本記事は、山口 拓朗氏の著書『読解力は最強の知性である 1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

深層読解とは何か
批判的思考(=クリティカル思考)を発揮して深層に迫る
言葉をベースに情報を読み解く「表層読解」が、読解力の基本であることは間違いありません。
一方で、世の中の情報はそのすべてが言語化されているわけではありません。
その情報の背後に〈何か〉が隠されていることもあれば、その情報の奥や裏に真意や事実が隠れていることもあります。
あるいは、言葉それ自体が「嘘」「フェイク」「装飾」「取り繕い」などであるケースも少なくありません。
読解力を磨くには、「言葉」の意味だけではなく、言葉では表現されていない背景や経緯、感情、深層心理などを読み解いていく力、すなわち「深層読解」も必要となります。
そうした深層読解を磨いていく方法についてお伝えします。
たとえば、ある人が「若者のコミュニケーション能力が低下してきている」と発言したとします。
この意見に同意・納得する人も少なからずいるでしょう。
しかし、本当にその情報は正しいと言えるのでしょうか?
その発言は、どのような根拠に基づいているのでしょうか?
あるいは、発言者の個人的な経験を一般化した可能性もあります。もしかすると、「若者のコミュニケーション能力が低下している」のは、その人の生活圏のみで見られる現象かもしれません。
このような状況で求められるのが、「批判的思考(クリティカル思考)」です。
批判的思考とは、物事を批判的に検討し、論理的で合理的な判断を行なうための思考プロセスのこと。
ここで言う「批判的」とは、単に否定的な評価をすることではありません。
情報や意見、事実を注意深く分析・評価し、偏見や感情に流されずに考えることを指します。
大事なのは、その情報について「この理解で本当に正しいのか?」と常に建設的な問いを持つことです。
批判的思考を行なうことで、情報を鵜呑みにするのではなく、「本当にそれが事実なのか?」と立ち止まって、ほかの可能性について考え始めるようになります。
大事なのは、先入観や感情にとらわれず、情報を客観的に見つめる意識、すなわち「曇りのない目」なのです。
あえて異なる視点から状況を見直してみることも、批判的思考のひとつです。
たとえば、失敗を単に「ミス」と捉えるだけではなく、「学びや成長の機会」として解釈するほうが、失敗についてより深く理解している状態と言えるでしょう。
同様に、「消費の増加」を単に「経済活性化の要因」として捉えるだけでなく、「環境破壊の遠因」としても解釈するほうが、より物事を深く理解している状態と言えるでしょう。
このように、物事をAという視点からだけでなく、BやCやD、あるいはXやZの視点からも見ることで、対象物への理解をより深めていくことができるのです。批判的思考を磨きたいなら、まずは「建設的な問い」を持つことから始めましょう。
「それはあなたの個人的な意見なのでは?」を大事にする
情報を受け取る際、その内容を肯定的に捉えつつも、一方では「それはあなたの個人的な意見なのでは?」と問う意識が重要です。
つまり、伝え手の意見を鵜呑みにするのではなく、それが事実なのか、それとも個人的な見解にすぎないのかを見極める姿勢を持つ、ということです。
たとえば、「最近は若者の読書離れが進んでいる」という主張を読んだ際、これが書き手の個人的な見解なのか、それとも客観的な事実なのかを確かめることが大切です。
「読書離れが進んでいるという意見は、どのようなデータや根拠、視点に基づいているのか?」と問いを持つだけでも、より深い理解へと進むことができます。
言うまでもなく、「それはあなたの個人的な意見なのでは?」は、相手に向けて言う言葉ではなく、心の中でつぶやく言葉です。このつぶやきが引き金となって、脳内に「根拠がない(薄い)のでは?」というアンテナが立ち、内容を入念にチェックする意識が強まります。
盲目的に情報を受け入れるだけでは、真の読解力は養われていきません。
主体的かつ積極的に、情報を咀嚼する必要があります。
正しい評価を加えるためにも、「それはあなたの個人的な意見なのでは?」と批判的に物事を見る目を養っていきましょう。

出版社で編集者・記者を務めたのちライター&インタビュアーとして独立。27年間で3,800件以上の取材・執筆歴がある。
出版社時代に徹底した赤ペン指導を受け、文章力を飛躍的に伸ばす。現在は執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化トレーニング」「簡潔にまとめて伝える要約力」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーの作り方」など、言語化や文章術の分野で実践的なノウハウを提供している。
2016年からアクティブフォロワー数400万人の中国企業「行動派」に招聘され、北京ほか6都市で「Super Writer養成講座」を23期開催。中国国内で50名を著者デビューへと導いた。
著書にベストセラー書籍『「うまく言葉にできない」がなくなる言語化大全』(ダイヤモンド社)、『読解力は最強の知性である 頭のいい人の1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)、『思い通りに速く書ける人の文章のスゴ技BEST100』(明日香出版社)、『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』(日本実業出版社)など32冊。中国、台湾、韓国など海外でも25冊以上が翻訳されている。NHK「あさイチ」などのテレビ出演も。