本記事は、白井旬氏の著書『人的資本経営×ESG思考』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

心理的資本を高める「オキシトシン的承認(行動承認)」
私は、2023年夏から月1回「ウェブ心理塾」に通い、体系化された情報発信に関するノウハウを学んでいます。
運営者は精神科医の樺沢紫苑先生で、累計250万部を超えるベストセラー作家であり、映画評論家でもあります。
樺沢先生は、精神医学や心理学、脳科学の知識をわかりやすく発信し(SNS総フォロワー数100万人以上)、メンタル疾患の予防に努めています。著書『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版、2018年)『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社、2020年)『脳を最適化すれば能力は2倍になる』(文響社、2024年)などは、一度は手に取ったことがある方も多いのではないでしょうか。
樺沢先生の著書『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社、2021年)には、「ドーパミン的承認」と「オキシトシン的承認」の図がわかりやすく掲載されています。今回は、筆者が少し加筆・修正したものを図表3-6として紹介します。

この図に示すように、「結果承認」は業績や成果といった目に見える結果に焦点を当て、成功を評価するもので、樺沢先生はこれを「ドーパミン的承認」と呼んでいます。
一方、「行動承認」は、目標に向けての行動や成長の過程を承認するもので、「オキシトシン的承認」とされます。両者の効果は対照的です。「ドーパミン的承認」は一時的な満足感をもたらすものの、長続きしにくいのが特徴です。
これはバブル崩壊後の「失われた30年」で見られたように、結果中心の「人的資源経営」や「ドーパミン的承認」の限界を示しています。成果を出せなかった者の自己評価が下がるだけでなく、組織全体の活力が低下するという悪循環に陥っていたのです。
一方、「オキシトシン的承認」は、日々の努力や行動を肯定することで、安心感と信頼を育み、組織全体のエンゲージメント(ワーク&従業員ともに)を長期にわたって持続的に高めます。
小さな行動を評価されることで、人は「認められている」と感じ、結果へのプレッシャーから解放され、成長に集中できるようになります。これが自己効力感とストレス耐性を強化し、長期的に高いパフォーマンスを引き出す「心理的資本」を育むのです。また、「オキシトシン的承認」は「社会関係資本」の向上にもつながります。
メインテーマである「人的資本経営」では、この「オキシトシン的承認」が不可欠です。「社会関係資本」や「心理的資本」と深く結びついており、チームのコミュニケーションを円滑にし、互いを尊重し合う職場環境を生み出します。
これが組織の持続的な成長と革新を可能にし、従業員が最大限に実力発揮できる場をとなるのです。つまり、「人的資本経営」の本質は、結果ではなく、その背後にある努力や行動を承認し続けることにあるのです。それこそが、企業の長期的な成長を支える戦略なのです。
また、樺沢先生は図表3-7で「3つの幸福(Well-Being)の優先順位」を示しています。
まず、重視すべきは「心と体の健康(セロトニン的幸福)」、そして「つながり・愛(オキシトシン的幸福)」となります。

セロトニン的幸福(心と体の健康)
最も優先度が高く、幸福(状態を指す)の基礎です。「体調が良い」「気分が良い」という状態は当たり前でありながら、かけがえのない幸福です。オキシトシン的幸福(つながり・愛)
他者との交流や安定した人間関係から生まれる幸福です。「楽しい」「うれしい」「安らぐ」と感じる状態を指します。ドーパミン的幸福(成功・お金)
達成感や喜びを伴う幸福です。「やった!」と感じる瞬間の高揚感で、優先順位は最後となります。

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