべての人が綺麗になれるとは限らないのです。
まず、これらの肌の綺麗な人たちの中には、もともと皮脂が少ない乾燥肌寄りの肌質の方がいます。実は「きめが細かい」と言われる肌は、皮脂が少ない肌質に多いです。例えば、皆さんのお悩みナンバーワン“毛穴”。皮脂が少ない人は、毛穴が目立たない肌であることが多いです。皮脂の酸化による赤みが出にくく、ニキビや毛穴のトラブルも少ない肌質となると、この人にとっての主な肌悩みは乾燥です。乾燥を防ぐことに全力を注いで行き着いた結果が「洗い過ぎない」お手入れかもしれません。このお手入れを自分がそのまま真似していいのかどうか、これが重要なポイントです。
皮脂が少ない肌質には皮脂を落とし過ぎない“お湯だけ洗顔”が合っているのです。ちなみに私自身は脂性肌で長年ニキビや皮脂の酸化と闘ってきたため、この肌質を“恵まれた肌質”として密かに羨ましく思っています。でも、この肌質では乾燥による小ジワや炎症やくすみが出やすいというお悩みもあります。結局、それぞれ肌の個性と考えて、自分の肌質ととことん向き合って合うケアを探っていくしかないのだと思います。
肌質以外にも、美容をお仕事にしている場合は日に何度もメイクを変えたり強いライトを浴びたりと肌の乾燥が悪化しやすい環境でもあります。こういう方たちが何よりも乾燥を恐れるのは、この環境要因も関係あるかもしれません。一般の人の多くは、日に何度も洗顔をする必要はないですし、ニキビや毛穴などで悩む人はある程度は皮脂が多く出ています。この場合は、皮脂が残っているデメリットを考えれば、洗顔料で古い皮脂を適切に落とすことが大切です。
また洗顔料で洗わない理由として、「洗うと余計に乾燥するから」という人もいます。しかし本当にその時の洗顔によって肌が乾燥したのでしょうか。もしかしたら、肌の上にある皮脂や前夜のクリームが洗顔料で落ちて、元の肌の乾燥が露呈してしまった状態かもしれません。正しい意味での「肌が潤った状態」とは、肌の上に油分が乗っていることではありません。肌が潤っているとは、肌内部の水分や保湿成分が保たれていることです。乾燥気味の肌では油分で蓋をして蒸発を防ぐことは必要ですが、肌内部が乾燥したままでは外側をどれだけ覆っても潤いのある美肌にはなりません。皮脂が多い人も少ない人も、肌内部の乾燥をいかに避けるかがとても大事です。そのためには自分の肌質や状態を理解して、油分と水分の理想的なバランスに近づけるようなお手入れをしましょう。
最後に、オトナ世代の洗顔について。50代や60代になってくると、若い時と比べて皮脂の分泌量が減り、水分量も減り、肌のターンオーバーも落ちてきます。では、皮脂が少ないオトナ世代はあまり洗顔しない方がいいのかというと、そうとも限りません。老化により、肌のターンオーバーは低下して、皮膚表面の古い角質が残りやすくなります。角質が厚いごわついた皮膚は化粧品の浸透が悪くなり、美容成分の「効きの悪い肌」になります。年齢を重ねると“与える”ケアに一生懸命になりがちですが、肌内部をしっかり潤すために、時には厚くなった角質を取り除くケアも必要です。例えば、週に1回程度ピーリング洗浄料や角質ケア化粧水などを使って上手に取り除いてあげてください。乾燥するからといって、ひたすら化粧品を上塗りしていても肌内部の状態は改善しにくいのです。適切な洗顔により美容成分が浸透しやすい肌にしましょう。
肌は大気や気温にも敏感に反応するものです。正しい知識を持ち、常に現在の肌状態と向き合うことで、健康な肌を保っていただきたいと思います。今日のみなさんの肌状態はいかがですか?これからも「無理せずキレイを楽しむ」ヒントを発信していきたいと思います。
*「セブツー」では、横井彩先生へのお肌の悩みや相談を受け付けています。お気軽にご連絡ください。
■横井彩 プロフィール
「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」院長。皮膚科専門医、医学博士。2003年に秋田大学医学部を卒業した後、同大学皮膚科で研鑽。2017年藤田医科大学アレルギー科にて講師。2021年に「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」を開院。日本美容皮膚科学会や日本香粧品学会などに所属。