本記事は、白井旬氏の著書『人的資本経営×ESG思考』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

ESGは「地球に優しい(E)」と「人に優しい(S+G)」
同じ「持続可能性」という視点から、世界的に注目される「ESG」に焦点を当てます。
すでに「人的資本」開示や「サステナビリティレポート」に関わっている方もいるかもしれませんが、ここでは「ESG」と「人的資本経営」の融合を基礎から進めていきます。

ESGとは
図表2-2の通り、ESGは従来の財務情報に加え、次の要素も重視する投資や経営の考え方を指します。
- ・Environment(環境):気候変動への対応、自然資源の保護、水質汚染防止など
- ・Social(社会):労働環境の改善、多様性の推進、人権の尊重、社会的責任など
- ・Governance(ガバナンス):企業の透明性、経営の健全性、危機管理対策など
ESGは、特に年金基金や生命保険会社などの機関投資家を中心に企業の「持続可能性」を示す指標として普及しています。
加えて、気候変動対策や新たな事業機会の評価指標として、国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」とも関連しています。
SDGsとESGの違い
拙著『経営戦略としてのSDGs・ESG~“未来から愛される会社”になって地域×業界No1を目指す』(合同フォレスト、2022年)でも述べた通り、日本ではSDGsの認知度がESGよりも高く、学校でも取り組みが盛んです。
しかし、ビジネスにおける世界基準としてはESGが主流です。SDGsが世界全体での持続可能性を実現していくための指標として機能する一方で、ESGはこれからの投資判断や経営戦略の基盤となります。
ESGの歴史的背景(図表2-3)

ESGの起源とされる「社会的責任投資(Socially Responsible Investment:SRI)」は、1920年代のアメリカにおけるキリスト教教会財団の資産運用から始まりました。
当時は、倫理的観点から「武器、ギャンブル、たばこ、アルコール」に関連する企業への投資が避けられていました。
その後、1960年代には「ベトナム戦争反対」の運動が高まり、軍需産業への投資が批判されるようになりました。1980年代には、南アフリカのアパルトヘイト政策に反対する動きが強まり、同国で活動する企業への投資が抑制されました。
1990年代には、オゾン層破壊や二酸化炭素排出に対する関心が高まり、石油・石炭産業への投資が縮小、見直しされました。
こうした動きの中、2006年4月に当時の国連事務総長コフィー・アナンが提唱した「責任投資原則(PRI)」が生まれました。PRIの6つの原則のうち、1~3には「ESG」の文言が明確に組み込まれています。
ESGと人的資本経営の融合
まさに、「責任投資原則(PRI)」をきっかけとして、図表2-4に示されている通り、E(環境)、E(社会)、E(ガバナンス)を考慮した経営こそが「長期的な企業価値(付加価値)の向上」や「持続的な“個人の活躍”と“事業の発展”」につながるという考え方が、今日に至っています。

ESGの「S(社会)」には「人的資本への積極的な投資」「ウェルビーイングの促進」「働きやすさと働きがいの両立」が含まれます。また、「G(ガバナンス)」には「経営理念の浸透」「長期的経営計画の策定・共有」「適正な報酬設定と納税の遂行」などがあり、これらは人的資本経営と強く結びついています。
簡単に言えば、「地球に優しいのがE(環境)」、「人に優しいのがS(社会)+G(ガバナンス)」であり、後者は「人的資本経営」と密接に連動します。このように、ESGと人的資本経営の相互作用を活かすことが、持続的な経営のカギとなります。
ESGを無視した活動では、「未来から愛される会社」とは、なりません。そして、企業の持続的な成長や発展は、地球と人に対する責任を果たせるかどうかにかかっています。

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