社長のこれまでの変遷について
—— 社長のこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか?
トリケミカル研究所 代表取締役社長執行役員・太附 聖氏(以下、社名・氏名略) 大学を卒業後、トリケミカルに入社しました。当時、社員は20人ほどしかおらず、非常に小さな会社でした。アットホームな雰囲気の中で、新卒エンジニアとしてキャリアをスタートしました。5年ほど経過した頃、会社の方針により営業職を経験することになり、営業現場へ出ました。営業に出てから3年が経過してもエンジニアに戻ることはなく、当時の会長からは「まだ1年目だろう」と言われ、結果的にそのまま営業職を続けることになりました。
当時、会社はまだ規模が小さく、年間売上は4億円から5億円程度に過ぎませんでした。日本の半導体産業は非常に強く、各企業が研究所を所有しており、少量の化学薬品を必要とするニーズがありました。大手の化学メーカーが対応しない分野に私たちが入り込み、お客様と共に化学材料を模索しながら、半導体に使えるかもしれないというアイデアを形にして提供していたのを覚えています。
半導体の会社には電気や電子の知識を持つエンジニアが多い一方で、化学を理解している人は少なかったんです。そこで、どんな化学材料が適しているかを提案しながら、マーケティングやエンジニアとの話し合いを重ねました。この経験は非常に役立ったと思っています。
その後、会社の化学材料が市場で評価されるようになり、量産化が求められるようになりました。仕事がさらに面白くなり、営業職を続けながら管理職や経営層へのステップアップも果たしていきました。これが私の経歴の大まかな流れです。
—— 半導体業界のエンジニアとはどのようなものなのでしょうか?
太附 半導体業界は常に新しいものを生み出し続ける分野です。30年、40年前のスマートフォンや携帯電話すらなかった時代から、半導体技術は進化してきました。同時に化学材料も開発を進めなければなりません。私たちはクリエイティブな仕事をしながら、お客様のニーズに応えることが求められています。開発に近いエンジニアリングが重要になるのです。
社長の一番感銘を受けた書籍とその理由
——これまで最も感銘を受けた書籍について教えていただけますか?
太附 本は毎日1〜2冊は簡単に読めてしまうため、これまでかなりの数を読みました。その中で「これが一番」と言えるものはないのですが、特に印象に残っているのは池上彰さんの『伝える力』です。この本はベストセラーで、多くの方がご存知かもしれません。私がこの本を読んだのはかなり前のことですが、その時、自分の取り組んできたことが間違っていなかったと確信できました。
—— 具体的にはどのような部分でそのように感じられたのでしょうか?
太附 例えばお客様との会話内容を会社に持ち帰り、開発部門と共有する際に意思疎通がうまくできなければ、何も進みません。『伝える力』を読んだことでその重要性を改めて実感しました。この本を通じて、私自身がすでに実践していたことに気づき、さらにそれを強化していかなければならないと感じたのです。
—— 答え合わせのような感覚だったのですね。
太附 はい、この本は自分がなぜうまくいっているのかを理解する手助けをしてくれました。また、自分に足りない部分も明らかにしてくれたのです。話す力、聞く力、書く力の三つが必要で、これらを総合的に高めることが大切だと気づきました。
特に、専門的な内容を素人の方に説明するのは難しく、半導体について分かりやすく説明するためには、自分自身がその分野を深く理解していなければなりません。この本は、広く浅くではなく、広く深く理解することの重要性を教えてくれました。知識を広く浅く持っているだけでは、他者に上手く伝えることができません。深く理解してこそ、初めて他者に簡潔に説明することができるのです。この本を通じて、そのことを再確認しました。
読んだ書籍をどう仕事に生かしてきたのか
—— 書籍の内容をどのように仕事に活かしてきたのか、詳しくお伺いできますでしょうか?
太附 自分の思っていることを相手にしっかり伝えることが重要です。何を言っているのか分からないと、従業員は「どこに向かっているんだ」と思ってしまいます。ですので、毎月の月例会で全員を集めて話をする際、5分ほど時間をもらって自分の考えを伝えるようにしています。
自分が会社をどうしたいのかを深く理解し、それを理論立てて説明できるようになることが重要です。伝える力は非常に大切だと感じています。
—— 経営者の方々にもお勧めできる本ということですね。
太附 そうですね。彼の本は非常にわかりやすく、専門知識を誰にでも理解できるように噛み砕いて説明しています。その本の中でも、小説を読むことを勧めていて、語彙力がなければ伝える力が不足してしまうと気づかされました。それ以来、小説を読むようになり、語彙力が鍛えられました。
—— お気に入りの小説家はいらっしゃいますか?
太附 特に一人に絞ることはせず、さまざまな作品を楽しんでいます。楽に読めるものが一番ですね。どちらかといえば、芥川賞より直木賞作品のほうが好みです。
—— 本を読む際は紙派ですか、それともデジタル派ですか?
太附 紙派ですね。タブレットも使いますが、やはり紙のほうが好きです。
社長が経営において重要としている考え方
—— 社長が大事にしている考え方についてお聞かせください。
太附 コミュニケーションを重視しています。全員が全員できるわけではありませんが、コミュニケーションが一番重要です。月例会でも、コミュニケーションをとろうと伝えています。コミュニケーションも質ではなく数が大切だと感じています。コミュニケーションをとっていれば、会社は良くなると思っています。
—— 未来の構想や従業員への期待についてお聞かせいただけますか?
太附 利益を追求する会社でありたいと思っています。営業利益率25%を目指しており、これを達成することが目標です。私もいつか引退しますが、次の世代が会社を引き継ぎ、トップに立ったときにどう進めていくかを考えてほしいと思っています。この25%の利益率にこだわる理由は、売上が伸びれば利益も増え、次のステップに進むことができるからです。売上規模が200億とか何百億になるかは分かりませんが、25%を維持できれば、次の新たな挑戦が可能になります。
—— 利益率25%の考え方は、会長から引き継がれたものでしょうか?
太附 それは私自身の考えです。私が社長になる2年ほど前から、会社は製造をあまりしていませんでした。外部から調達して加工するスタイルでしたが、ケミカルメーカーとして物を作らないのは問題だと思いました。エンジニアや開発部隊も育たないですからね。そこで、自分たちで製造することで25%を達成できると考え、方針を変えました。
—— 結果的に、どのような変化がありましたか?
太附 物を作るようになったことで、ケミカルメーカーとしての認知度が上がり、技術も育ってきました。現場からも改善のアイデアが出てくるようになり、良い方向に進んでいます。創業社長の時代とは大きく雰囲気が変わったと思います。
- 氏名
- 太附 聖(たづけ きよし)
- 社名
- 株式会社トリケミカル研究所
- 役職
- 代表取締役社長