本記事は、鳥原 隆志氏の著書『仕事ができる人がやっているインバスケット超入門』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

伝えるコツ
数字を必ず入れて伝える
リーダーにとって、伝えるという行為は、まさに生命線です。
どんなに素晴らしいアイデアや戦略も、相手に伝わらないことには、絵に描いた餅に過ぎません。
実際、伝達ミスが原因で、企業が大きな損害を被ったケースは少なくありません。
例えば、2005年に発生したJR西日本の福知山線脱線事故では、運転士への指示が曖昧だったことが、事故の一因とされています。
速度超過を防ぐための指示が、運転士に正しく伝わっていなかったことが、大きな悲劇を招いてしまったのです。
最近では2024年の正月に起きた海上保安庁の航空機と日本航空の飛行機の衝突事故もNO.1という表現の管制官と操縦士の取り間違いが悲劇を生んだとも言われています。
このように、伝えるという行為は、リーダーにとって極めて重要な責任を伴います。
では、どのようにすれば、相手に確実に伝えることができるのでしょうか?
そのコツの一つとして、数字を効果的に使うことをおすすめします。
数字は、客観的な事実を示す強力なツールです。
「後で報告書を提出してください」
このように曖昧な指示を出すよりも、
「17時までに報告書を提出してください」
と具体的な数字を使うことで、相手に誤解を与えることなく、意図を伝えることができます。
また、数字には、相手に説得力を与える効果もあります。
「成功するには計画は5%、実行が95%だ」
これは、カルロス・ゴーン氏の言葉です。
この言葉に、数字が含まれているからこそ、私たちは強い印象を受け、言葉の重みを感じるのです。
もし、数字を使わずに、
「計画は少しで、あとは実行することが重要だ」
と言われたとしたら、どうでしょうか?
おそらく、印象は薄く、心に響かないでしょう。
インバスケット問題でも、相手に何かを伝える場面では、数字を効果的に使うように心がけましょう。
例えば、「この資料は、3日以内に作成してください」「目標達成率を、現状の80%から90%に引き上げてください」のように、具体的な数字を示すことで、指示の明確化や説得力の向上につながります。
数字を制する者は、伝達を制すると言っても過言ではありません。ぜひ、数字を意識して伝えることを習慣づけ、伝達力を向上させましょう。
- 相手に伝えるときにエビデンス(証拠)を数字として伝える。
反論を受けない説得技術
リーダーとして、他部署や上司、部下などを説得し、動いてもらわなければならないケースは多々あります。そんなときに必要になるのが、説得力です。
多くの人は、お願いしたいことや伝えたいことを伝える際に、理由をつけ加えるでしょう。しかし、1つの理由だけでは、説得力が不足する場合があります。
そこで、私がおすすめするのは、3つの理由をつけることです。
例えば、「この広告プロモーションを採用しましょう。理由は3つあります。1つ目は、ターゲティングが明確で実績があること。2つ目は、予算内であり、まだボリュームディスカウントが可能であること。3つ目は、他の戦略にも応用できるなど、総合力があることです」
このように、3つの理由を挙げることで、説得力が格段にアップします。
もし、理由を1つだけにすると、どうなるでしょうか?
「この広告プロモーションを採用しましょう。実績がありますからね」
このように、1つの理由だけでは、相手は納得しないかもしれません。「本当に、それだけ?」「他に理由はないの?」と、疑問を感じてしまうでしょう。
3つの理由を挙げることには、心理的な効果があります。人は、3つの根拠を示されると、「反論できない」と感じ、納得しやすくなるのです。
また、自分では気づかなかった視点を提示されることで、「なるほど」と合点がいくこともあります。
「3つも理由が思いつかない…」そう思う人もいるかもしれません。しかし、私は、あえて「3つある」と言い切るようにしています。
そう言い切ることによって、自分で3つの理由を探そうと努力するようになります。そして、さまざまな角度から物事を考えることによって、新たな発見やより深い理解につながるのです。
インバスケット問題でも、3つの理由を挙げることによって、説得力の高い回答を作成することができます。ぜひ、このテクニックを活用して、高得点を目指しましょう。
- 自分の主張に理由を聞かれたときは指で3を示して「理由は3つあります」と勢いよく伝える。
相手を動かす強い伝え方:言い切る!
リーダーたるもの、時には強い口調で相手に伝えなければならない場面があります。
例えば、緊急性の高いトラブルが発生したときや、組織の存続をかけた重要な決断を下すときなどです。
そんなとき、相手に遠慮して曖昧な伝え方をしていては、事態が悪化するばかりです。
もちろん、相手への配慮は大切ですが、状況によっては、強い口調で伝えることも必要です。
強い口調で伝えることは、リーダーシップを発揮するためにも重要です。
チームを率いて目標達成を目指すには、メンバーを鼓舞し、行動を促す必要があります。
そのためには、強い意志を込めた言葉で、相手に語りかけなければなりません。
インバスケット問題でも、相手に強い意志を伝える場面は多くあります。
例えば、部下に指示を出すときや、上司に提案するときなどです。
強い意志を伝えるには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
それは、「言い切る」ことです。
「私は、この案を採用します」
「このプロジェクトは、必ず成功させます」
このように、断言するような言い方をすることで、相手に強い意志が伝わります。
ただし、「言い切る」のは、意外と難しいものです。
「言い切ってしまうと、反論されたらどうしよう…」
「断言してしまうと、後で変更できなくなるかもしれない…」
そんな不安を感じる人もいるでしょう。
もし、「言い切る」のが苦手な人は、以下のポイントを意識してみましょう。
「考えています」「できるだけ」「ちょっと違う」など、曖昧な表現を避ける。
語尾を強くする。
目を見て話す。
この3点を心がけるだけで、シャープに伝えることができるのです。
私自身も、原稿を書く際に、強く主張したい部分は、「〜と言われています」のような曖昧な表現ではなく、「〜である」と言い切るようにしています。
言い切ると、反論されるのではないかと心配する人もいるかもしれません。
しかし、実際には、言い切ることによって、相手は反論しにくくなることが多いものです。
先日、飛行機に乗ったときのことです。
隣に座っていた高齢の男性が、客室乗務員に、横柄な態度で話しかけていました。
その客はCAさんの名札を見て茶化すかのように「〇〇さんか」と言っていました。
しかし、客室乗務員は、冷静に、そして、はっきりと「お客様、私の名は△△です」と言い切りました。
すると、男性は、それ以上何も言わず、大人しくなりました。
言い切ることは、相手に強い意志を伝えるだけでなく、自分の自信にもつながります。
ぜひ、「言い切る」ことを意識して、相手に強い意志を伝えてみましょう。
- 語尾を意識する。「です」「ます」を少し強めに発言してみる。
