東京・日本橋にある「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」の院長、横井彩です。本来の健康的な素肌を取り戻すには、適切な治療と正しいスキンケアが一番の近道という思いから、皮膚科の専門医としてみなさんの日常に彩りを足すお手伝いをしています。
今回のテーマは「男性のメイク」についてです。メイクと聞くと、雑誌モデルのようにアイシャドウなどのメイクアップを思うかもしれません。そういうメイクを楽しむのももちろん素敵なのですが、今回私がお話したいのは、いわゆるベースメイクです。ベースメイクとは一般的に、シミやニキビ痕など肌悩みを目立たなくする、肌色を整えるために塗るメイク、下地やファンデーションなどのアイテムのことです。最近、ニキビやニキビ痕の赤みがある部分に対して、コンシーラーやファンデーションなどを使ったベースメイクに関心を持つ男性が20〜30代を中心に増えたと感じます。スキンケアに関して言えば、ほとんどの若い世代の男性がスキンケア製品を使用しており、なんとなく選んだのではなくきちんと調べて買っている方も少なくありません。私のクリニックでも、ニキビやニキビ痕に対してどんなスキンケアをすればいいのか、購入した化粧品が自分の肌に合っているかどうか、など質問されるようなこともよくあります。私が20代の頃には、デパートコスメを使っている20代男性なんて、聞いたこともなかったです。時代が変わったと感じますし、個人的にはとても嬉しく思います。私が皮膚科医になったばかりの頃は、地方だったのもありますが、中高生の男子を連れてきた保護者の方の口から「男の子なんだからまあ気にしなくていいと思うのですが…」といった表現を聞くことがあり、「そんなこと本人に向かって言わないで!」と感じていました。男女関係なく、綺麗になることを希望することが当たり前になった時代に心地よさを感じます。
医学的には男女の体の作りには大きな差があり、起こりやすい疾患も異なり、男女が常に同じ扱いになるとは限りません。しかし肌トラブルに悩む気持ちに男女差があるわけはなく、性別関係なく肌がきれいになることは嬉しいことです。「女性なのに」と言われるのが不快なように、男性も「男性なのに」と言われる筋合いはありません。ニキビ痕が目立たなくなることによりプライベートで過ごす時間がより前向きに楽しめるなら、ベースメイク大賛成です。ただし使う製品や使い方に少し注意が必要です。男性のメイクは増えたとはいえまだ少数派なので、情報も限られていると感じます。肌色トーンの違いから、女性の製品がそのまま使用できるとも限りません。もちろんSNSで多くの情報をキャッチすることができますが、それでも男性の場合は相談できる場所が限られているかもしれません。皮膚科医に相談してもらってもいいと思うのですが、聞きにくい雰囲気もあるでしょう。そこで診療の際にメイクをしている男性に対しては、どういう種類のメイク製品を使ってクレンジングはきちんと行っているかなど積極的に確認するようにしています。
SNSの動画などは綺麗にメイクするコツや商品の紹介が多く、素肌を綺麗に保つためのメイクの考え方に関する情報は目立ちません(地味になりがちなので)。ニキビを悪化させてしまう可能性がある化粧品や使用法もありますので、そこの情報も取り入れつつメイクを選んでほしいですね。詳しく知りたい方は、連載第2回目の「ニキビ=敏感肌と思っていませんか?」をチェックしてみてください。
それから、乾燥したこの季節はよく顔に粉が吹いている男性をよく見かけます。いわゆる「粉吹き肌」です。これは中高年の男性にも見られますが、この世代ではお手入れをあまりしていないという方もいます。「粉吹き肌」の状態は、単に乾燥しているだけでなく、肌表面がバサバサになり傷つきやすくなっている状態です。角質層とは、肌の一番表面の部分で、肌の生まれ変わりと共に、垢となって剥がれ落ちていきます。この角質層は通常整列して重なっているのですが、粉吹き肌では、角質層はきれいに重ならずバサバサになっている状態です。角質層は肌のバリアとしての役割も担っていますから、角質層が乱れているバサバサ状態は、肌の健康が少し損なわれている状態です。この肌を良い状態に整えるお手入れは、美容ではなく健康維持です。肌という臓器を健康に保つためのケアと考えて、中高年の男性もしっかりお手入れを行ってほしいです。
もしかしたら「男性が化粧品なんて」と思っている方もまだいるかもしれません。しかし健康な肌でいることは全ての人にとって大切なこと。老若男女、皆さんが自分に合ったスキンケアをしてほしい。そしてスキンケアだけでなく、今ある肌の悩みを目立たなくして綺麗な肌になりたいと思うことにも年齢も性別も関係ありません。皮膚科医ですから主に肌色を整えるベースメイクについて語りましたが、アイシャドウなどのファッション的なメイクも服装やその日の予定に合わせて楽しむことが、女性はよくて男性がダメな理由は無いと思っています。スキンケアはもちろん、「男性のメイク」についても肯定的に捉える人が増えて、お肌に関して悩む気持ちが少しでも減って、毎日の忙しい生活も週末のプライベートな時間も前向きに楽しみながら送ってほしいと心から思っています。
さて、今年から始まった連載「皮膚科医・横井彩先生の彩肌通信」は、おかげさまで2年目を迎えます。今年は憧れの美容雑誌「VOCE」にも登場させていただき、充実した一年でした。2025年も「無理せずキレイを楽しむ」ヒントを発信していきたいと思います。
*「セブツー」では、横井彩先生へのお肌の悩みや相談を受け付けています。お気軽にご連絡ください。
■横井彩 プロフィール
「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」院長。皮膚科専門医、医学博士。2003年に秋田大学医学部を卒業した後、同大学皮膚科で研鑽。2017年藤田医科大学アレルギー科にて講師。2021年に「日本橋いろどり皮ふ科クリニック」を開院。日本美容皮膚科学会や日本香粧品学会などに所属。