本記事は、鳥原 隆志氏の著書『仕事ができる人がやっているインバスケット超入門』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

もつれたケーブルと話し合うビジネスマンたち
(画像=kelly marken / stock.adobe.com)

トラブル対処のコツ

周りに知らせる(緊急行動)

先日、パリの美術館で、こんな光景を目にしました。

階段を上っていた女性が、足を滑らせて転倒してしまったのです。

彼女は、恥ずかしそうに立ち去ろうとしましたが、どうやら足を怪我してしまったようで、友人に支えられながら、その場にうずくまっていました。

異国の地で、誰に助けを求めればよいのかわからなかったのでしょう。私は違うフロアからしばらく眺めていましたが、周りは彼女を気にしながらも素通りです。

しかし、しばらくして異変に気づき、美術館のスタッフが駆けつけて、女性を介抱していました。

この光景を見て、私は、「助けを求めることの大切さ」を改めて実感しました。

仕事でも、同じようなことがよくあります。

トラブルが発生しても、「周りに迷惑をかけたくない」「自分のミスを知られたくない」

そんな気持ちから、一人で抱え込んでしまう人は少なくありません。

しかし、「一人で抱え込む」のは、トラブル解決において、最悪の選択です。

なぜなら、仕事はチームで行うものだからです。

一人が抱え込んでしまうと、情報共有が遅れ、被害が拡大する可能性があります。

最悪の場合、会社全体に大きな損害を与えてしまうかもしれません。

以前、私が研修を担当していた会社で、こんなことがありました。

ある社員が、顧客の個人情報が記載された書類を紛失してしまったのです。

彼は、「自分のミスで会社に迷惑をかけたくない」と思い、上司に報告せずに、一人で探していました。

しかし、書類は見つからず、結局、顧客の個人情報は外部に漏洩してしまったのです。

会社は、多額の賠償金を支払うことになり、社会的信用も失墜してしまいました。

そればかりではなく、対応が遅いことを顧客から指摘されたそうです。

もし、彼がすぐに上司に報告していれば、被害を最小限に抑えられたかもしれません。

また社内の処理体制も混乱せずに構築できたかもしれません。

ですからトラブルが発生したときは、「一人で抱え込まずに、助けを求める」ことが大切です。

自部署のトラブルは自部署だけで解決したいという責任感は素晴らしいですが、最悪のことを考えて空振りを恐れず異常を察知したら周りに知らせましょう。一人で考えるよりも、複数の人で考えることで、よりよい解決策を見つけることができるでしょう。

さらに、情報共有をすることで、再発防止にもつながります。

トラブルは、誰にでも起こりうることです。

「一人で抱え込まずに、周りに助けを求める」

これが、トラブル解決の最大の秘訣です。

現場で実践!
  • 異常を感じたら周りに相談してみる。

被害を最小限に抑える(応急行動)

私が食品スーパーのマネージャーをしていたときのことです。

ある日、顧客から「購入した商品に虫が入っていた」というクレームを受けました。

私は、すぐに部下に指示を出しました。

「同じ商品を、すべて売り場から撤去しろ!」

部下は、きょとんとした表情で、

「なぜですか?他の商品に虫が入っているとは限りませんよね?」

と尋ねてきました。

確かに、その通りです。

しかし、私は、「被害を最小限に食い止める」ことの方が重要だと考えたのです。

もし、他の商品にも虫が混入していたら、さらに多くのクレームが発生する可能性があります。

そうなれば、会社の信用は失墜し、損害も大きくなってしまいます。

もちろん、商品を撤去すれば、売上の減少という損失が発生します。空振りだった場合はいらぬ作業が発生するコストもかかります。

しかし、被害の拡大を防止することと比べれば、取るに足らない損失です。

食品メーカーが、商品の回収を行うのも、同じ理由です。

ほとんどの商品に問題はないかもしれませんが、万が一のことを考えて、回収を行うのです。

インバスケット問題でも、「被害を最小限に食い止める」という考え方が重要になります。

トラブルが発生したとき、多くの人は、事実確認や原因究明を優先しようとします。

もちろん、これらの行動も重要です。

しかし、その間にも、被害は拡大しているかもしれないと考えるのが管理職のトラブル処理のコツです。

ですからインバスケット問題でも、「被害を最小限に食い止めるために、今、何をすべきか?」を常に意識することが重要です。

例えば、情報漏えいの疑いがある場合は、すぐに関係部署に連絡し、被害の拡大を防止するための措置を講じる必要があります。

このようにトラブルは今も拡大しているという意識を持ってください。

トラブルが発生したときは、「周りに知らせる」とともに、「被害を最小限に食い止めるにはどうすれば良いか?」を考えるようにしましょう。

これが、トラブル対応の鉄則です。

現場で実践!
  • トラブルが起きたとき、同様のトラブルが他でも起きていないかチェックする。
仕事ができる人がやっているインバスケット超入門
鳥原 隆志 (とりはら・たかし)
株式会社インバスケット研究所 代表取締役。インバスケット・コンサルタント。大学卒業後、株式会社ダイエーに入社。販売部門や企画部門を経験し、10店舗を統括する店舗指導責任者(スーパーバイザー)として店長の指導や問題解決業務に努める。管理職昇進試験時にインバスケットに出合い、自己啓発としてインバスケット・トレーニングを開始。日本で唯一のインバスケット教材開発会社として、株式会社インバスケット研究所を設立し代表取締役に就任。日本のインバスケット・コンサルタントの第一人者としてテレビやラジオに出演し、ビジネスマンの行動分析をするなど活動中。国内外での講演や、研修実績多数。延べ受講者数は2万人以上を数える。主な著書に『究極の判断力を身につけるインバスケット思考』(WAVE出版)、『一瞬で正しい判断ができる インバスケット実践トレーニング』(朝日新書)、『たった5秒思考を変えるだけで、仕事の9割はうまくいく』(中経の文庫)などがあり、50冊以上累計90万部を超える。
仕事ができる人がやっているインバスケット超入門
  1. 仕事ができる人がやっているインバスケットとは
  2. 仕事ができる人がやっている早く読み理解するコツ
  3. 仕事ができる人がやっている優先順位をつけるコツ
  4. 仕事ができる人がやっている他人を巻き込むコツ
  5. 仕事ができる人がやっているトラブル対処のコツ
  6. 仕事ができる人がやっている意思決定のコツ
  7. 仕事ができる人がやっている伝えるコツ
  8. 仕事ができる人がやっている上司とうまく付き合うコツ
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